小松島市議会への「線引き廃止」を求める請願と陳情

市街化区域農地への課税問題

 小松島市議会の平成23(2011)年3月定例会に、1,987名の署名を添え、次のような請願が提出されました。市街化区域農地への税金が高すぎるので、線引きを廃止してほしい、という内容です。
 なお、請願趣旨と請願事項に、何ヶ所か《宅地並課税》という言葉が出て来ますが、これは「農地課税の3種類」のうちの「農地に準じた課税」を意味しています。農地課税の影響は課税負担を調整する過渡的部分だけであり、長期的に見ると「評価」が「宅地並み評価」であることが税額を規定するので、《宅地並課税》と表現されていると考えられます。

平成23年の請願

平成23年2月24日

「都市計画の線引き廃止を求める」件について

【請願趣旨】
 昭和43年の新都市計画法で,農振法など国の農業施策から,市街化区域農地が除外され,また昭和46年に《線引き》と《宅地並課税》が導入されて約40年。市街化区域農地の固定資産税は,バブル後の評価替えも加わり,今では一般農地の平均で約40倍もあり,中には100倍もの異常な課税となっている例もあります。農業は概ね赤字経営ですが,市街化区域では,その赤字の上に農地の宅地並課税が重くのしかかっています。団塊世代が多く,年金など小額な農業外収益では,赤字が補填し切れず,営農継続が困難で相続放棄も起こりかねない厳しい状況です。
 《線引き》は本来,制度実施後10年以内に,市街化区域への市街化整備を完了せねばらない制度ですが,遅々として進んでおりません。その後の社会状況の激変や規制緩和などにより,制度目的とは逆に,調整区域の方に宅地等の開発が進む時代へと様変わりし,バブル以前の高度成長期に描いた《都市計画》の《線引き》は,その意義,目的を失って既に何十年も経過しています。
 今,国の農政も地域農業再生,食糧自給率向上の方向ですが,市街化区域農業の振興は,国土交通省からも「《都市計画》の見直し」,「農業政策との提携」等が言われています。
 農業産出額で3割を占め,環境・防災・癒し機能も兼ねるなど,重要な役割を担う市街区域農業は,宅地並課税が大きな障壁です。本市該当農地は農地の7%,地権者も全市戸数の約1割」を占めていますが,高齢化も進み事態は深刻です。早期に農地の《宅地並課税》を一般農地並課税に戻すことが必要です。
 本市の基幹産業の一つである農業を,守り,振興するためにも,以下の事項を請願いたします。

【請願事項】
 小松島市都市計画の《線引き》を廃止して,市街化区域農地の宅地並課税を一般農地並税としてください。
 その上で,策定事業として取り組み中の小松島市都市計画マスタープランに《線引き》廃止を盛り込むとともに,地域住民,議員,職員,専門家が,一緒になって,「マスタープラン策定」「都市計画見直し」に取り組み,今後の地域振興策,土地利用のあり方等を検討してくだい。

 上記のとおり《請願事項》を御審議いただき,徳島県と小松島市に対して意見書の提出求めます。

 請願が本会議で議題とされた2011年3月9日には、市街化区域農地の固定資産税に関していくつか議論が行われました。市長にも見解が求められ、次のように述べています。

◎ 市長(稲田米昭君)市街化農地の税の減免というあたりのことでありますけれども,今,もう全国的に,本市に限らず,この市街化農地の課税は大変高く,農業経営が将来的にはやっていけないという事実はもう現実でございまして,先ほどからいろいろお話がございますように,都市計画の決定ということで,線引きが昭和46年になされたわけでありますけれども,そのこととも連動する中で,税と農地,線引きとはまたいろいろ異なるわけでありますけれども,そういうことが,思いが,全国的にはやはりあります。
 そういうことを踏まえて,先ほど議員も言われましたように,そのことにつきましてはやはり問題でございますので,市長会においてもこれから提言もしていき,そこらをどうすべきかというあたりを,国に向けて,総務省に向けて,いろいろ考えてほしいというような旨の発案もさせていただきたいと思います。
 また,本市独自でというお話でございますけれども,行政としては,法にのっとって行政を進めていく立場上,やはり国の制度自身を変更,またあるいは改正をしていただかねば,なかなか進みにくいこと等もございますので,そこらあたりも含めまして,皆さん方の思いが通じるような形で,今後一生懸命取り組んでまいりたいと考えております。

 この請願は3月議会では継続審議となります。12月定例会では委員会で採択されましたが、本会議は可否同数となり、議長裁決で不採択となりました。


 2011年は、東日本大震災が発生した年です。同じようなメカニズムで西日本を南海トラフ地震による津波が襲う可能性がわかり、徳島県でも津波浸水想定区域が見直され、小松島市の市街化区域では広く浸水の恐れがあることが判明します。現在の線引き都市計画は、そこへ市街地を拡大していくことを予定していました。
 この状況を受け、翌年の平成24(2012)年には、3月定例会に、津波被害の観点から「都市計画の線引きを廃止して,小松島市独自の都市計画策定を求める」陳情が提出されました。今回は委員会も本会議も、全会一致で採択となりました。
 採択されなかった請願と、採択された陳情で、理由づけは大きく異なりますが、「線引き廃止」を求める点は共通です。「農地課税が理由では、市議会の過半数を獲得できない」と考えた別グループが、異なる方法でアプローチしてみようと考えたのかもしれません。前年に請願を出した世話人にインタビューしたところ、再提出の話しも出たそうですが、断念し、状況を見まもることになったそうです。
 採択された陳情は、以下のような内容です。

平成24年の陳情

平成24年2月23日

「都市計画の線引きを廃止して,小松島市独自の都市計画策定を求める」件について

【請願趣旨】
 昭和43年に都市計画法が制定され40年が過ぎ,当時の高度成長時代を基準にして制度化された用途別線引きも,社会状況等が全てにおいて激変し様変わりした今日では,当時の目的から大きく外れ,制度目的とは逆に市街化整備も進まず,地価の高い市街化区域は敬遠され空洞化し,調整区域の方に開発が進む時代へと様変わりしている。
 近い将来,巨大地震が必ず発生すると予測されている。小松島市の市街化区域は全地域が沿岸部にあり,小松島市内でも一番津波の被害を受ける地域にある。現在,徳島県と小松島市が策定中の都市計画マスタープランは,従来と同じ地域の津波被害で一番被害を受ける危険な地域を市街化区域(居住地域)として策定している。この策定中の都市計画マスタープランは,津波災害と現況を無視した計画で理解できない。市民の生命と財産を守るのが行政の努めである。
 国道55号線より西側が海岸より距離があり,この国道が防波堤になり,安全エリアとされている。しかし,調整区域で建築規制があり家が建たない。これ等を考えると小松島市内に安心して家を建てる地域がない。このままだと人口減少が加速され小松島市の衰退が心配される。従って,将来の都市計画マスタープランに線引き廃止を盛り込み,小松島市独自の災害に強い都市計画を市民全体で知恵を出し合って策定してください。それが安全で安心して生活できる良好な住居環境をつくることになり,ひいては小松島市発展の基になると考える。
 以上の趣旨により,以下の事項を陳情する。

【陳情事項】
 小松島市都市計画の線引きを廃止してください。
 その上で小松島市独自の将来を見据えた用途地域を定め,市民全体で考え策定してください。

 上記のとおり陳情事項を御審議いただき,小松島市に対して意見書の提出を求める。

 では、この陳情は、都市計画マスタープランにどう影響したのでしょうか。平成26(2014)年に公表された小松島市の都市計画マスタープランは、「地震・津波などの自然災害への対策」を重視し、津波浸水想定を踏まえ、避難と災害復旧を重視した内容となっていますが、線引きの廃止には触れていません。そして、平成30(2018)年に公表された徳島県東部都市計画マスタープラン(徳島市や小松島市を含む)には、とくに津波への言及はなく、「引き続き区域区分を行うものとする」と線引きを継続しています(この項は「小松島市都市計画マスタープラン」平成26年3月、および「徳島東部都市計画 都市計画区域の整備、開発及び保全の方針」平成30年3月による。)
出典:小松島市議会会議録
「各地の農家はどう動いてきたのでしょうか」へ戻る (13.06.24/21.06.15更新)