初めて制定された1962年の「建築利用令」は、1962年8月1日に公布されています。その後1968年、1977年、1990年と改訂され、さらに2017年にも用途地区が追加される等の改正が行われています。なお、大型店問題に対処するため、1986年には第11条第3項の1,500 m2を1,200 m2にする改正が行われています。
本ページは、このうち1977年の規定と、現行規定である2017年建築利用令を示しています。ただ、1990年規定と2017年規定は共通する部分が多いので、1990年規定もわかる形で2017年規定を記述しています。
1977年建築利用令は、1981年に私が翻訳出版した『西ドイツの都市計画制度』に資料として付けた建築利用令に、最小限の修正を加えて掲載したものです。ドイツにおける建築の規制で市町村が置かれている立場や、用途・形態規定のシステムは、1977年の建築利用令を見ればほぼ理解できます。その後、1990年の建築利用令を掲載し、それに手を加えて2017年規定にしました。
ところで、掲載にあたって最も頭を悩ませた問題が、訳語の選択です。日本では「用途地域」が用途・形態規定の基本となっていますが、ドイツではバウゲビート(Baugebiet)が基本です。バウゲビートをどう訳すかは頭の痛い問題で、そのまま訳すと「建築地区」や「建設地区」となってしまいそうです。日本の用途地域制は、ドイツや、その影響を受けたアメリカから学んで発展したものなので、バウゲビートは内容的に用途地域に似ています。かつて『西ドイツの都市計画制度』を翻訳出版した際は、バウゲビートを「建築規制区」と訳してみましたが、日本になじみがない用語のため、わかりにくかったのを反省しています。内容が用途地域と類似していることから、「建築用途地区」と訳される例もありましたが、ここではわかり易さを基本に、「用途地区」と訳すことにします。これに伴い、用途の一般分類を示すバウゲビートの上位概念であるバウフレッヘ(Baufläche)は、「用途区域」と訳しています。
日本の用途地域は、かなり大まかに指定されていきますが、建物が完成した形をイメージしながら指定されるドイツのバウゲビートは細かく、同じ街区内に異なるバウゲビートが指定されることもあります。この点から、日本の用途「地域」ではなく、用途「地区」と訳すことが必要だと考えています。
もともと、当初の建築利用令は、戦前に形成された市街地とは別れ、CIAMの「アテネ憲章」に典型的に示されている「都市の機能分離」を求める性格が強い規定でした。その後、1977年に追加された「特別住居地区」と、今回の「アーバン地区」は、一定の機能混在(複能)に長所があることを積極的に認めるもので、都市計画が求めるものが変化してきたことを示しています。今回の追加されたアーバン地区に関する第6a条の規定を眺め、私は、ジェイン・ジェイコブズが書いた『アメリカ大都市の死と生』に記されているボストン市街地のような「活気ある都市」をイメージしました。
2017年改正は、休暇用住宅の許容性を拡大するため、第13a条も追加しています。
ドイツは地方分権が進んでいることで知られています。市町村の議会がBプランを定めていることで有名ですが、建築の用途や形態の規制については用途地区(バウゲビート)が基本になっています。用途地区の種類は特別地区を除くと9と少なく、しかも全国一律ですが、そのなかで市町村が実態にあった対応をできるように工夫されています。日本では1992年改正で「住居系用途の細分化」ということで住居系の用途地域が3種類から7種類に増やされましたが、ドイツでは住居系のバウゲビートは菜園住居、純住居、一般住居、および特別住居の4種類です。しかも、新たに菜園住居地区が指定されることは例外的なので、実質的には3種類しかなく、この少ない地区で様々な市街地に対処しているわけです。
用途地区による規制の基本を定めているのが「建築利用令」です。第2条から第9条までを見ればわかるように、第1項が各用途地区の性質を、第2項が許容される用途を、そして第3項が例外的に許容される用途を定めています。「例外的に許す」とは、許可の前提が満たされたら認めるもので、行政が様々な事情を考量して決定します。
用途・形態規制に関連してとくに注目してほしい点が2つあります。ひとつは、各用途地区に許容される用途が普通の形容詞と名詞で示されている点です。たとえば「小売店」を考えると、第2条の菜園住居地区から第4a条の特別住居地区では「店舗」に含まれ、第5条の村落地区から第7条の中心地区では「小売店」であり、第8条の産業地区と第9条の工業地区では「営業用施設」に含まれる、といった具合です。純住居地区や産業地区に「小売店」という表現がないからといって、許容されないわけではありません。これら施設の許容性が、建築利用令に示された各用途地区の目的と形容詞によって制限されるという方式は、建築を許可する行政庁が実状に応じた判断を行うことを可能としています。ただ、土地を入手する場合に許容される建築物を予測することが若干困難ですが、多数の判例がありますのでほぼわかりますし、土地購入前に用途に限って問い合わせることも可能です。
注目してほしいもうひとつの条文は、第1条の第5項から第8項です。これを読むと、Bプランを定める市町村にかなり自由度が認められていることがわかるでしょう。ただ、「当該用途地区の一般的目的が維持される」限りであることには注意が必要です。たとえば、一般住居地区に例外的に認められている建築物をすべて排除することは、その地区を実質的には純住居地区に指定することとなるので、許されません。なお、第15条に「建築物およびその他施設の許容に関する一般的前提」という条項がありますが、この条項が発動されるのは特殊な場合だと考えていて良いでしょう。
また、建築物の密度については、第2節で一定の限度が定められていますが、その範囲内であれば市町村がBプランで適切に設定することができます。
ところで、97年度の都市計画学会大会で、「地方分権社会における都市計画」というワークショップが行われましたが、私は次のような提言を行ってみました。
第2種低層住居専用地域の規定を見直し、市町村の自由度を高める |
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1%にも満たない指定しかない第2種低層住専を、現行のまま存続させる意義は少ない。利用されない原因は、第1種低層住専との差の少なさにある。一方、高度地区の指定もなく中高層住専や第1種住居が主体の地方都市では、3〜4階(中層)までの建物による市街地形成を担保する手段がなく、低層住宅と高層マンションのトラブルが恐れられる。利用の少ない第2種低層住専の規制を見直し、次のようにすれば、地方に応じたまちづくりが可能となるであろう。 用途規定:第1種低層住専より緩く、第1種住居より厳しい範囲で市町村が決定 形態規定:北側斜線の控除高さは5〜10m、絶対高さは10〜15mの範囲で市町村が決定 (両者とも市町村全域に関して統一する必要はなく、地域で変化させ得る) |