ドイツまちづくりＱ＆Ａ　 太陽光発電の設置義務化

　2022年12月に、東京都が新築戸建てへの太陽光パネル設置を義務化する条例を可決しましたが、その際の参考資料に、ドイツについても紹介され（「Ｑ16 海外諸都市・国内自治体の動向について」です）、16州のうち７州が太陽光義務化を導入していると説明されていました。ドイツの太陽光発電について少しずつ情報を集めていたので、設置義務の面からまとめてみることにしました。

太陽光発電の義務化を導入している７州は、どこですか。 太陽光の義務を初めて導入した都市はどこですか。 ヴァイプリンゲンでは、どの程度太陽光発電が進展しているのでしょうか。 他にもいろいろ環境都市がありますが、義務化の例はないのですか。 州によって義務化の内容にどのような特徴がありますか。 義務化には、どのような例外や緩和措置が提供されていますか。 太陽光の利用義務化に失敗した例もあるそうですが。

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太陽光発電の義務化を導入している７州は、どこですか。

• 連邦国家であるドイツは、16の州で構成されています。そのうち、ベルリン、ハンブルクとブレーメンの３州は１つ（ベルリン、ハンブルク）か２つ（ブレーメン）の都市で構成され、面積も数百平方キロと小規模で、「都市州」と呼ばれています。そして、この３つの都市州は、全て太陽光発電の義務化を導入しています。右の図に、３州の位置をピンク色で示しています。
• 東京都は「7州」としているので、残る13の一般州のうち4州が導入しているわけですが、それは右の図で緑と水色で示している４州です。最も導入が早かったのがバーデン・ヴュルテンベルク州で、緑色で示しています。残る3州は水色で示しており、南からラインラント・プファルツ州、ノルトライン・ヴェストファーレン州、ニーダーザクセン州となります。これら４州の面積を合計すると、連邦の4割弱になります。説明の都合で、右の図にバーデン・ヴュルテンベルク州にBW、ノルトライン・ヴェストファーレン州にNRWと記しています。
• 実は、2021年末から2022年始めにかけ、太陽光発電の義務化を大きく進める2つの出来事がありました。そのため、2022年の時点で導入が進められている州が3つあり、図に黄色で示しています。南からバイエルン州、ヘッセン州と、北のシュレスヴィッヒ・ホルシュタイン州です。
• 大きな影響を与えた2つの出来事ですが、一つはドイツの気候保護への取り組みは不十分だと示した2021年3月の連邦憲法裁判所の判決です。判決を受け、連邦の気候保護法は改正され、バーデン・ヴュルテンベルク州も州の気候保護法を見直し、太陽光発電義務を拡大しました。ベルリンに太陽光発電義務を導入したソーラー法も2021年7月に成立しているので、判決の影響があると考えられます。この裁判に興味を持たれる方もいらっしゃるだろうとネットで検索したところ、グリーングロワーズが背景を含めて適切に説明していたので、リンクを引きました。
• もう一つは、ロシアのウクライナ侵攻に伴う天然ガス問題です。それまでエネルギーをロシアの天然ガスに大きく依存していたドイツは、エネルギー不足で価格が高騰し、再生可能エネルギーへの取り組みを強化することとなります。たとえば2022年9月に行われた州のエネルギー担当大臣の会合でも、クリーンで安全な再生可能エネルギーを拡大する必要があることが確認されています。（23.02.03／23.02.06更新）

• 現在は州を単位に扱われるのが普通の太陽光発電義務ですが、このような義務を初めて導入したのは、バーデン・ヴュルテンベルク州のヴァイプリンゲンという人口が約５万人の都市で、2006年のことです。バーデン・ヴュルテンベルク州の州都はシュツットガルトで、ヴァイプリンゲンはそのすぐ東にあります。現在はシュトゥットガルト大都市圏に属していますが、かつての城壁の一部が残る歴史ある町で、工場などの職場も多く、シュツットガルトの「ベッドタウン」とは言えません。
• バーデン・ヴュルテンベルク州はドイツの南端にあり、ドイツでは太陽光に恵まれています。ヴァイプリンゲンは北緯49度弱と、日本北端の稚内（北緯45度強）より北にあり、日本と比べると日当たりに恵まれませんが、北緯52度半のベルリンや、53度半のハンブルクよりはずっと有利です。
  

  北側住宅への日影に配慮したヴァイプリンゲンの住宅。当日は珍しく雪が積もっていた。

• その影響か、日照確保を考えた住宅もあります。私はシュツットガルト大学留学中に、都市計画授業の一環としてヴァイプリンゲンの現地見学会に参加しました。その後どうなったのか知りたく思い、1991年のドイツ旅行の機会にヴァイプリンゲンを訪問しました。車で案内していただく途中で屋根勾配が特徴的な住宅が見え、聞いたところ「日照を考えたもの」だと知り、写真を撮影しました。私はドイツ各地をいろいろ見てきたつもりですが、このような屋根勾配は他に見たことがありません。ヴァイプリンゲン市には、日照の恩恵を意識している都市計画担当者がいたと考えられます。
• そして2006年に、市が開発した住宅地に太陽光発電義務が導入されました。初めてのことなので、いろいろ検討されたものと思います。問題は「義務付ける手法」です。ドイツの地区計画であるＢプランを利用すればいろいろな指定を行うことができます。2004年の建設法典改正で第９条（Ｂプランの内容）の第1項23号にb)が追加され、太陽エネルギーに関連する指定も可能となっていたので、これを利用できます。
• ヴァイプリンゲンは、Ｂプランの指定だけで順調に設置が進むとは考えませんでした。Ｂプランは、内容に反対する住民からの訴訟で、有効性が争われることが少なくありません。建設法典第９条第1項冒頭にも示されているように、Ｂプランの指定には「都市計画的な根拠」が必要で、裁判官がどう判断するか予想できない点が残ります。
• そこでヴァイプリンゲンは、開発する用地を一旦市が買収し、プラン策定後に建築希望者に売却することとしました。売却時の契約で、太陽光発電設備の設置を義務づけることが可能だからです。この方法を採用した結果、「太陽光設備の設置が土地所有者と紛争になった例はない」ということです。（23.02.03）

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ヴァイプリンゲンでは、どの程度太陽光発電が進展しているのでしょうか。

	Google Mapでヴァイプリンゲンの太陽光発電設備を探してみました。Ｂプラン地区毎なので、太陽光パネルは比較的狭い範囲にまとまっていました。
	集合住宅の平屋根に置かれた例です。
	こちらは勾配のある切妻屋根です。南西向きの屋根を中心に設置されています。

• ヴァイプリンゲンがあまり宣伝しなかったこともあり、太陽光発電設備の設置義務はひっそりと進んでいたようです。広く知られるようになったのは、同じバーデン・ヴュルテンベルク州のテュービンゲンの影響です。2018年にヴァイプリンゲン市とほぼ同じ方式で義務化を導入した際に、テュービンゲンは市議会で義務化を決議しました。2006年当時と異なり、地球温暖化への関心も高まっていたため、これが広く報道され、すでに導入して実績を積んでいたヴァイプリンゲンにも関心が持たれることとなりました。
• 関心に応えるため、ヴァイプリンゲンは2006年からの進展をまとめ、2018年秋に公表しています。太陽光発電に関する統計はないため、正確な数値は不明ですが、2006年以来、20の地区を開発し、うち11地区は住宅地で、500〜550の太陽光発電設備が設置されていたそうです。同時に、市は市有建物への太陽光発電設備設置を進めており、31の建物に設置され、うち6件は自家消費用で、25ヶ所はリース、いわゆる「屋根貸し」です。借りているのは、個人や企業で、市の子会社で市民に電気を供給している公社（Stadtwerke）も屋根を借りているそうです。
• 設置義務の内容ですが、南から南西を向いた切妻か緩傾斜屋根につき、少なくとも50％に太陽光発電設備を設置することが求められています。ただ、面積が50平方メートルに満たない場合は、義務は免除されます。さらに、必ずしも太陽光発電の設備でなく、太陽熱を活用する設備による代替も認められます。ほとんどの人が太陽光発電を選択しているのは、発電の方が経済性がはるかに高いためだということです。
• 最近はさらに目標を高め、現在建設中の住宅地では、断熱を充実させ、暖房技術も向上させて、気候に中立な住宅地を目ざしているそうです。日本の「ZEH（ゼロエネルギーハウス）」に似ていますが、ZEHはテレビや冷蔵庫などの電気消費は除外して考えるのに対し、ヴァイプリンゲンは平均的なエネルギー消費込みで考えるので、達成は容易ではないはずです。日照が日本より弱いのに良く頑張るなと、地球温暖化防止に真剣に取り組んでいることが伝わってきます。（23.02.03）

• 確かにドイツには、まちづくり関係者の間で有名な環境都市がいくつかあります。日本で最も有名なのがBW州のフライブルクで、同州のカールスルーエやハイデルベルクも知られています。また、バイエルン州のエアランゲン、NRW州のミュンスターやハムも、表彰されたことがある優れた環境都市です。しかし、これらの都市について、太陽光発電「義務化」の話しを聞いたことはありません。
  

  	フライブルクのヴォバーン団地にある太陽光パネルを載せた建物。（2005年撮影）
  	団地入口のソーラーガレージを南側から眺めています。わかりにくいかも知れませんが、屋上にソーラーパネルが並んでいます。
  	道路反対側のプラスエネルギーハウス。これは第1期として建設されたテラスハウス10棟を、中央の通路から見た光景です。

• 義務化が行われなかった原因はいろいろあるでしょうが、「立法権限」が重要な関係にあると考えられます。ドイツは州で構成される連邦制なので、州はかなり広い範囲で立法が可能ですが、市町村は別です。ヴァイプリンゲンの場合は、連邦法である建設法典を根拠に、Ｂプラン（これは「条例」です）で義務づけ、さらに土地売買契約で担保しています。その一方で、州建築法を利用して条例で義務化を試みたものの、立法権限の壁にぶつかり、失敗したマールブルクの例もあります。
• 話しを「環境都市」に戻すと、「設置の義務化」はなくても、「太陽光発電の試み」は、フライブルクなどの都市で試みられています。本格的にソーラーパネルを設置して利用している建物を私が初めて見たのは、フライブルク駅西側のフリュキガー湖のそばにあるエコステーションだったと思います。多くの日本人がフライブルクを訪問するため、同ステーションが設置しているホームページには日本語の説明もあります。
• カーフリーで有名なヴォバーン団地も、熱心に太陽光発電に取り組んでいます。団地中央にある広場に面した建物の屋根には、大きな太陽光発電パネルが置かれ、団地入り口にある共同の集合駐車場は「ソーラーガレージ」という名称で、屋上に太陽光発電のパネルが並んでいます。
  そのソーラーガレージの前面道路反対側には、「プラスエネルギーハウス」と呼ばれるソーラー住宅が並んでいます。「年間で見ると、消費する以上のエネルギーを生産する」として付けられた名称で、1999年に市議会の賛成を得て着工されました。南向きの屋根いっぱいに、太陽光発電のパネルが載せられています。同時に南側の大きな窓からの日射で太陽の熱を直接に享受し、効率的な暖房のために十分な断熱も施されています。
• フライブルクのヴォバーン団地は国内外でいろいろな賞を獲得しており、都市プランナーの間で非常に有名です。初めて太陽光発電義務を実施したヴァイプリンゲンの担当者も、「ソーラーガレージ」や「プラスエネルギーハウス」を見ているに違いない、私はそう信じています。（23.02.17）

• 日射があり、太陽光発電義務化の対象となる場所は、主に次の4箇所です。
  • 新築住宅の屋根
  • 新築の非居住建物の屋根
  • 改修される既存建物の屋根
  • 新築非居住建物の駐車場
  BW州、NRW州とベルリンにつき、これらが義務の対象となっているかを○×で表にまとめてみました。

  	新築住宅	新築非居住建物	改修屋根	駐車場	根拠法
  BW州（2020年）	×	○	×	○（75台）	気候保護法
  BW州（2021年）	○	○	○	○（35台）	〃
  NRW州（2021年）	×	×	×	○（35台）	州建築法
  ベルリン（2021年）	○	○	○	×	ソーラー法

  駐車場は台数が一定以上と広くなると、義務が課されます。
• 制度が違う背景には、「何を目的に義務化を導入するのか」という点があります。BW州政府は、2020年にBW州総発電量の12％を太陽光発電にするという目標を設定していましたが、2018年の時点でまだ9.2％で、目標到達は無理になっていました。そこで、気候保護を進めるため、大規模な太陽光発電設備を設置しやすい「非居住用建物の屋根」への義務化をめざしました。駐車場も、かなり大規模なものだけが対象です。しかし1年後に、上で触れた2021年連邦憲法裁判所判決の影響で目標を大幅に見直し、対象を拡大しました。
  一方、NRW州は主に都市環境面を考え、駐車場に太陽光発電義務を導入しています。駐車場は広い舗装空間で、暑熱や豪雨時に都市環境面でマイナスです。そこで、気候保護の観点から空間の最適化を期待し、義務化しました。交通分野で電気利用を結合し、発電した電気をそのまま車に充電することも考えられる、と説明しています。
• NRW州に比較して、BW州とベルリンは積極的ですが、この原因の一つに、環境を重視する「緑の党」が政権に入っているかどうかがあります。とくにBW州は、緑の党が州首相を務めるドイツ唯一の州です。その背景には、日本の東日本大震災（2011年3月11日）による福島第一原子力発電所の事故があります。原子力発電に反対を唱えていた緑の党は、2011年3月27日に行われた州議会選挙で得票率を倍に伸ばして州議会第二党に躍進し、二・三位連立で州首相を担うこととなりました。その実績が認められ、5年後に行われた州議会選挙では州議会第一党になり、現在まで継続しています。
• NRW州も2022年5月の州議会選挙で勢力関係が変化し、緑の党が政権に参加することになりました。連立協定から考え、2023年半ばに法改正があるはずです。NRW州は太陽光発電よりも風力発電が遅れているので、現在は風車建設可能用地の見直しに精力的に取り組まれており、一段落した後に太陽光発電が検討されると思われます。
  2023年末の州建築法改正につき、こちらに紹介しました。
• 今後、最も関心が持たれるのがBW州です。気候保護法は自治体に、エネルギー消費を把握し、熱の需要と消費を基礎に、今後の計画を策定するよう求めています。自治体職員は作業が増大して大変でしょうが、温室効果ガスの中立を実現するために、欠かせない重要な任務なので、うまく進むことを願っています。（23.02.06／23.12.17更新）

• もちろん各州の規定は、屋根面への太陽光発電義務に関し、いろいろな例外や緩和措置を予定しています。そこで、設置義務を先導しているBW州とベルリンについて、義務の内容と、どのような例外や緩和策が予定されているのかを調べました。緩和にはいろいろなレベルと方向があり、私にもまだ理解しきれない部分があるので、わかる範囲で紹介します。
• まずBW州ですが、2021年の規定を検討しました。BW州の設置義務の基本は、ソーラー使用に適している屋根面の、60％以上をモジュール（太陽光パネル）で覆うことです。この「ソーラー使用に適している屋根面」とは、傾斜が20度以下（方位は問わない）か、傾斜が20〜60度で西、東、およびその間の南側を向いている屋根面のことです。
  • 屋根が日影になることもあるでしょうが、日影になっても、年間の日射量が南向き面の75％あれば、「太陽に十分に照らされている」とされます。
  • 屋根が平らかどうかも設置に影響します。凹凸などがあっても、モジュール取り付けフレームの設置を妨げない高さ20センチまでであれば「使用に適している」と判断されます。
  義務の緩和
  • 義務緩和の第一は、設置場所です。該当する屋根面に代え、建物の外壁や、建物の直接の空間的近傍に設置し、それを求められる面積比率に算入することができます。つまり、屋根面への設置義務を、建物への設置義務に変換できるわけです。
  • 緩和の第二は、太陽光発電設備を太陽熱システムに代えることです。これについても、設置場所を屋根でなく、外壁や直接の空間的近傍に設置することが認められています。こうして設置された集熱器（コレクター）の面積がモジュール面積に相当するものとして扱われます。
  • モジュールにはいろいろあり、高効率のものもあることでしょう。効率の違いを考え、モジュールの面積に代え、モジュール出力による設置量の計算も認めています。建築面積1�uあたり0.06kwpの出力を設置すれば、義務を満たしたと認められます。
  • この義務は、生産された電力を全て電力供給ネットワークに提供するという前提で議会で可決され、課せられているものです。従って、電力販売が制限される状況にある場合は、それに応じて義務は低減され、ネットワークに全く供給できない場合は電力を自給に使用できる範囲（最小利用）までの削減が可能です。
  義務の免除や調整
  • 量的には少ないでしょうが、建物の状況のために太陽光発電への利用は無理だとされて義務が課せられない建物が7種類示されています。それらは、1．地下構造物、2．空を飛ぶ建物、3．延べ面積が50�u未満の建物、4．屋根が仮設の建物、5．事故の規定で、太陽光発電設備の設置で事故の防止や対策が困難になるとされている建物、6．建物の利用や避けられない外的影響で、太陽光の利用が人や財産にリスクとなる建物、7．電力供給ネットワークとの接続がなく、今後も接続が拒否される建物、です。
  • たとえばＢプランなどで屋根の緑化が義務付けられている場合は、両義務を調整し、可能な範囲で太陽光発電設備を設置することとなります。また。その他の公法上の義務と矛盾する場合には、太陽光発電設備設置義務はなくなります。たとえば建物が文化財として保護されている場合は、屋根を改修しても義務は課されないものと思われます。
  • 不均衡に高い経済的出費が必要な場合は、行政に申請し、免除される道もあります。その経済的出費の程度ですが、太陽光発電設備の費用が新築の建築費用に対し、住宅の場合は10％、非住宅では20％を超えると、建築プロジェクト自体が危険にさらされるとされます。
  その他
  • 太陽光発電設備の設置義務があるのは、基本的に建物の所有者ですが、この義務を第三者に移すことも可能です。いわゆる「屋根貸し」などの形です。
• ベルリンの規定は、私が入手できた範囲ではBW州ほど詳しくありませんが、太陽光発電設備の設置義務の緩和や免除の考え方は似ています。しかし、その前提となる設置義務の面積計算の方法に、違いがあります。BW州ではソーラー使用に適している屋根面の面積が基準でしたが、ベルリンでは建物の総屋根面積が基準です。そして、太陽光発電設備で建物の総屋根面積の少なくとも30％を覆うことが求められています。
• 設置の最小パーセントを電気出力の容量に代えることができることや、屋根面に代えて壁面に設置できること、太陽光発電を太陽熱設備に代えること、屋上緑化が義務付けられている場合などは調整が行われること、経済的に設置を期待できない場合は義務を免除される道もあることなど、BW州と同じような例外や緩和が提供されています。
• 設置義務が課せられない建物の種類には少し違いがあります。BW州になかった温室と耕作用建築物が示されている一方で、あまり危険な工場はないのか、事故やリスクには触れられていません。なお、行政が施行令で例外や緩和措置を追加することができるので、違いは今後縮小されていくかもしれません。（23.02.26）

• ヘッセン州のマールブルクという大学都市の紛争が知られています。ネットワーク上に当時の新聞記事があり、市の記者発表も残っていて、内容を知ることができました。問題がこじれ、今後の方向を見いだせないまま中途半端で終わってしまった、残念な例です。太陽熱集熱器（ソーラーコレクター）で温熱水を作り、建物の暖房などに利用しようとした点で、発電が主体となっている現状と異なります。
• マールブルクは、当時のヘッセン州建築法第81条2項の、自治体の全域か一部について条例で暖房方法を定められるという項目に注目しました。日本でも東北や北海道には、温熱水を使用したセントラル暖房の住宅が見られますが、ドイツの住宅も同じです。私が1年間住んだシュツットガルトの住宅も地下室にボイラーがあり、温熱水を各部屋に送り、ラジエーターからの放熱で暖房していました。
• マールブルクは、屋根に太陽熱集熱器を設置し、その温熱水で暖房すれば二酸化炭素排出を大きく削減できると考え、ソーラー条例を定めました。対象は、暖房を行う市内の全ての建物で、新築する際はもちろん、既存の建物でも、増築、屋根の改修や暖房システムの交換を行う場合に、このシステムを全面的に設置するよう定めました。マスコミも大きく報道したようで、条例が生まれた数日後に、日本の太陽光発電関連会社のブログが取り上げています。
• この条例は波紋を呼び、その後、次のような経過を辿りました。

  2008年6月20日	市議会がソーラー条例を可決し、10月1日の施行を予定
  2008年10月2日	監督する州のギーセン行政管区が、条例を取り消す
  2008年10月22日	市が条例を取り消した行政管区をギーセン行政裁判所に提訴
  2009年10月30日	裁判所で裁判長が和解を勧告し、市と行政管区で議論が始まる
  2010年2月5日	まとまった和解の文書に、市と行政管区の署名が揃う
  2010年3月18日	ヘッセン州が和解に同意しないと決め、裁判手続きが再開へ
  2010年5月12日	ギーセン行政裁判所が、条例は無効だという判断を示す
  2010年6月15日	州が州議会に、第81条2項の削除を含む州建築法改正案を提案
  2010年10月29日	市が、判決の検討をもとに修正を加えた内容で新条例を議決
  2010年11月16日	市が新条例を公布、翌日に施行される
  2010年11月18日	ヘッセン州議会が州建築法改正案を可決
  2010年11月25日	州が州建築法改正を公布、翌日に施行され第81条2項が消える

• 判決がマールブルクの条例を無効と判断した重要な根拠は、2つです。1つは、連邦も再生可能エネルギーの利用を進めており、建物を新築する際に再生可能エネルギーを冷暖房の熱源に使用する義務を規定した法律が2009年に施行されており、これと異なる義務を条例で新築建物に課すことはできないと判断したことです。もう1つは、市民に急に重い義務を課す条例には、相当性がないとされました。具体的には、新築の際に加え、増築、屋根の改修や暖房システムの交換を行う場合も太陽熱システムを全面的に設置する必要があり、段階的な経過措置も提供されていません。連邦法が適用を免除している床面積50平方メートル以下の建物も、義務から除外する必要があると示しました。
• 市は判決に対して控訴することも可能でしたが、判決を基礎に条例を修正し、それを施行する道を選びました。裁判の過程で、州が、年末までに行わねばならない州建築法改正で第81条から2項を削除すると明らかにしていたので（ヘッセン州建築法は、数年毎に見直さねばならないシステムになっていました）、2項があるうちに何か行おうと考えた可能性もあります。もちろん州議会では、野党が「削除は地方自治への介入だ」と反対しましたが、「この間の連邦法の進展で不要になった」と削除されてしまいました。
• ヘッセン州建築法第81条の削除された旧2項は、主に地域暖房の普及を考えた規定だと思います。自治体や電力･ガス会社が地域暖房のための温熱水配管を整備した場合、新築建物はもちろん、既存の建物も改修などの際に地域暖房に接続し、建物毎の暖房は停止するのが合理的だからです。だから州は、この規定で個別建物に太陽光利用を義務化しようとしたマールブルクの条例に、驚いたことだろうと思います。
• 条例には、太陽熱の集熱器（ソーラーコレクター）を設置できない場合は、ソーラーモジュールによる発電でも良いという項目もありました。ヴァイプリンゲンが開始し、現在主流となっている「太陽光発電の代わりに熱システムも認める」方式と比較し、関係が逆になっていたわけです。
• それから10年が経過し、地球温暖化の進行を止めるため、「気候中立」を目ざさねばならないという考えに理解が深まります。もちろん、住宅の暖房も大きな問題です。こうして2023年の夏に、住宅暖房を中心的に担っている石油と天然ガス（いずれも化石エネルギー）を段階的に削減し、再生可能エネルギーへの転換を進める法改正が連邦議会で議論されることとなります。この2023年夏の時点で考えると、マールブルクの条例が当初の形、つまりギーセン行政裁判所での和解のまま成立していたら、マールブルク市民は「本市の暖房は地球温暖化をほとんど進めていないので、手を加える必要はなく、このままで良い」と、涼しい顔で連邦議会の議論を眺められたはずです。マールブルクの条例は、10年以上早すぎる提案だったため、「出る杭は打たれる」結果となったのかも知れません。（23.02.12／23.07.17更新）