法案ミスで生まれた 市街化区域農地の「農地に準じた課税」 |
---|
生産緑地への質問主意書へ進む /
![]() |
このページは、一般の市街化区域農地に課せられている重税「農地に準じた課税」が、国民や国会議員が知らないまま法案ミスで誕生したことを説明するために作成したもので、わかりやすいように「Q&A形式」にしています。ミスにもいろいろあるでしょうが、これは「大きな実害がある法案ミス」です。
農地に対する固定資産税・都市計画税のあり方はまちづくりに重要で、とくに都市農業の場でもある市街化区域に影響します。金額的に大きいのが固定資産税で、農林水産省のホームページにも説明されており [外部リンク]、次の表にまとめられます。
農地課税の3種類 *)生産緑地地区に指定された農地は、一般農地と同じ課税となる。
農地の種類 評 価 課 税 一般農地 農地評価 農地課税 市街化区域農地*) 一般の市街化区域農地 宅地並み評価 農地に準じた課税 三大都市圏の特定市街化区域農地 宅地並み評価 宅地並み課税 「農地に準じた課税」という用語は、課税開始から20年ほど経過した頃に出てきたものです。「農地課税に近い」と感じられそうですが、そうではありません。評価が宅地並みである以上、期間はかかっても最後は「宅地並み課税」と同じ税額になります(実は、誕生時は「宅地並み課税」の倍でした)。説明なく「高い税金を課す」状況が始まった結果、納税する多数の農家が重税に苦しんでいるのは当然ですが、それだけではありません。「意図せずに生まれた税金」なので、課税の効果が政策面で無視され、下図のように都市政策に歪みをもたらしています。
農地に準じた課税の副作用 ![]()
- 香川県坂出市は、市の発展を目ざし、土地区画整理事業で市街化区域を拡張しようとしましたが、増税を心配する農家に拒否されます。そこで、方針を転換して「線引き廃止」を追求し、香川県から「線引き都市」が全て消える結果となりました。
- 納税で生活が苦しい農家の対策の一つが、所有する市街化区域農地にアパートを建設し、家賃収入を得ることです。こうして多数の農家がアパートを建設するため、重回帰分析で市街化区域農地が多い県ほど賃貸住宅の空き家率が高い傾向が見いだせました。
- 生活が苦しい農家のもう一つの対策が、農地を売却することです。農業には打撃でしょうが、農地が狭くなるので納税額も縮小できます。重回帰分析から、税額の高さが地価低下を生み、回りまわって空き家を増産していると考えられることも明らかになりました。
- 国土交通省は、人口減少時代に対応したコンパクト都市実現のため、「立地適正化計画」[外部リンク]を策定し、宅地化を「居住誘導区域」へ集中させようと考えていますが、農地の課税状況は無視しています。登場した当時はともかく、「農地に準じた課税」は現在では「宅地化への強力なアクセル」になっており、これを無視して計画がスムーズに進むとは思えません。
交通事故のニュースで、よく「ブレーキとアクセルを踏み間違えた」という話しを聞きます。現在の地方都市のまちづくりを運転にたとえると、「宅地化促進へのアクセルを強く踏み込んでいることを知らないまま運転している」と言えるでしょう。まちづくりで最近よく話題になる「市街地のスポンジ化」にも、この税金が影響していると思われます。
宅地並み評価で農地に準じて課税とは、どんな方法ですか |
---|
「農地に準じた課税」の何が問題なのですか |
---|
国会議員が知らなかったという根拠があるのですか |
---|
本当に1976年度に増税が開始されたのですか |
---|
農地課税と農地に準じた課税 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
注)税額は千平米あたりで、青色(%)は前年に対する伸び率。 |
生産緑地地区に関する質問主意書への答弁(2013年6月18日)で、内閣も「法文上明らか」として、1976年度の増税開始と、それが現行法まで継続していることを認めました !
三大都市圏特定市の宅地並み課税は順調に進んでいましたか |
---|
いつどのようにして問題に気づいたのですか |
---|
密かに実施された重大な変更とは何ですか |
---|
その後の国会ではどう取り上げられていますか |
---|
各地の農家はどう動いてきたのでしょうか |
---|
他にもこのような法案ミスがあるのでしょうか |
---|
「農地に準じた課税」に関する質問主意書 |
---|
結果的に・・・しかし最大の問題は・・・ |
---|
以上のように、「農地に準じた課税」は、評価が「宅地並み」である以上、異なるのは「経過措置」だけで、最終税額は三大都市圏の「宅地並み課税」と同じです。「小規模住宅用地」の特例がある住宅地と比較し、面積あたりの税額がほぼ2倍と重い点も、「宅地並み課税」と同じです。
農地課税3種類の真実 *)「小規模住宅用地」を基準にすると、「宅地の倍額課税」となる。
農地の種類 課 税 経過措置 一般農地 農地課税 農地(附則第19条) 市街化区域農地 一般の市街化区域農地 宅地並み課税*) 農地(附則第19条) 三大都市圏の特定市街化区域農地 宅地並み課税*) 附則第19条の3 ところが、誕生時に「課税の適正化措置」になることが見落とされたことが災いし、増税への対策が行われないまま放置され、三大都市圏の特定市街化区域農地に与えられている対処が、ほとんど利用されていません。こうして一般市街化区域農地を所有する農家は、政治の谷間で苦しんでいます。
生産緑地に関する質問主意書の後、ようやく都市計画運用指針が改正され、一般市街化区域農地でも生産緑地の指定が公認されました。しかし、運用実態を見ると、活用している都市の数も、各市における指定面積も、まだ僅かです。
もうひとつ気になることが、憲法との関係です。農地を宅地並みに評価すると、農業収入からかけ離れた尺度を基礎に課税することとなります。租税の憲法原理が類似するドイツでは、農地の宅地化促進のため増税が行われましたが、「違憲の疑い」が拭えないとして数年で廃止されました。これに関し、国会における固定資産税の審議を検討し、連邦憲法裁判所判決とも比較して、「固定資産税の法的性格と国会審議の検討 − ドイツ連邦憲法裁判所による財産税判決との比較」にまとめました(2011年6月発行の福島大学人間発達文化学類論集第13号に掲載)。関心ある方は、福島大学学術機関リポジトリのここからご覧ください。