ドイツに乗用車通行料金制度か − 環境と交通政策からの評価

 連邦環境庁2010年4月に発表した報告書の概要を紹介します。全体的には主な内容の紹介に止めますが、一部の理解しにくいと思われる部分については、解説を加えています。

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現在の自動車関連の収入と支出


トラックに関する収入(+)と支出(-) 乗用車に関する収入(+)と支出(-) 乗用車とトラックの合計
燃料への税金(消費税を含む)およびトラック通行料金 +116億ユーロ +269億ユーロ +385億ユーロ
自動車税 +29億ユーロ +58億ユーロ +87億ユーロ
駐車料金 +16億ユーロ +16億ユーロ
環境と事故に関する外部費用 -158億ユーロ -612億ユーロ -770億ユーロ
道路整備の費用 -115億ユーロ -199億ユーロ -314億ユーロ
総 計 -128億ユーロ -468億ユーロ -596億ユーロ
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期間による料金:ビネット方式


評 価
道路インフラ財源への貢献 道路網費用の相当部分を利用者に求め、それによって連邦財政の負担を代替することが可能である。乗用車の道路整備費用の全体をこれで賄うには1台あたり年400ユーロ、アウトバーンだけであれば年100ユーロの負担になる。しかし、多く走る者と少なく走る者の負担が同額となり、ドライバー間の負担配分に問題がある。
交通誘導への貢献 有料道路網を利用するかどうかの決定にしか影響できないので、交通の歪みの修正や、渋滞や事故の危険を低減するようには誘導できない。逆に、無料の道路網を利用する魅力を生じさせるという問題がある。
環境負担軽減への貢献 導入国の経験では、車走行の負担が増加することで車利用を断念する効果は確認されていない。走行の多少にかかわらず料金が同じなので、走行を減少させる効果も期待できず、逆に無料道路網を迂回する車が出てきて、その沿道居住者へマイナスとなる恐れがある。
その他 制度の導入と、徴収・監視の費用が少なくて済む点は良い。なお、ビネットに代え、自動車税を増税することが考えられる。その場合、有料道路網を回避する問題が生ぜず、公害が少ない車を優遇することも可能になる。
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走行実績による料金:通行料金


評 価
道路インフラ財源への貢献 アウトバーンと連邦道路とも、乗用車はキロ3〜4セントの負担となり、トラックはその数倍になる。走行に直接関係する支払いであり、外国の車も対象とできる。ただ、全道路網を対象に料金を課さない限り、走行と支払いの関係の全体を適切化することはできない。
交通誘導への貢献 時刻、空間(場所)、公害の程度で料金に格差を設けられるので、料金設定によって交通の流れをバランスさせ、渋滞や事故の危険を低下させ、道路容量を効率的に利用することに貢献できる。たとえばフランスには、平常時に対して上下各25%の格差を設けることで、ピーク時交通量を10%低減させた例がある。しかし、有料と無料のネットワークがある場合は、無料ネットワークへ回避する交通が生じるのが問題であり、対策を講じる必要がある。
環境負担軽減への貢献 平均してキロあたりさらに3セントを徴収することで、環境への負担を適切に車に負担させることが可能になる。さらに、環境負荷によって料金に格差を設定することで、公害低減に魅力を与えることができる。アウトバーンのトラック通行料金は、公害の程度で50%の格差を設定した結果、公害が少ない"Euro 5"クラスの走行実績が、導入後1年で1%から6%に増加した。また、各区間周辺の状況と時刻で料金を変えることにより、騒音についても一定の誘導が可能である。
その他 技術的には、人工衛星を利用したトラック通行料金制度を拡張することで対処が可能だと思われるが、対象となる車の数が多いため、導入と稼動、監視の費用がかなり高くなる可能性がある。ドイツの道路網全体を対象に導入すると、把握が簡単になり、費用面も有利にできる。財源面だけ考えると、代替としてガソリンへの課税を増加する手法もあるが、ヨーロッパで足並みを揃えなければ、隣国に買いに出かけるタンクツーリストが増加するだろう。
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ゾーンへの料金:都心乗り入れ料金


評 価
道路インフラ財源への貢献 この手法はどちらかというと交通誘導の手法であるが、都市の交通インフラの整備にも貢献している。都市により、道路インフラに充てる場合と、公共交通を主体にする場合がある。
交通誘導への貢献 導入都市の経験から、ピーク時の交通量を低減し、交通流を早くする効果が確認されている。シンガポールでは、平均時速が低下すると料金を上げることで、交通を混雑しない時刻に移す効果を高めている。また、ロンドンでは、料金収入で公共交通を整備することにより、車を削減する効果を高めている。
環境負担軽減への貢献 車の量を一部削減し、渋滞を避けることで、環境への負担軽減に貢献する。また、ストックホルムでは、代替燃料を使用する乗用車への課金を無料にした結果、その比率が1年で3%から11%に高まった。しかし、対象地区のすぐ周辺では、迂回交通のために交通量の増加を招き、都市機能にも影響があるので、注意が必要で、補充的な対策を行うことが不可欠となる。
その他 時刻、場所、車種によって料金を変えると、徴収と監視への技術的・管理的な要求が高くなり、収入のかなりの部分がそれに費やされる。一方、単純なシステムは、交通の誘導と環境負担軽減にはあまり貢献しない。また、この方式が成果を生むには、交通が集中する強力な都心部の存在が前提となり、また当該都市の強い意欲が不可欠で、情報の公開や、車の代替となる公共交通の整備も欠かせない。なお、この方法の代替として、交通規制によるボンエルフ的手法を面的に導入することも考えられる。また、ドイツでは、環境ゾーンを設定して、排気ガスが多い車の都市中心部への乗り入れ規制を開始した結果、ベルリンでは煤煙が28%、窒素酸化物が18%低下したことが報告されている。
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まとめ:3方式の比較


全体的評価と活用可能性
期間による料金:ビネット方式 主として財政面に貢献するもので、交通の誘導はほとんど期待できず、環境面も現状を改善することはほぼ期待できない。一旦ビネットを購入した後は、さらに車を利用することに魅力を与えてしまうことも、問題である。
走行実績による料金:通行料金 財政面にも、交通の誘導にも適し、環境への負担軽減の効果も十分期待できる。問題はシステム設置費用と、設備、徴収と監視の維持経費が、料金収入に対してどの程度の額になるかという点であり、アウトバーンだけでなく、全道路網に導入することが経費の節約に貢献すると考えられる。
ゾーンへの料金:都心乗り入れ料金 主として交通を誘導する手法で、車による都心への進入を減らすことで環境面も改善できる。また、財政面にも有効である。ただ、この方法は、都市計画的、交通的に特別な前提がある場合に限って考慮されるもので、どこでも実施できる性質のものではない。

解説と感想

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