2004年末に発効したドルトムントのFプラン。「ドルトムントのFプラン策定時に提出された意見の扱いと公共性に関する研究」(科学研究費補助金研究成果報告書、2007年、福島大学学術機関リポジトリに収録)に転載したものを縮小。 |
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Fプラン(ドイツ) | マスタープラン(日本) | |
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プランの策定主体 | 市町村 | 市町村 |
策定への住民参加 | 早期参加および縦覧手続 | 公聴会等、市町村の創意工夫 |
議会の議決 | 必要 | 不要(審議会の議を経る) |
プランの拘束範囲 | 策定に参画した行政部門(特に、Bプラン策定を拘束) | 市町村が定める都市計画 |
上級官庁の監督 | 策定手続きと内容の合法性に限り上級官庁が審査を行う | 都道府県に通知するのみでよい |
上位計画 | 地域計画の目標(州発展計画や地方計画など) | 整備、開発又は保全の方針、および市町村の基本構想 |
プランの形態 | 図面に説明書(2004年改正で「理由書」に変更)が附属する | 本文と附属図面からなる |
プランの対象区域(対象区域の一部除外) | 市町村全域を原則として1枚の図に示す(対象区域の一部を除外可能) | 都市計画区域のみで、全体構想と地域別構想から成る(区域除外に関する規定なし) |
プランに含むべき内容 | 法律の規定に従って市町村が個別に判断するが、一部を除外することも可能 | 通達に一定の事項が示されているが、法律には規定がない |
用途・形態規定の表示方法 | 用途はBプランより概括的なものが主体で、容積率は示さない例が多い | 市町村に委ねられているが、住民にわかりやすく提示することが求められている |
他計画との関係 | 交通計画、学校発展計画や景域プランがあれば、原則としてそれに従う | 他計画を具体化・詳細化して施策を体系化することが望まれている |
隣接市町村のプランとの調整 | プランの策定に参画し、調整を行うことが規定されている | 通達に調整を行うことが示されているが、法律には規定がない |
現行の拘束的規定と異なる内容の可能性 | 準備的計画なので、既存Bプランと異なる内容も可能 | 具体性ある将来ビジョンであり、現行規定に拘束されない |
プランの変更 | 全面見直しは10〜20年程度で行われるが、小規模な変更は随時(主にBプラン策定時で、年に数回は行われるケースが多い) | 特に規定はないが、数年から十数年の経過で変更されると思われる |
年 | 対象法令 | 概 要 | No. |
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1960 | 連邦建設法(BBauG)を制定 | 都市計画の一般法として成立 | (1) |
1962 | 建築利用令1962(BauNVO1962) | 用途・形態規定の基本規定 | (2) |
1968 | 建築利用令1968(BauNVO1968) | (3) | |
1971 | 都市建設促進法(StBauFG)を制定 | 都市再開発と新開発の特別法 | |
1976 | 連邦建設法の大改正 | 都市建設促進法を取り入れ能動化 | (4) |
1977 | 建築利用令1977(BauNVO1977) | ||
1979 | 連邦建設法の改正 | 迅速化改正と呼ばれる | (5) |
1986 | 建設法典(BauGB)を制定 | 連邦建設法と都市建設促進法を統合 | (6) |
1990 | 建築利用令1990(BauNVO1990) | ||
〃 | 建設法典措置法を制定 | 住宅建設の促進へ5年間の時限立法 | |
〃 | 東ドイツが建設計画および許可令(BauZVO)を制定 | 東の実状に応じた柔軟な手法を含む | (7) |
〃 | [東西ドイツの統一] | ||
1993 | 投資促進のため建設・環境関連法を改正 | 制度の柔軟・迅速化を図り、建設法典措置法の有効期間も延長 |
表の右端に示した(1)から(7)の番号は、都市計画制度の変遷のなかでFプランのあり方にとって重要なポイントを示しています。そこで、これらの点について説明しましょう。
(2)建築利用令は、FプランやBプランにおいて、建築的利用の用途や密度をどのような方法でどこまで定め得るかを示したものです。1962年に初めて定められた建築利用令は、主にFプランで示す用途区域(Bauflaeche)とBプランで指定する用途地区(Baugebiet)の対応関係を制限し、組み合わせを限定していました。例えばFプランで住居区域を表示した場合、Bプランで指定できる用途地区は菜園住居、純住居、一般住居に限られます。
(3)準備的計画であるFプランの段階と異なり、拘束的計画のBプランの段階では様々な細かい点を考慮する必要が生じます。例えば、Fプランで住居区域としていた区域の一部に工場と住宅が混在した地区があり、工場経営のために混合地区の指定が必要となる場合も生じるでしょう。このような場合、1962年の建築利用令ではFプランの住居区域を混合区域に変更することが必要で、煩雑でした。このような事態を避けるため、1968年の建築利用令は用途区域と用途地区の関係を緩めました。この結果、Fプランの住居区域の一部にBプランで混合地区を指定することが可能となり、プランの柔軟性が向上しました。
(4)70年代前半にドイツでは都市発展計画(市町村の総合計画)が普及しました。これを受け、1976年の連邦建設法改正は、都市発展計画がある場合は、それを考慮してプランを作成することを定めました。同時に、都市発展計画を変更した場合はFプランへの影響を考慮し、またFプランに都市発展計画に沿わない点がある場合には理由を説明することを求めています。この改正は、結果的にFプラン策定への制約を大きくしました。
(5)Fプランの柔軟化のもうひとつの方法は、修正を容易にすることです。Fプランの表示に適合しないBプランを定めようとする場合、Bプラン策定と同時にFプランを変更することが従来から行われていましたが、法律に手続きが明示されていないため、合法性について疑問が出されていました。そこで、1979年の改正はBプラン策定と同時にFプランを変更できることを明示し、その際の認可と告示の方法を示しました(建設法典第8条第3項として継続)。ところで、Fプランは市町村全域にわたって土地利用の計画を示すものであるため、関連する行政部門も多くなります。このため、ある部分に関して、関係する部門の計画がまだ決定していなかったり、他部門の見解と相違するため、調整の困難な場合も生じます。かといって、調整がつくまでプランの策定を中断することも問題です。そこで、このような場合について、除外部分がプランの他の部分に影響を及ぼさないことを条件に、市町村の申請によって空間的または内容的な一部分を除外してプランを認可できることとし、プラン策定への負担を軽減しました。この規定は、建設法典第6条第3項として市町村の申請が不要になった形で受け継がれています。
(6)建設法典は、2つの点でFプランの策定を容易にしました。まず、1976年の改正で追加された都市発展計画を考慮する義務を削除しました。プラン策定時には様々な利害を考慮すべき事が規定されているから、都市発展計画を考慮することを規定するまでのことはないというのが理由で、この変更はプラン策定時の検討の負担を減らし、手続迅速化に寄与するものです。同時に、1979年の改正を一歩進め、Fプランに調整の困難な部分がある場合は、当初からその部分を除外してプランを策定することを認めました(建設法典第5条第1項)。もちろん、市町村全域にわたって土地利用の計画を示すというFプランの任務は不変で、除外した部分の表示が可能になり次第、決定する必要があります。
(7)東西ドイツ統一の動きは、都市計画制度にも大きな影響を与えました。東ドイツでは、建設法典を適用する準備として「建設計画および許可令(BauZVO)」が制定されましたが、都市計画行政の蓄積が少なく、市町村の規模も小さいので、建設法典に比較してかなり柔軟な手法も導入されていました。Fプランについて重要な点は、空間的な部分、あるいは内容的な部分のみを対象とした部分Fプランが認められたことで、市町村がその状況に応じてFプランを徐々に策定していくことを可能としました。この制度は、旧東ドイツの市町村のプラン策定の負担を大きく軽減するものとして好感をもって受け入れらています。なお、「建設計画および許可令」のうち建設法典と大きく異なる部分は、東西ドイツの統一に際し「経過規定」としてほぼそのまま建設法典に取り入れられており、部分Fプランも旧東ドイツ区域について1997年末まで認められることとなっています。
Fプランの変遷をみていくと、発足したばかりの市町村マスタープランが背負っている課題の大きさがわかります。わが国ではドイツと比較して市町村に与えられている権限は小さく、上位計画の制約が大きいにもかかわらず、大きな成果を期待されているように思えます。そのドイツでも、都市発展計画をFプランの上位計画とする問題のように、一旦行った改正を以前に復した例もあります。わが国のマスタープランを育てていくには、行政と研究者の大きな努力が必要です。インターネットも活用し、誕生したばかりのマスタープランを育てていきましょう。
上記の説明は、日本にマスタープランが登場した時代の都道府県と市町村の関係を念頭に記したものです。しかし、2011年の「地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」による都市計画法第19条第3項の改正により、市の都市計画権限が2012年4月1日から大きく拡張され、ドイツの市と比較しても強大になりました。果たして市は、この権限を活用し、「住みやすいまちづくり」を促進する方向へ進めるでしょうか。私は、「運用によっては、都道府県による都市計画区域の整備、開発及び保全の方針(いわゆる「都市計画区域マスタープラン」)はもちろん、区域区分(線引き)の権限まで空洞化しかねない」と、不安の混じった目で眺めております。(2020.12.03追記)