固定資産税優遇と空き家課税 トップへ戻る
住宅用地優遇税制の背景/固定資産税額「6倍」は不正確

 最近、空き家に対する固定資産税の優遇が注目を集めています。以前から話題となってた問題ですが、2014年7月29日に発表された「2013年住宅・土地統計調査」の結果、総住宅数に占める空き家の割合が13.5%に増加したことを背景に、空家増加への対策として、税制の見直しも議論されています。
 税制の検討を伝える新聞記事で、現行の「住宅が建っていれば土地の固定資産税を6分の1に軽減する」制度について、「高度成長期の1973年に農地などの宅地化を進めるために導入された」、あるいは「住宅建設を促進するために導入された」などと、見当違いの説明が行われていることには、驚きました。それに、この「1/6特例が消え」ても、税額が「6倍」になるわけではありません。税制改正を考える際には、現行制度の背景と内容をしっかり理解してほしいと考え、戦後の経過を説明しようと考えました。
(2014.08.03/2016.08.14更新)

内 容 一 覧

シャウプ税制による固定資産税の登場

 現行の固定資産税は、戦後1949年に日本を訪問して調査した結果を基礎にまとめられたシャウプ勧告(第一次報告書)の第12章「不動産税(地租・家屋税)」を基礎として登場しています。

 戦前からの最も大きな変更点は、戦前の地租・家屋税は賃貸価格を基礎に課税していたのに対し、資本価格を課税標準にするように提案したことです。この背景には、戦争遂行のために地代家賃統制令が実施されていた状況のまま戦後インフレーションが進行したため、税収確保のために常識では考えられない高い税率(1948年には地租200%、家屋税250%、翌1949年には地租・家屋税とも500%)が適用され、それでも税収不足に悩んでいた、という実態があります。

 固定資産税が誕生した1950年当時は、全国的に住宅が不足し、直ちに地代家賃統制令を全面撤廃できる状態ではありませんでした。この状況で地方の税収を確保するため、賃貸価格ではなく、資本価格に対して課税することが打ち出されたものだと考えられます。

 固定資産税の税率ですが、シャウプ勧告は1.75%を提案しました。しかし、国会審議の過程で税額の高さが問題になり、最終的に標準税率1.6%で開始しました。その4年後に、市町村税収の一部を府県に移すため、不動産取得税を府県税として新設すると同時に、固定資産税の標準税率が1.4%に低減され、現在の姿となっています。

地価高騰と生存権的財産論

 こうして誕生した固定資産税ですが、その後の日本経済復興により、「税負担の増加」という悩みを抱えることになります。課税対象となる固定資産の価格は,地方税法にある「適正な時価」ですが、地価上昇に応じて引きあげると経済への影響が大きいとして、固定資産税を管轄する自治省が低めの引き上げ率を指示したため、時価との格差が拡大していき、問題とされました。そこで、売買実例に関する全国的な調査を行い、その結果を基礎に1964年から土地の評価を大幅に引き上げることとなります。全国的にみて農地は1.2〜1.4倍、宅地は6〜7倍になるので、税額への反映が難問です。

 もともと評価の見直しは増税を意図したものではなく、地価とのバランスが目標なので、1964年の地方税法改正で「負担調整措置」が登場します。これは、「地価が何倍になっても、固定資産税は前年の2割増に抑える」という一時しのぎの策ですが、数年間は息をつくことができるでしょう(年2割増でも、3年後には税額が約1.7倍、6年後には約3.0倍になってしまいますが)

 こうして、大都市を中心として地価上昇によって庶民住宅の固定資産税負担が重くなり、社会問題となっていきました。学界において、現に居住の用に供している土地は「生存的財産」であり、地価が上昇したとして評価基準を引き上げることは問題だとする主張が理解を広げていったのも、この時代のことです。

 すでに1964年の時点で、税制調査会は、「宅地と国民生活の密接な関連性を勘案すれば、宅地価格の上昇を直ちに税負担に結びつけることには問題がある」として、固定資産税に関して「課税の特例を設ける等の措置により、その負担の合理的調整を図るべきである」と認め、税率の引き下げや土地の課税標準の特例について検討することが適当だと答申を出していました。しかし、政府は直ちには負担軽減に動きませんでした。

住宅用地への課税標準特例の登場

 固定資産税課税のための評価は、3年毎に行われています。1964年に大幅に評価が引き上げられた後、1967年の評価替えは見送られますが、1970年の評価替えでさらに増税となり、「負担調整措置」による増税の最高比率として「前年の4割増」も登場します(4割増の場合、3年後には税額が約2.7倍、6年後には約7.5倍になります)

 その3年後の1973年にも再び評価替えが行われることとなりますが、この時点で、政府も「このまま増税を放置することはできない」と考えたようです。そして、まず1973年に、「住宅用地に課する固定資産税の課税標準二分の一の額とする」という恒久的な負担軽減策が登場します。1973年の新評価額によると、税額は全国平均でさらに約3.3倍になると予測されましたが、課税標準を半分にすると1.6〜1.7倍で止まります。つまり、増税を弱めよう、というのが特例の考え方でした。

 翌1974年には、追加的に「小規模住宅用地の特例」が登場します。これは、「住宅一戸あたり200uまでの面積にかかる固定資産税について課税標準を四分の一の額とする」というものです。200uの根拠は,住宅統計調査等による都市部の住宅の平均敷地面積が199uであったことで、「住宅用地として最低限度必要なものについて減税をする」という観点から、全国平均値の290uは採用されていません。

 この結果、1973年を規準に考えると、敷地が200u未満の場合は平均「3.3倍×1/4」で0.8倍強と、若干の減税になります。「この負担軽減で税額が減少から増加に転じる敷地規模はいくらか」と計算したところ、255u前後が分岐点となりました。全国平均値である290uの敷地では、特例の登場により、3.3倍の評価替えがあっても1割弱の増税で済みます。


 空き家との関連で話題になる「住宅用地は三分の一、うち200uまでは六分の一」という現行の優遇制度が登場したのは、さらに20年が経過した1993年で、1994年から実施されています。背景にあるのは、1990年前後の異常な地価高騰のなかで、「地価引き下げ」を目ざして土地保有税を強化する一環として、土地基本法第16条に沿い、「一物四価」とも言われていた地価に関する公的な価格を地価公示価格を基礎に統一しようという動きです(この方針は、1991年1月の「総合土地政策推進要綱」で、「地価税」創設と共に閣議決定されています)。固定資産税の地価評価は公示地価の7割にされましたが、従来と比較すると評価が全国平均で約3倍にもなるため、さらに優遇を強化して増税を低減しようとしたものです。

 評価が3倍になるのに、「二分の一を三分の一、四分の一を六分の一」にするだけなので、平均的には「二倍」の増税となります。幸い、バブルの崩壊により、地価はその後下落へと向かいました。おかげで、「評価統一の影響で、庶民が固定資産税の増税に苦しんでいる」という話しを耳にすることは、ほとんどありませんでした。


「1/6特例が消え」ても「6倍」にはならない

 住宅を取り壊して更地にすると、「住宅用地は三分の一、うち200uまでは六分の一」の特例がなくなります。これだけを聞くと、小規模な敷地の場合は「固定資産税が6倍」になり、敷地のうち200uを超える部分は「固定資産税が3倍」になるように感じられますが、それは誤解です。6倍や3倍にならないことには、3つの理由があります。

  1. 第一の理由は、住宅が取り壊される結果、家屋の固定資産税がゼロになることです。取り壊される住宅は老朽化が進んでいるのが通例なので、評価はあまり高くないかもしれませんが、これまで求められていた家屋への固定資産税がなくなることは事実です。
  2. 第二の理由は、「住宅用地の優遇はなくなるが、今度は非住宅用地(商業地等)に対する優遇措置が適用される」ことです。この宅地等に関する特例規定は地方税法の附則第十八条にあり、とても複雑です。バブルで高騰した地価が下落することに対処するため、1990年代に出てきた方式なので、いつまで継続するかわかりませんが、現在は「評価額の7割まで」となっています(地方税法附則第十八条第六項)。土地への「1/6特例が70%特例になる」と考えると、税額は約4.2倍になります。
  3. 実は、土地への税額が一度に4倍強になることもありません。税額の急激な変動を防ぐために、「負担調整」という制度があるからです(地方税法附則第十八条第一項)。宅地の負担調整は、2006年度から、税額を「毎年、最終税額の5%ずつ加算する」方式に変更されています。だから、土地への固定資産税額が4.2倍になるとしても、その税額に達するのには10年以上の年数が必要になります。
 以上の3点のうち、2番目と3番目の規定は地方税法附則第十八条にあり、この規定は3年毎に改正されています。現行規定は「平成二十七年度から平成二十九年度までの特例」なので、2017年度で終了し、2018年度に同じ内容で継続される保証はありません。ただ、これまでの経緯から考え、急に「調整ゼロ」になることはなく、何らかの調整措置は続くと思われます。
 なお、都市計画税を徴収している市町村では、同時にその特例措置がなくなることも税額に影響しますので、そちらの方も考えねばなりません。住宅用地に対する都市計画税の特例は固定資産税の特例の半分なので、住宅取り壊しによる増税は少なめになるはずです。
固定資産税の基本問題:財産税か収益税か

 固定資産税の税額を論じる際に、避けて通れない問題が、「この税金は、土地建物という財産そのものに対する税金か、あるいは、そのような土地建物を所有することに相当する収益に対する税金か」という問題です。かつては、収益税的な面を無視できないとして、「収益税的財産税」と説明するのが通例でした。たとえば昭和48年3月6日の衆議院地方行政委員会で、自治省税務局長が、「資産自体が持つ収益性、通常現在の経済社会において有効に利用されております場合に生むであろう収益のうちから一部税負担をしてもらう、そういう趣旨の収益税的な性格を持つもの」と答弁しています。

 しかし、最近では、「戦前の土地家屋税は収益に対する税金だった(課税標準が賃貸価格でした)が、シャウプ勧告によって課税標準が資本価格に転換された結果として財産に対する税金に変わった」という考えが主流になっているようです。この背景にあるのが、「市街化区域農地の宅地なみ課税」です。「収益以上の税金を徴収することで、農地の宅地化を進めよう」、という農地への宅地なみ課税は、収益税説では説明できません。この問題を裁判で争った方がいないか調べましたが、正面からこの論点に取り組んだ訴訟は見出せませんでした。

 国会における固定資産税の審議を検討し、ドイツの憲法裁判所の判決を読んだ私は、「収益税」と考えるべきだと考えています。詳しくは、「固定資産税の法的性格と国会審議の検討 − ドイツ連邦憲法裁判所による財産税判決との比較」という論文にまとめており、ドイツで農地の宅地化促進のため増税が行われたものの、「違憲の疑い」が拭えないとして数年で廃止されたことも紹介しています(2011年6月発行の福島大学人間発達文化学類論集第13号に掲載)。興味のある方は、福島大学学術機関リポジトリのここからご覧ください(リンク切れになっている場合は、「福島大学学術機関リポジトリ」から検索できるはずです)

 ドイツ連邦憲法裁判所は、一定以上の財産を有す国民に対して財産評価額の0.5%の納税を毎年求めていたドイツ財産税に関し、「課税は財産による収益可能性によって限界づけられる」と示しています。「そうでない場合は、財産への課税が、結果的に段階的な没収」になるということですが、この考えに共感していただけるでしょうか。多分、「財産を所有していることだけを理由に納税を求めると、その財産の処分を要求することになり、問題だ」ということだろうと思います。多額の預貯金があっても、利子にしか税金がかからないことを思うと、たしかに不平等です。

「贈与税」・「相続税」との比較

 「財産税」というと、「贈与税」や「相続税」がイメージされることと思います。国会でもこの両税を引き合いに出し、固定資産税は土地建物という財産に対する「個別財産税」だと説明して理解を求める場面が見られます。しかし、この議論は、「贈与税」・「相続税」と、「固定資産税」の間にある重要な違いを見落としていますので、その点を説明しておきたいと思います。

 「贈与税」も「相続税」も、財産を受け取った人が、その増加した財産の一部を納付するという税金です。現金で納税できない場合、受け取った土地建物をそのまま物納したり、処分して現金化して一部を納税することも出てくることでしょう。しかし、物納や処分して納税されるとしても、それはあくまでも「受け取って増加した財産」なので、(税率が100%に満たないため)結果的に納税者の財産は増加します。

 一方、「固定資産税」の場合は、財産が増加するわけでもないのに、所有する不動産に対して納税が求められます。この結果、納税額だけ「財産が減少」します。物納はできないので、納税する現金がない場合は土地建物の一部を処分しなければならなくなり、生活を継続できるかが問題になる場合も出て来る可能性があります。

 さらに、負債を考慮するかどうかでも、違いがあります。相続の際は、故人が有していて引き継がれる負債を差し引いて課税されますが、固定資産税では、課税される不動産を担保とする負債があっても考慮されません。つまり、固定資産税の税額は、課税対象不動産を処分した際に手許に残る財産の多少で決まる仕組みにはなっていません

 このように、「贈与税」・「相続税」と、固定資産税は、性格的に全く異なる税金です。もし「固定資産税」が「贈与税」「相続税」と同じ意味で「財産税」なのであれば、毎年のように納税を求めるのは止めるべきでしょう。せいぜい、「地価の高騰」で評価額が増加した年に、その評価額の増額に相当した納税を求めるだけにすべきです。もちろん、地価が安定している場合は財産が増えないので課税できず、地価下落時には税金の返納が検討課題となります。

検討すべき問題の広がり

 空家に関する固定資産税を考える際には、同時に次のような点も考えるべきだと思います。みなさんも、一緒に考えてみてください。

住宅用地特例と7割評価の適切性
 現在の特例「住宅用地は三分の一、うち200uまでは六分の一」が登場したのは、固定資産の地価評価が公示地価の7割にされた時点です。その後、公示地価は連続して下落しているので、以前の「住宅用地は二分の一、うち200uまでは四分の一」に戻せるのではないかという意見も出されており、検討しておく必要があります。増税になるのが難点なので、「固定資産税の地価評価を公示地価の7割」としたことと組み合わせて検討すべきでしょう(結局、7割にしたために評価が高まり、「従来の二分の一と四分の一では無理だ」となったわけですから)
 この「7割」については、1993年3月25日の衆議院地方行政委員会で、自治省税務局長が「昭和五十年代、地価が比較的安定していた時代において地価公示価格と固定資産税の評価との割合をずっと探ってまいりますと、平均的に申しますと七割に近い数字で過去に固定資産の評価がなされていた」と説明しています。しかし、その数字のもとになったと考えられる資産評価システム研究センターの『土地評価に関する調査研究』(1991年11月)を見ると、昭和50年代前半は62%前後、後半も66〜67%で、「7割」という数字には達していません。
 7割評価は、もともとバブル景気の時代に「地価引き下げ」を目ざして出された一連の政策のひとつで、その時の目標はすでに達成されたと考えられます(地価引き下げを目ざして1991年に導入された税率0.3%の地価税は、早くも1998年度に課税を停止しています)。状況は変化し、今後重要なのは、人口減少と高齢化のなかで持続する社会を維持するための課税のあり方です。7割評価の見直しと組み合わせれば、増税にならない方法を見出せるのではないでしょうか。


取り壊し費用の回収策
 危険な空き家が取り壊されない場合、最終的には市町村が取り壊し、その費用を所有者に請求することとなります。しかし、所有者が請求額を支払わず、市町村の負担となってしまうことが問題とされています。
 ただ、取り壊し費用を支払いたくない所有者の気持ちも、少しは理解できます。そのままにしておきたかった不動産を取り壊されて費用を請求された上に、翌年からは土地に対する固定資産税が増加するので、「踏んだり蹴ったり」だと感じる人が出て来ても、仕方がないと思います。だから、何らかの妥協を考えるべきでしょう。
 取り壊し費用の回収に困っているのは、日本だけではありません。ドイツは、2013年に法律を改正しています。新しい法律には、除却費用は、除却によって生じる財産上の利益を上限として所有者により負担されることと、その金額が公的な債務として不動産に課されると定められています。だから、建物が建っていた土地がある以上、費用の回収を求めることが可能です。


市街化区域農地を宅地並みに評価して課税することの当否
 最後に、空き家への固定資産税問題と同時に、市街化区域農地を宅地並みに評価して課税していることを再検討すべきことを訴えたいと思います。地価高騰で住宅が建てられず、不足している時代ならともかく、地価下落の現在では、住宅の建設を促して空き家予備軍を増加させる時代遅れの政策となっています。しかも、固定資産税の性格を不明確にした点でも問題です。
 この課税には、三大都市圏特定市を対象とした「宅地並み課税」と、それ以外の一般市街化区域が対象の「農地に準じた課税」があります。なかでも、「市街化区域内農地の課税強化は見送る」と公表したにもかかわらず、密かに課税を開始した「農地に準じた課税」については、早急な対策が不可欠です(問題点をここに詳しく説明しています。何しろ、私の計算によると、地方の35道県において、この「農地に準じた課税」が「100万戸以上の空き家」を生んでいるのです・・・・


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