2012年に農地に準じた課税の「質問主意書」を提出した後も、農業団体やマスコミ、そして政治家に、この問題を取りあげるようにお願いしてきましたが、成果を得ることはできませんでした。そこで翌年、もう一度全日農（全日本農民組合）にお願いし、生産緑地地区指定に関する「質問主意書」を社民党から提出していただきました。
　この問題の背景については、2012年8月5日発行の「農民新聞1924号」 (pdf) にまとめて説明しているので、できるだけ目を通すようにお願いします。

（2013.06.24／2023.09.19更新）

内 容 一 覧
「質問主意書」へのリンク 質問で目ざしたもの（21.06.15更新） 生産緑地法誕生当時の建設省方針（19.01.15更新） 都市計画運用指針の部分改正（21.02.28更新） 田園住居地域の登場（21.03.02更新） 生産緑地地区の拡大へ向けて（2023.09.19更新）

　衆議院の吉川 元議員に、2013年6月10日に『一般市街化区域への生産緑地地区指定に関する質問主意書』（質問第100号）を提出していただき、6月18日に答弁を受け取りました。

質問の内容と答弁は、衆議院ホームページ [外部リンク]で「質問主意書・答弁書」を選び、「第183回国会 質問の一覧」へ進むと、質問番号順に並んでいるので簡単に探せます。時々ページの構成が変更されるので、リンク切れになる恐れもありますが、探す手間を省くため、経過、質問本文、および答弁本文のファイルに直接リンクを引いて紹介します。リンク切れになっていた場合は、質問件名で検索すれば出てくるはずですので、よろしくお願いします。

• 質問第100号　一般市街化区域への生産緑地地区指定に関する質問主意書
  • 経過 | 質問本文（HTML／PDF）| 答弁本文（HTML／PDF）[外部リンク]

　1年前の「市街化区域農地への「農地に準じた課税」に関する質問主意書」とその「再質問主意書」の経過から考え、質問主意書という手法により、この「農地に準じた課税」に問題があることを認めさせるのは無理だと考えました。この問題で軟着陸を目ざすとすると、それは「生産緑地地区を一般市街化区域にも広く適用すること」になると思います。重い税金を課されている農家の苦しい状況を考えると、一刻も早く生産緑地地区を指定してほしいと願っています。しかし、生産緑地地区制度を管轄する国土交通省は、「農地に準じた課税」が導入された当時、国土庁と建設省が全国への課税拡大に反対していたことを、すっかり忘れてしまっているようです。もちろん、総務省が課税導入の経緯を国土交通省に説明したような気配は、全く感じられません。

　そこで、「国土交通省に都市計画運用指針を修正してもらい、一般市街地でも生産緑地地区を広く指定するよう促してもらう」ことを目ざし、質問することにしました。期待した効果は、次の2点です。

1. もちろん、まず重要なのは、農家の重い税負担を軽減することです。現行の「農地に準じた課税」は、農業所得と無関係に課されている冷酷なもので、疑問が多い制度です。一刻も早く適正化してほしいと願っています。
2. もう一つは、線引き（区域区分）制度の長所を維持することです。もともと私が「農地に準じた課税」を発見したのは、香川県の線引き廃止を調べていた時のことです。もし、この「農地に準じた課税」がなければ、香川県においても、線引きが廃止されなかった可能性があります。

　その後も、各地で線引きが廃止されています。私が知っているだけで、平成の時代に岡山県笠岡市、和歌山県海南市、熊本県荒尾市、そして沖縄県南城市、京都府綾部市があります。また、令和に入ってからも、岡山県浅口市が廃止しています。

　これらの線引き廃止では、表面上はともかく、実質的には「農地に準じた課税」が主因のひとつになっているはずです。これは、先に示した小松島市議会へ提出された2011年の請願（不採択）と、採択された2012年の陳情を比較すればわかります。不採択となった請願は、もっぱら「農地への課税」を理由に廃止を求めているのに対し、採択された陳情は、農地課税には全く触れていません。これでは、「線引き廃止の背景に農地課税がある」ことが見逃されることも仕方ありません。なお、小松島市はまだ線引きを維持しています。

　今回の質問主意書で、当初は、「農地に準じた課税」が誕生した際の経過も述べるつもりでした。しかし、質問の目標は「生産緑地地区の指定」なので、この部分はなくても良い（あるとかえってマイナスかも知れない）と感じられたので、カットし、代わりに後半部に力を入れました。ただ、生産緑地法が誕生した1974年当時の建設省の考え方を知ることは重要な意味があると思うので、ここに紹介します。

1974年の国会における建設大臣答弁

　生産緑地地区は、第七十二回国会で誕生した生産緑地法（昭和四十九年法律第六十八号）で指定されます。背景には、前年に特定市街化区域のＡ・Ｂ農地への宅地並み課税導入を可決した際、衆参両院の地方行政委員会が附帯決議で生産緑地創設の検討を求めたことがあります。制定時の審議で、生産緑地は「良好な都市環境の形成をはかるための都市計画上の施策」で、宅地並み課税を救済する制度ではないので、宅地並み課税適用除外というメリットはないが、全国の市街化区域を対象に指定を進める、と説明されています。

　野党は、生産緑地法の制定が宅地並み課税の拡大に通じる恐れがあると警戒しました。その野党議員の質問に、亀岡高夫建設大臣は「国務大臣といたしまして、宅地並み課税は三大都市圏以外には伸ばすべきではない、こう思っております。そう信じております。」と明確に答弁しています（第七十二国会衆議院建設委員会地方行政委員会農林水産委員会連合審査会議録第一号十六頁）。四月十二日の衆議院建設委員会でも、大臣は重ねて「宅地並み課税は当面宅地の大量供給が必要な三大都市圏以外には拡大すべきではない」と答弁しており、今後、政府の統一見解をまとめる際には、自分の意見を主張したいとも述べています。

農地に準じた課税の副作用

しかし残念なことに・・・

　ところが、その二年後の昭和五十一年税制改正で、「農地に準じた課税」が登場し、全国の市街化区域農地で、宅地に相当する税額を目ざす増税が開始することになったことは、「農地に準じた課税Ｑ＆Ａ」で説明しているとおりです。総務省の「法案ミス」で登場したので、建設省としての考えを総務省に披露する機会は、ありませんでした。

　このような経過を考えると、「農地に準じた課税」が都市のコンパクト化を妨害し、都市を拡大してスポンジ化する効果を有することがすでに予測され、「それはまずい」と考えられていた可能性もあります。参考に、「農地に準じた課税Ｑ＆Ａ」ページの上部に示している「農地に準じた課税の副作用」を、ここにも示しておきたいと思います。

• 生産緑地地区に関する「質問主意書」の質問提出は2013年6月18日で、答弁書が示されたのは2013年6月18日です。都市計画運用指針は、この答弁の後、2013（平成25）年に7月26日（都市計画法施行令第3条の改正に伴うもの）、8月20日（大規模災害からの復興に関する法律の施行に伴うもの）、12月5日（都市再生特別地区の運用に関するもの）と3回改正されていますが、各法律に関する改正だけなので、生産緑地地区の部分には手がつけられていません。これに続く翌年の2014年8月1日に、都市計画運用指針の全体を見渡した改正が行われ、生産緑地地区の都市計画決定につき、従来の(3)の後に、(4)が追加されました（原文は丸数字ですが、文字化けする恐れがあるので、ここではカッコに変えています）。
• この改正で、三大都市圏の特定市以外においても生産緑地地区の指定を求めるのが容易になり、質問主意書が目ざしたものが、形として少しは見えて来たように感じました。（しかし、現実は甘くはなく、一般市街化区域での指定は全くと言って良いほど進んでいません・・・）

都市計画運用指針の改正部分（追加部分を赤色で示す）

２．生産緑地地区の決定・変更 （１）生産緑地地区の計画の考え方 　生産緑地地区の都市計画の決定については以下によることが望ましい。 (1) 生産緑地地区の指定は、当該都市計画区域における土地利用の方針、公園、緑地その他の公共空地の整備の現況及び将来の見通し等各都市の実情を勘案して、都市における農地等の適正な保全を図ることにより農林漁業と調和した良好な都市環境の形成に資するよう行われるべきものである。 (2) 生産緑地地区の具体的な指定基準の適用については、次によることが望ましい。 ア　生産緑地地区の対象となる生産緑地法第２条第１号の「農地等」とは、（後略）。 イ　生産緑地法第３条第１項の「一団のものの区域」とは、（後略）。 ウ　生産緑地法第３条第１項第１号の「農林漁業と調和した都市環境の保全」とは、（後略）。 エ　生産緑地法第３条第１項第１号の「公共施設等の敷地の用に供する土地として適しているもの」とは、（後略）。 オ　生産緑地法第３条第３項の「主要な都市施設」には、（後略）。 (3) 三大都市圏の特定市の市街化区域農地等に係る固定資産税等の課税の適正化と併せた生産緑地地区の指定作業については、平成４年末に完了したところであるが、平成４年の時点では租税特別措置法（昭和３２年法律第２６号。以下「措置法」という。）第７０条の４第２項第３号に規定する特定市街化区域農地等（以下「特定市街化区域農地等」という。）となっておらず生産緑地地区の指定について農地所有者等の意向把握をしていない場合及び他の制度に基づき指定の要請ができる場合については、例えば、以下に示すように例外的に、農地所有者等の意向把握に基づく生産緑地地区の指定を今後も行うことが考えられる。 ア　土地区画整理事業等の実施に伴う市街化区域への編入により新たに市街化区域農地等となった場合（この場合、市街化区域編入時に限る。） イ　三大都市圏の町村が市となったために新たに特定市街化区域農地等となった場合（特定市街化区域農地等となった時に限る。この場合、特定市となる町村においては、市街化区域農地等の現況の把握、農地所有者等の関係権利者の把握、改正された生産緑地地区制度の周知措置、農地所有者等の意向把握等の手続を行い、特定市となった年の１２月末までにできるだけ速やかに生産緑地地区の指定を行う必要がある。） ウ　大都市法第１０条に規定する特定土地区画整理事業及び同法第２条に規定する住宅街区整備事業の実施により集合農地区に換地される農地等について同法第１０６条に基づく生産緑地地区に関する都市計画についての要請が行われた場合 エ　農住組合法（昭和５５年法律第８６号）第９条に規定する交換分合計画において定められた一団の営農地等の区域に属する農地等について同法第８８条に基づく生産緑地地区に関する都市計画についての要請が行われた場合 なお、このほか、地域の実情を踏まえた都市計画決定権者の判断により生産緑地地区の指定を行うことができるものである。 (4) (3) のほか、地域の実情を踏まえた都市計画決定権者の判断により生産緑地地区の指定を新たに行うことができる。また、三大都市圏の特定市以外の市町村においても、本制度の趣旨に鑑み、生産緑地地区の指定を新たに行うことが望ましい。

• 改正で「三大都市圏の特定市以外の市町村」でも指定が望ましいと追加されており、指定がより容易になっています。ただ、直前にある(3)の記述が非常に制限的なので、「(3)を含めて、もう少し大幅に改正してもらいたかった」と感じていました。その願いが通じたのか、2017年の改正で(3)と(4)が整理されてまとめられ、次のように分かり易くなりました。

  (3) 三大都市圏の特定市の市街化区域農地等に係る固定資産税等の課税の適正化と併せた生産緑地地区に関する都市計画決定については、平成４年末に完了している。一方で、その後の人口減少・高齢化の進行や、緑地の減少を踏まえ、身近な緑地である農地を保全し、良好な都市環境を形成するため、生産緑地地区を追加で定めることを検討すべきである。また、三大都市圏の特定市以外の都市においても、本制度の趣旨や、コンパクトなまちづくりを進める上で市街化区域農地を保全する必要性が高まっていること、都市農地の貸借の円滑化に関する法律による貸借の対象が生産緑地地区の区域内の農地に限定されていることを踏まえ、新たに生産緑地地区を定めることが望ましい。

• 生産緑地法は1974年に誕生していますが、当時は農地課税との関係は薄いものでした。現在の30年間の営農を条件として農地課税とする」という形に改正されたのは、1991年です。だから、2022年あたりから、30年の期限が来て、自由に宅地に転換する例が増加すると心配され、2017年に制度の手直しが実施されています。その際に、ようやく「農地に準じる課税」も検討されたそうで、新しく「市街化区域農地の課税を少し緩める」ため、「田園住居地域」という新しい用途地域がつくられました。
• 私は、この「田園住居地域」を批判的に見ています。その理由は、一つは、用途の制限が厳しい用途地域である低層住居専用地域を基礎にしており、用途が混合している日本の市街化区域には指定が困難なことです。もう一つは、課税の軽減が最大でも半額に過ぎず、しかも農地の売却に規制がかかるため、農家にとってメリットが少ないことです。地区計画制度を使用して市街化調整区域を開発することもかなり容易になっていることと比較して、バランスを欠いた施策だと感じられます。

• 福島市の北に隣接する伊達市の農協で、税金の問題について話した際に、「農地が工業専用地域にあり、売れないので税金を支払っている。裁判をするのなら考えるが・・」と、憤まんやるかたない農家の方と出会いました。場所を聞くのは忘れましたが、「多分あそこだろう」と思う農地はあります。周囲がほぼ工場に囲まれていて、「田園住居地域」に出番はありません。その後、その方とは会う機会がありませんが、裁判には協力させていただきたいので、トップページ右下の宛先にメールで連絡してください。もちろん、同じような状況の方には喜んで協力します。
• 用途地域に「田園住居地区」を追加する法律改正は、2018年4月1日に施行されました。実際にこの「田園住居地域」を指定する市町村が、いくつ出てくるのでしょうか。関心をもって観察していきたいと思います。

• 生産緑地地区指定に関する質問主意書の後、たしかに国土交通省は、答弁書で否定した「都市計画運用指針」の改正を行い、さらに用途地域の追加まで実施しました。これは、農家の課税負担を軽減する道を提供はしましたが、「質問で目ざしたもの」の後半で説明したように、「農地に準じた課税によって、線引き制度がぐらついている」現状への対策は、まだこれからだと思います。
• 「制度を作る」ことも大切ですが、それより重要なのが、「制度に心を入れて運用する」ことです。生産緑地に関する都市計画運用指針の改正も、田園住居地域の追加も、制度は作られましたが、問題は、指針の改正で、一般市街化区域農地への生産緑地地区の指定がどのように進むかにあると考え、状況を見てきました。全くと言っていいほど進んでいないことが、これを示しています。恐らく、総務省が法案ミスを認めて公表すれば、状況が大きく変化するだろうと思います。さらにその時には、さらに別の方策も生まれてくるだろう、そうなるはずだと感じられます。なお、田園住居地域については、上に書いたような事情で、あまり期待できないと思っています。
• 都市計画運用指針が改正され、一般市街化区域農地への生産緑地地区指定に障害がなくなったのは、2014年8月です。その後数年間、生産緑地地区が拡大するような傾向は見られなかったので、「空振りだったのか」と思っていました。ところが2023年の夏にネットサーフィンをしていて、宇都宮市が2022年末に生産緑地制度を導入したという記事を発見しました、こちらにあります [外部リンク]。その記事によると、高知市や広島市、久留米市、岐阜市と、各地で導入が進みつつあるそうです。都市計画運用指針改正の効果がようやく出てきたと、喜んでいます。
• 最後になりますが、行政に真剣に「生産緑地地区」の指定に取り組んでいただけるように、都市計画法第21条の2にある「都市計画提案制度」[ウィキペディア]を活用して生産緑地地区の指定を求める方法もあるので、紹介します。土地所有者等が1人か数人で都市計画の変更や決定を提案すると、提案を受けた市町村は、提案を採用するかどうか検討しなければなりません。提案を採用しない場合、市町村は事前に都市計画審議会の意見を聴き、提案者に理由をつけて通知することになっています。
  • 都市計画提案を行うには、0.5ha（5000平米）以上の一団の土地の区域について、土地所有者等の３分の２以上の同意を得ることが必要です。だから、「これだけの規模の農地をまとめることができるかどうか」が最も大きい関門になるものと思います。
  • 生産緑地地区の指定を求める際は、行政に対し、「生産緑地法の第2条の2を良く読むように」求めてください。これは、「国及び地方公共団体は、公園、緑地その他の公共空地の整備の現況及び将来の見通しを勘案して、都市における農地等の適正な保全を図ることにより良好な都市環境の形成に資するよう努めなければならない。」と、「国及び地方公共団体の責務」を規定しています。生産緑地が指定されていないと、納税のため、農地の一部を売却したり、アパートを建設したりせざるを得なくなる農家が出てきます。だから、「農地の保全」という責務を果たすよう、地方公共団体に求めましょう！
  • ひょっとすると、「それほど多数の公共用地は必要なく、買い取りの予算も十分ではない」として、生産緑地地区の指定を渋る市町村があるかもしれません。その場合は、生産緑地の買い取りを申し出た場合でも市町村に買い取りの義務はなく、買い取らないのが普通だと説明してください。たとえば神奈川県厚木市が生産緑地の解除手続きについて説明したページがここにあります[外部リンク]。市町村長は、申出に対して「買い取らない旨を書面で当該生産緑地の所有者に通知」（生産緑地法第十二条）でき、実際に市町村が買い取るのは例外的なケースに限られるのが実態です。

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