ドイツまちづくりＱ＆Ａ　 Ｆプラン策定への住民参加

　ドイツの住民参加システムについては、Ｂプラン（地区計画）関係を「プラン策定と住民参加」に、Ｆプラン（土地利用計画）関係をこちらに説明しています。以下の説明は、ドルトムントが2000〜2004年に行ったＦプラン策定が中心になっています。

Ｆプランの策定手続はＢプランと同じですか。 ドルトムントのＦプラン策定は、どう準備が進められましたか。 Ｆプラン策定への住民参加は、どのように進められましたか。 Ｆプラン案に対し、どこからどのような意見が出されましたか。 提出された意見は、どの程度採用されたのでしょうか。 工場跡地の再開発などでも、Ｆプランが変更されるのですか。

• 「プラン策定と住民参加」に、Ｂプランを策定する手続として、下の図を示しました。この図は、建設法典に定められている「建設誘導プラン」、つまり「ＢプランとＦプラン」の策定手続」を示したものです。建設法典の策定手続は、ＢプランとＦプランの両方を対象にしているので、この点ではＦプランの策定手続は、基本的にＢプランと同じです。
  

• この手続の図で唯一異なるのが、左下に示している「上級官庁の認可」です。Ｂプランは、同じ自治体が策定したＦプランから「展開」（建築法典第８条第２項）され、一般的に自治体内での手続きが主体となります。一方、Ｆプランの上位計画は地域計画で、地域計画の目標に適合しなければならない（建築法典第１条第４項）点が、Ｂプランより厳しく効いてきます。また、策定に参加する公的機関や周辺自治体、そして住民の質と量も違います。だから、手順は同じでも、中味は大きく異なっており、これらの点を上級官庁がチェックします。
• 「議会」のどこが扱うのか、つまり「議会本会議」での決定が必要か、あるいは「都市計画委員会」でいいのかという点でも、違いがあります。議会の決定権限は基本的には本会議にありますが、本会議が規則を定め、委員会に委ねることが可能です。市町村で差があるでしょうが、ドルトムントの場合、Ｂプランの策定開始は都市計画委員会で決定できます。一方、Ｆプランにはそのような規定がないので、上の図の「議会」の議決や決定は、「議会本会議」で行われる必要があります。ミュルハイムのＢプラン実例でも、開始議決は「都市計画委員会」で行われていたので、ドルトムントと同じような規定があると思われます。ただ、Ｂプランの場合も、最後の「Ｂプランの決定」は、都市計画委員会ではなく市議会本会議で行われています。
• 市民がプラン策定に参加するチャンスも、基本的にはＢプランと同じ「2回」です。しかし、市全域についての土地利用を示すＦプランは重要なので、実際にはそれ以上の参加を行うケースが見られます。以下では、ドルトムントの実例について説明しましょう。（17.10.09／24.01.25更新）

• こうしてドルトムントの新Ｆプラン策定は、いよいよ参加と、そこで提出された意見を検討してプランを調整する段階に入りました。策定の主な策定経過を、策定準備の段階からまとめたのが下の表です。5年任期の市議会議員による最後の市議会本会議で可決され、州管区政府による認可を経て、2004年末の発効に漕ぎつけることができました。

  プラン策定の経過	日　程	備　考
  Ｆプラン策定の準備を行政に依頼	2000.02.03	市議会本会議
  Ｆプラン策定手続の開始を議決	2000.12.14	市議会本会議
  早期参加の対象となるＦプラン原案を承認	2002.09.26	市議会本会議
  早期住民参加の開始イベント	2003.01.22	市役所
  各区でＦプラン原案の市民説明会*	2003.02.11〜2003.03.26	市内12区*
  早期住民における意見提出を締切り	2003.07.28
  Ｆプラン案の縦覧を決定	2003.10.09	市議会本会議
  Ｆプラン案の縦覧と意見提出	2003.10.27〜2003.12.05
  縦覧結果への見解と再縦覧の実施を決定	2004.06.17	市議会本会議
  Ｆプラン案の再縦覧と意見提出	2004.07.05〜2004.07.23
  Ｆプランの議決	2004.09.23	市議会本会議
  Ｆプラン認可の告示と発効	2004.12.23	市報にも掲載

  *）その後も各地区で説明会が継続され、回数は全体で約70回に達した。

• Ｂプランと規定が共通しているので、基本的にＢプランと同じ手順で進められています。しかし、先に示したミュルハイムのＢプランと比較すると、次のような違いがあります。
  1. Ｂプランは都市計画委員会で行われていた策定開始と縦覧の議決の場が、市議会本会議に変化しています。さらに、建設法典では求められていない「Ｆプラン策定準備の依頼」や「早期参加の対象となるＦプラン原案の承認」が、本会議で行われています。
  2. 縦覧の期間は規定どおり1ヶ月ですが、その前に行われる早期参加には半年以上の期間をかけ、市内各地で説明会を実施しています。
  このように、「念を入れ、ていねいに」策定が進められていることは、Ｆプランが市全域の土地利用計画として重要な存在であることを反映したものです。
• 2003年1月22日に行われた早期参加の開始イベントで、市長は、市が示したプランは「決して固定された構想ではなく、むしろ広い参加を必要とし、それによって初めて計画に勇気と魂が与えられる」と、市民に呼びかけています。また、都市計画の責任者ジーラウは、「他の都市にはないような波を作り出したい」と、2月と3月をかけ、全ての区で新Ｆプランについて説明会を行うことを発表しています。
• 市民への説明で大きな効果を発揮したのが、区別に作成された InSEKt（区レベルの総合発展構想）で、プランとその説明書で構成されています。2003年初めに冊子としてまとめられ、配布されました。ページ数は区によって異なりますが、50ページ前後で、200ページ前後あるＦプランの説明書に比べ、かなり手軽になっています。これらの効果で、早期参加では、全体で1,400件もの意見・提案が提出されたと報道されています。もちろん、その後の縦覧時も、多数の意見が出されています。
• 新Ｆプランは、こうして約5年をかけて策定されました。「途中に市議会選挙が挟まることなく、同一メンバーの議会で策定できることは珍しい、周囲からも関心を持たれている」、と担当者は話されていました。実は、1985年に発効した旧Ｆプランは策定に8年かかっており、策定の途中で市議会選挙があるのが普通だそうです。
• 同じルール地方のデュイスブルクの場合は、市長のリコールが行われたため、非常に長期を要しています。2012年に新Ｆプランを発効させることを目ざし、2008年に準備として「デュイスブルク2027」に取り組まれました、Ｆプランの有効期間を15年とみなし、2012年の15年後である2027年のビジョンを求めたわけです。ところが、2010年にラブパレード事件が起き、市長不信が広がったため、Ｆプラン策定どころではなくなってしまいました。市長のリコールを経て、ようやく2012年に新市長の下で作業が再開されました。その後も手続きに期間を要し、再開から10年以上が経過した2023年に、ようやくプラン縦覧にたどり着いています。このデュイスブルクの例のように迷走することも、かなり珍しいそうです。（17.04.18／24.01.25更新）

• 上で扱ったドルトムントの2004年Ｆプラン策定につき、説明します。まず早期参加ですが、約200の個人や団体から提出された意見のポイントは、細かく分けると約1,400に上りましたが、その結果が市議会に報告された際は、1,034件にまとめられていました。なかには同じ意見もあり、意見の種類ごとにまとめると618種類になります。その中には、「住宅用地が広すぎる」とか、「環境保護をたかめるべきだ」といった、具体的な対象用地のない抽象的な意見もあり、この抽象的な意見を除くと580件になります。
• その580件につき、意見の目ざす方向を8つに分けて提出者別に示すと、次の表になります。表の「公益代表機関」とは、この図に「公的機関や」と記しているもので、周辺自治体と共に、以前から早い段階でプラン案を知り、意見を出すことができました。教会や商工団体など、日本ではプラン策定にあまり関係しないと思われるところも、建設法典に記されている公益に関係するので、プラン案への意見を聞かれていたわけです。

  早期参加意見の提出者と目ざす方向

  意見提出者		件数	自然化	維持	施設維持	農地維持	開発	同等別	形式	その他
  公 益 代 表 機 関	景域関連	146	26.0%	71.2%	−	−	−	2.1%	−	0.7%
  	森林局	44	−	−	−	−	−	18.2%	81.8%	−
  	交通関連	33	6.1%	6.1%	15.2%	−	30.3%	24.2%	12.1%	6.1%
  	エムシャー	29	−	−	−	−	6.9%	6.9%	86.2%	−
  	教　会	49	−	−	4.1%	24.5%	51.0%	16.3%	4.1%	−
  	商工団体	14	−	−	42.9%	−	21.4%	28.6%	7.1%	−
  	その他	40	−	5.0%	12.5%	−	12.5%	10.0%	60.0%	−
  周辺自治体		8	−	12.5%	−	−	25.0%	37.5%	12.5%	12.5%
  市 民 等		180	7.2%	17.8%	1.7%	8.9%	31.1%	11.7%	9.4%	12.2%
  市民と景域関連		37	5.4%	94.6%	−	−	−	−	−	−
  合　計		580	9.5%	30.5%	3.6%	4.8%	17.8%	10.5%	18.8%	4.5%

  景域関連には、環境保全を目ざすNPOである「ドイツ環境自然保護連盟」を含む。
  エムシャーは、複数の自治体によって構成された下水・河川関連の事務組合である。

  意見の目ざす方向は、次のように分けています。
  • 自然化：農地、森林や跡地を、さらに自然化することを目ざす。
  • 維　持：現在の土地利用の維持を求めるもので、大半が農地の宅地化への反対である。
  • 施設維持：現存する施設に適合した表示を求める。
  • 農地維持：現農地が森林や緑地と表示されているので、農地の表示を求める。
  • 開　発：宅地化や道路建設など、開発を目ざす。
  • 同等別：利用度が同等の別の土地利用を目ざす。
  • 形　式：将来の土地利用にはほとんど影響がないと思われる形式的な意見である。
  • その他：以上の７種類に分類できない意見である。
• 提出意見が目ざす方向は、提出者によって特徴があります。森林局とエムシャーは「形式」が多くみられますが、これは現に樹木が生育している用地を「緑地」でなく「森林」と示し、現に流れている小川を表示するように求めるものです。用地利用の実質的な変更を求めるものではなく、意見の多くが採用されています。実際に利用の変更を意図した意見を多く提出しているのが教会で、意見の半数が「開発」になっています。これは教会の利用者が減少しているために収入が減少し、教会関係施設の統廃合が避けられない状況にあることが関係しており、住宅地への転換を求める意見が多く、対象用地が狭いのが特徴です。大半の意見は不採用となっていますが、だからといって縦覧時にさらに意見を提出している例はわずかしかありません。（17.04.18／24.01.27更新）

• それらの提出意見は、どの程度が新Ｆプランに採用されたのでしょうか。早期参加で提出された具体的意見580種類（1,034件）と、縦覧で提出された具体的意見409種類（717件）についてまとめて表に示すと、次のようになります。早期参加で1/4もの意見が採用されていることは、原案の修正がほとんどない日本の状況を考えると、驚きではないでしょうか。

  意見への対応

  時期	意見に 沿って 修正	意見に 沿って いる	一部修正				意見は 不採用	別の 手続で 検討
  			範囲の一 部を修正	マーク で示す	説明書に 述べる	その他 の修正
  早期参加	25.7%	6.4%	8.3%	1.0%	1.2%	3.4%	53.6%	0.3%
  縦　覧	15.4%	13.9%	3.2%	4.9%	1.0%	−	58.0%	3.4%

• 上の表によると、案は「意見に沿っている」というケースもかなり見られます。とくに縦覧の場合、環境保全を目ざすNPOである「ドイツ環境自然保護連盟」などが提出した意見は、1/4がこう判断されていていました。もちろん、プランの表示を誤解した意見提出もあるだろうと思います。しかし、「ドイツ環境自然保護連盟」がこれほど多く誤まってしまうとは考えられません。誤解ではなく、「現在の案に対して修正意見が出され、望ましくない方向へ修正されてしまうのを防ごう」という予防的な意見提出である、と考えられます。
• こうしてまとめられたＦプラン案は、2004年9月23日の市議会本会議で可決されました。市議会各派は、複雑な計画プロセスを進め、市民に多くの参加機会を提供したと、プラン策定を進めた行政を賞賛しつつも、プランの内容に完全には満足していず、市への責任から妥協した部分があることにも言及しています。新プランは2004年12月17日に上級官庁のアルンスベルク州管区政府に認可され、これをドルトムント市が2004年12月23日に告示し、発効しました。新Ｆプランは、縮小してこのページに示しています。
• 以上のドルトムントの2004年Ｆプラン策定経過の説明は、科学研究費補助金を獲得して研究した成果の一部です。2007年に発行した「研究成果報告書」のpdfを福島大学附属図書館のリポジトリに置いていますので、詳しく知りたい方はご覧ください。なお、手早く結論だけ知りたいという方は、科学研究費データベースをご覧になる方法もあります。（17.04.18／24.01.27更新）

  ドルトムントのFプラン策定時に提出された意見の扱いと公共性に関する研究（福島大学学術機関リポジトリ）

• ドイツのＢプランによる規制は、日本よりも厳しい面があります。工場跡地の再開発では、道路などのインフラを扱う場合や、用途が住宅や商業・サービス業に転換する場合も少なくないので、Ｆプランに関係が出て来るので、跡地再開発のＢプラン策定と同時に、Ｆプラン変更が必要になるのが普通です。規模が大きくなると、Ｆプラン変更なしには再開発はできないと考えた方がいいでしょう。
• 進出したい企業が出てきた場合、税収や雇用へのプラスがあるので、市町村は基本的に歓迎です。企業の意図に応じてＦプラン変更やＢプランの策定・変更を行うことは、ドイツでごく普通に行われています。「大型店と商店街」に紹介しているオーバーハウゼンの「ツェントロ」の場合も、「まず進出希望ありき」でした。このケースでは、市町村を超えた広域を対象とする地方発展プランで、予定地の工業跡地が工業系になっていたので、Ｆプラン変更に先立ち、地方発展プランを居住区域に変更する必要がありました。
• ドルトムントには、炭田跡地に大型店を誘致するためのＢプランが、進出予定企業が提供したデータだけを根拠にプランが策定された部分が多く問題だとして、裁判で無効となった例があります。その後、市は裁判で問題と指摘された点を修正し、売場面積を千平米程度だけ削って、再び大型店を誘致するためのＢプランを策定しています。ドイツのＦプラン・Ｂプランのシステムが、よく "Auffangungsplanung"（受け止め計画）だと批判されることがあるのは、このような事情によるものです。ドイツは、もっぱら「市町村が事前に定めている土地利用計画に沿って開発が進められている」国ではありません。確かにそのようなケースもありますが、企業の意図に振り回される場合もあり、いろいろです。
• 工場跡地の開発でＦプランが変更される場合や、Ｂプランが策定される場合は、もちろん住民参加が行われます。住民が進出企業の意図に反対する場合もありますが、成果を得るのはなかなか困難です。少ない成功例のひとつが、デュイスブルクのアウトレットセンター進出に対する住民投票だと思います。住民投票の結果を受け、デュイスブルクはＦプラン変更とＢプラン策定の作業を中止しました。（99.07.04／17.10.09更新）