特定街区の趣旨
(衆議院建設委員会議録第34号、61.04.23、p.8-9)
【答弁】稗田政府委員(建設省住宅局長)
今回の特定街区における制限と申しますのは、これは市街地におきまして個々の敷地単位に建築するということでなしに、一街区全体にわたりまして総合的に計画される場合には、今までの通則で行っておりますところに一敷地単位の高さの制限、建蔽率あるいは道路幅による制限等では、全体としまして土地の使い方として不合理な面も出てくるものでございますから、特定街区を指定しまして、全体の街区内の総合設計におきまして建物のお互いの相隣関係、あるいは隣の街区との相隣関係等を十分良好ならしめまして、そして都市計画上最も好ましい形の建物ができるようにいたしたいということをねらいといたしまして、通則をはずしたわけでございます。それで、端的に申しますと、建蔽率、道路幅による高さの制限というようなことでなしに、容積制限に置きかえたということになるわけでございます。容積制限につきましては、十分の十から十分の六十という、一種から六種までの各段階を設けたわけでございます。なお、その場合に、建物の相互の関係を良好な状態に維持しますために、壁面の位置というものを具体的にその箇所々々で指定しまして、建物の相互関係、街区間の相隣関係に不都合の起きないようにいたしたい、こういう考え方でございます。従いまして、高さの制限におきましても、その街区々々としまして都市計画上最も好ましい高さを指定するわけでございます。
宅地高度利用への第一歩
(参議院建設委員会議録第27号、61.05.11、p.12)
【答弁】稗田政府委員(建設省住宅局長)
特定街区の制度でございますが、御承知のように、建築基準法におきまして、普通市街地の通路幅による高さの制限あるいはその地域ごとで何割空地を残すかといったような建蔽率、また地域による絶対の高さの20mあるいは31mというような制限が一般則としてあるわけでございます。この一般則は、市街地の中で、区分された一敷地毎に建築工事が行われるという前提のもとに一般則ができているわけでございます。従いまして、一街区全体総合設計するという場合には、都市計画的に考えれば、もっと高さが高くてもいいというような場合におきましても、一般則が適用になりますると、みすみす工事が都市計画上支障ないにもかかわらず、高さを低く抑えなくちゃならぬというような場合があるわけでございます。そこで総合的に設計され、工事ができるというのは、都市計画的な観点から配慮して、こういった形で個々の街区が形成されることが一番望ましいと考えられた場合に、建築基準法におきます建蔽率、高さの制限、それから道路幅による高さの制限、これを排除いたしまして、別な都市計画的に考えましたしゃくし定木でないそこに一つの建築群というものを形成する規格を、その街区に定めるわけでございます。その方が、宅地の高度利用、また建物間の相隣関係、また街区と街区との相隣関係が非常に合理化されるわけでございます。そういう特例を開いたと。従って、特定街区に指定しなくとも、従来の一般則でいいところもあるわけであります。それは特に指定しないわけでございます。一般則では、どうもやりにくいという場合に、この特定街区を指定いたしまして、容積制限に切りかえる一歩としていこうというわけでございます。
容積制限は世界の趨勢
(参議院建設委員会議録第27号、61.05.11、p.12-13)
【答弁】稗田政府委員(建設省住宅局長)
根本的に申しますと、最近世界各国におきましても、都市の建築物の規制の仕方でございますが、大部分の大都市は、容積制限に切りかわりつつあるわけでございます。
そこで理想といたしましては、日本の建築法も、全部につきまして容積制限に切りかえまして施行していくというのが将来の姿としては望ましいのじゃないかと、かように思っておるわけでございます。しかしながら御承知のように日本の都市におきましては、街区の敷地割でございますが、非常に細分化しておるわけでございます。従いまして、その細分化した現状におきまして、いきなりこの建築の形の制限の従来の建蔽率、高さの制限等を容積制限に切りかえますと、非常な大混乱が起こるわけでございます。そこで漸進的に、一街区全体が工事できるような下地のある場合におきましては、一つの一般則からの特例を設けまして、十分建物間にも通風、日照にも困らないように、また建物間ばかりでなしに、隣の街区との関係におきましても、通風、日照等に影響のないように、また商業地域内等でございますと、自動車のパーキングするスペース等も、場合によったら街区内に取れるようにということで、そのかわり従来の高さの制限というのは、一般則の31m、20mにかかわりなく別に指定をするということで、市街地の建築群の集まりというものを近代化していこうという考え方でございます。
容積率100%は公営・公団の団地で、600%は都心部
(参議院建設委員会議録第27号、61.05.11、p.13)
【答弁】稗田政府委員(建設省住宅局長)
ここに掲げました第一種から第六種までの、実際に使われる場所の概念と申しますか、第一種と申しますと、十分の十でございますが、大体公営住宅の団地、公団住宅の団地等は、大体容積率を考えますと、第一種見当でございます。
それから第二種につきましては、これは住宅地区改良事業等になって参りますると、市街地の中に相当入って参りまするので、宅地の高度利用も、若干郊外に建つ団地とは変わってくるわけでございます。従って、住宅地区改良事業でございますとか、それから公団で行っております施設付の住宅、あるいは中高層耐火建築物の融資によりまして、一団地の住宅経営をやろうというようなところは、第二種ぐらいが適当じゃないかと思うわけでございます。
それから防災建築街区助成事業、市街地改良事業等になって参りまして、これは第三種あるいは第四種というようなことになってくるかと思うのでございます。
それから段階的に、土地の利用度が高まって参るわけでございますが、一番土地の利用度の高い十分の六十と申しますのは、都心部ということになるわけでございます。たとえば、東京におきまして丸の内かいわいの容積率でございますが、大体十分の五五ぐらいでございます。あの程度の土地の高度利用というのが、十分の五五ぐらいでございますので、まあ十分の六十というのは、都心部というような考え方をいたしておるわけでございます。
東京都の要望する容積制限一般化は時期尚早
建蔽率より壁面位置指定の方が実効的
(参議院建設委員会議録第27号、61.05.11、p.14)
【答弁】稗田政府委員(建設省住宅局長)
実は、この法案の策定にあたりましても、東京都ともたびたび打ち合わせをいたしたわけでございます。東京都といたしまして希望しておりますのは、現在の東京都の交通混乱、都市機能の低下といったような現象に対処するために、いわゆる容積制限を全部の東京都全域にわたって実施したいと、こういうような希望をいたしておるわけでございます。
しかしながら、わが国の市街地の敷地が極端に細分化されておる現状から考えまして、容積制限というものを、全面的に従来の建築基準法の高さの制限、建蔽率の制限等に置きかえて実施するというのには、相当、なお慎重な検討が必要と考えられたわけでございます。で、現在都市計画学会、また建築学会等におきましても、そういった全面的な制限というものについては、いろいろ検討を重ねておる段階でございまして、結論にまだ到達されていないというようなところでございます。
そこで政府といたしまして、今回提案いたしましたのは、東京都が考えておりますような一般的なものを対象とした容積制限というものではなく、主として何らかの意味で、公的な公の意志が作用し得るという街区整備を目的としました事業につきまして、それが都市計画的に最も合理的な建築集団を形成するということが期待できる場合に活用できるように容積制限の道を開いたというわけでございます。
そこで、「建築物の高さの最高限度及び建築面積の敷地面積に対する割合(建蔽率)の制限」に変えてほしいということでございますが、建築物の最高限度というものを決めることは、現行の建築基準法の高度地区の指定によりまして、これは現に31mの範囲内であればできるわけでございます。それから、建築面積の敷地面積に対する割合を変えるというのは、現に一般則といたしまして建蔽率の制限がかぶっておるわけでございますので、これを特定街区につきまして、建蔽率の制限を置き換えるというのは非常に困難でございます。そこで、私たちとして考えましたのは、建蔽率の制限でございますと、たとえば3割の空地というのが何ら実際の効用を果たさない、隣地との境に一尺程度の明き地がありましても、全部集約すればそれで3割になるというのも合法になるわけでございますが、壁面の位置というのは、実効の上がる、効力のある空地を確保しようというので、どうしてもこれは壁面の位置の指定で行くのがほんとうじゃないかということを考えたわけでございます。建蔽率と同じような目的は果たしますが、さらに空地の意義が確保されるというところが、壁面の位置の指定のほうがよろしいのじゃないかと思ったわけでございます。
主たる目的は公共施設と建物容積のバランス
(参議院建設委員会議録第16号、63.05.21、p.2)
【答弁】前田光嘉政府委員(建設省住宅局長)
ただいまお話のとおり、現行法の建築基準法におきましても、用途地域別に建築物の高さとか、あるいは道路幅員による斜線制限、建蔽率等の制度がございまして、実質上ある程度の容積の規制が行なわれております。しかしながら、最近特に大都市におきましては人口が非常に集中いたしましてこれに基づくところの交通施設の不足とか、あるいは上下水道等の公共施設の不足とか、こういう点につきまして、さらに、この都市のあり方を、その都市の地区の性格に応じまして明確に規制をして、建築をそれに沿って行なわせるということが都市の発展上最も大切かと考えます。こういたしますと、現在の用途地域制に基づくところの一種の容積規制と申しますか、あるいは形態規制というものは、実情に沿いがたい面もございますので、ここに新たに別途の制度の容積地区を設けまして、これを従来の地域の上にかぶせることによりまして。より具体的によりきちんとした容積の規制ができる、これによってよい都市が、昨日のバランスのとれた公共施設と建物の容積のバランスのとれた町ができる、こういうことから容積地区をこの際新たに設けたわけでございます。
従来の高さ制限では不十分
(参議院建設委員会議録第16号、63.05.21、p.2)
【答弁】前田光嘉政府委員(建設省住宅局長)
たとえば、現在の制度におまきしては、高さの制限がございまして、この高さの制限によって実質上その地区における建物物の容積が規制されておりますが、都市の最近の状況は、一定の空地を設けますならば、高さそのものはもっと高くてもいい、現在31mあるいは20mのような高さを制限しないで、容積そのものは一定で押さえましても、高さの規定をはずすということが、これは都市構成上いいということも考えられます。こういう地区をやはり大都市の中心等におきましては設ける必要がございますので、そういう面から申しましても、従来の制度では不十分である、こう考えまして容積地区制度をとったのでございます。
実態に沿い、大都市から運用を
(参議院建設委員会議録第16号、63.05.21、p.2)
【答弁】前田光嘉政府委員(建設省住宅局長)
この容積制度を設けまして、しかしながら、一面従来の用途地域制に基づくところの形態規制を残しておりますので、その意味におきましては両方併用されております。日本の現在の都市の状況、あるいは都市建築の状況から考えまして、一挙に全都市につきまして容積規制に置きかえるということは困難でございますし、あるいは実態に沿わない点もございますが、将来の発展方向から見ますと、大都市等におきましては、努めてこの容積地区制度の採用をしていただく、しかしながら、中小都市等におきましては、まだそこまで規制する必要がございません場合も考えられますので、できれば大都市等におきましては、積極的にこの容積規制を活用していただきまして、機能のバランスのとれた都市を作っていただきたいと思いますが、まだそこまでいっていない都市もある、こういうことから両方併用いたしまして、その都市の実態に応じた運用をしていきたい、こう考えておる次第でございます。
全面的切り替えは実態に合わないので、併存を
(参議院建設委員会議録第16号、63.05.21、p.3)
【答弁】前田光嘉政府委員(建設省住宅局長)
現在の土地の利用の状況なり、あるいは建築の状況から考えて、直ちに全部容積地区制に切りかえるということは実態に合わないだろう、また残念ながら日本の土地の建築状況を見ますと、現行法の容積地区に基づくところの形態制限で一応足るのじゃないかというようなことを考えられますので、両方の制度を併存いたしまして、都市の実態に即した運用に待とうと考えておりますので、将来におきましては、あるいは全面的に切りかえていくべきかと思いますが、現状においては、こういうような併存によりまして必要な都市から実施していくというのが最も適当であろうと考えまして、両方の併用の制度にいたしたわけであります。
道路による建物高さ制限と、斜線制限
(参議院建設委員会議録第16号、63.05.21、p.4)
【答弁】前田光嘉政府委員(建設省住宅局長)
この場合に、従来の規定でございますと、高さの制限が31mでございましたので、こういうことはできませんでしたが、今回は敷地の面積と建築の延べ面積の比率さえ規制しておけば、ここから出る交通量等なり、の分量は規定できる、都市計画上支障ない、だから、もう31mの制限をはずしてしまって、高くなることを認めよう、これが容積地区の基本的な考えでございます。
それからその次、新たに設けましたのは、現在の法律におきましても、道路と建物の関係につきまして、御承知のように、道路幅の1.5倍の高さでなきゃならぬという規定は、これは道路が狭い場合に、高い建物ができますと非常に困りますので、こういう点の制限は同じように置くつもりでございます。しかしながら、現在道路が1.5倍あった場合に、それに8mを足した高さで現在切られております。この規定は、これは容積地区を置くことによりまして、必要がないと考えられますので、これははずします。でございますから、1.5プラス8という制限をはずして、1.5あれば、こういうふうになって高くなっても、この範囲内である限りは高くしてよい、この辺で切ったプラス8mという制限は排除しようということであります。
もうひとつ設けましたのは、隣地との境界につきまして、現在は31mしか建物ができませんからこの辺で切ります。ところが、高さの制限がなくなりますれば、高くなりますと、隣地との関係で、これがあまり高くなり過ぎますと非常に谷間が深くなり過ぎまして、これに対する採光なり通風が悪くなりますので、一定の率を設けまして、31mより上に出る部分につきましては、1対2.5という数字を設けまして、こういうふうな角度においてひとつの線を設けまして、この線の中で押えるようにする。そうすると、高くすることはしましても、隣地との関係が少し幅が出てくるというので、この附近に対する採光ができるので、こういう線の隣地との関係において制限を設ける、こういうふうにいたしまして、高くすることによって、隣の建物に対する悪い影響を排除しよう、こういうふうにいたしたことでございます。これが今回の高さの制限改正に関連して設けました規定でございます。
隣地斜線制限は主として採光を考えた
(参議院建設委員会議録第16号、63.05.21、p.4)
【答弁】前田光嘉政府委員(建設省住宅局長)
ただいま御説明いたしましたように、隣地とのある程度距離を離さないと高くできないという規定を設けましたのは、やはり隣地の建物に対する採光を主として考えております。そういう関係で、ただいま先生のお話しのように、特にそういう採光なり通風なり隣地との関係において考慮する必要のない場所につきましては、そうしなくともいいようなことをする必要があります。たとえば隣地が公園であるとか広場であるとか、こういうふうな場合には、こういう制限は要りませんので、その場合には政令で特別の緩和措置を考えております。ただいま先生の御指摘の事務所地区等で一般的にそれほど採光を必要としない、こういうふうな場所につきましても、同じような特例を設ける必要があると考えまして、目下そういうことにつきましての案を検討いたしておる次第でございます。
地下室も容積だが、例外は設ける
(参議院建設委員会議録第16号、63.05.21、p.4)
【答弁】前田光嘉政府委員(建設省住宅局長)
地下室もやはり交通の需要の発生源でもあり、同時にまた、そこに人が居住するとか、あるいは使用いたしますので、公共施設も必要と考えますので、今回の容積の地区別の算定におきましては、地下室も容積の中に算入しようというふうに考えております。
(中略)その地下室は一応原則として入れますけれども、あるいは自動車の車庫の一定のものとか、あるいは機械室等で、特に床面積に対して相当な機械室の分量を占める場合という場合におきましては一定の例外を設けたい、こう考えております。運用におきましては、相当程度の地下建築物ができましても、この運用によりまして、建築にそれほど支障はない、むしろ合理的な運用ができるというふうに考えているのでございます。
容積制の理念
(参議院建設委員会議録第17号、63.05.23、p.1-2)
【意見】笠原敏郎参考人(日本大学名誉教授)・・太字は作成者による
この法案による改正事項の内容の最も主要な点は、建築基準法の第3章の規定のうちに、いわゆる容積地域の規定を新たに追加する点であると思われます。第3章の規定は、いずれも都市計画区域内に限って適用される建築規制でありまして、都市計画によって規定されている各種の施設の計画と表裏一体の働きをなすものであることは、御承知のとおりであります。それで、私は主としてこういう観点から、この改正案についてできるだけ簡単に意見を申し述べたいと存じます。
御承知のように、現在、都市計画法及び建築基準法によつて定まられている用途地域制の目的は、都市の各部分の利用の仕方を建築物の用途の方面から合理的に整理することでありますが、これに対して、容積地域制の目的は、建築物の建て込む度合いの方面から、土地利の仕方を適度に調節することであって、いわば前者は質の方面から、後者は量の方面から、土地利用の適正化をはかって、そして両者相待って初めて各種の都市施設の合理的な計画の作成を期待することができるわけであります。
そのわけについて、ごく簡単に申し上げます。まず、この、今申しました土地利用の量的な調整の手段をどうして容積地域制というかと申しますと、各種の都市施設、道路とか公園、住宅、水、下水等のすべての都市施設でございますが、この都市施設が、どれだけの分量が必要であるかということは、これは、もちろん都市居住者のこれらの施設を必要とする生活行為の分量によってきまるものでありますが、今ここにほぼ同じ用途に利用されている区域の中で、一定の面積の中で行なわれる各種施設を必要とする生活行為の分量は、都市計画上の大まかな取り扱いといたしましては、この面積内に存在する建築物の容積に比例すると考えて差しつかえない。この基本的なそういう考えから出発して用途地域制という名称があるわけであります。ボリューム・ディストリクトとかバルク・ディストリクトとかいう言葉のちょうど翻訳のような形になっております。ただし、建築法規の適用の場合に、具体的に容積を計算する基準としては、一般に建築物の延べ面積、すなわち、各階の床面積の合計と申しますが、延べ面積をもって計算する方法が、これは一般に各国とも用いられておりまするから、まあ正確に言えば、延べ面積率の地区別制限というほうが正しいかと思われます。それで、ある都市の各部分について、用途その他の土地利用上の特殊性によって幾種類かの地区に分けて、その各地区ごとに、建築物の敷地の面積と敷地内の建築物の延べ面積の合計の比率の最大限を適当に規制すれば、押えていけば、それによって都市の各部分についても、また、その集積である都市全部についても、将来早晩予定しなければならない居住人口や世帯数、交通量、給排水量等の施設を必要とする行為の分量の落ちつくところの最大限と、したがって、これに対応する住宅とか交通施設、給排水施設、その他各般の公共施設の包容能力あるいは処理能力等にも、相当根拠ある推定が可能となって、均衡のとれた、裏づけのある計画が立てられるはずであるというのが、この容積地域側の理念のあらましであると思います。都市計画方面におきましては、この容積地域制と同様な考えに基づいている規制は、まあ第一次大戦後のころで、すでにベルリンの建築法などでも行なわれておりますし、その後各国でも研究されておるのでありますが、実際にはわが国を初、欧米都市でも最近までは、従来からの伝統的な関係もありまして、あまり採用されていないのであります。
(中略)ところが終戦後、ことに最近に至りまして、欧米諸都市を初め、わが国都市においても、予想もしなかつた急激な産業施設と人口の都市集中のために、いわゆる過大都市現象が発生し、そのために苦悩しておりますることは御存じのとおりであります。わが東京のごときは、この悩みの深刻な点では代表的であるともいわれておりまするが、この過大都市現象の発生の最も主要な原因は、要するに急激に膨張する都市生活の分量と、これを追っかけていく各種の都市施設の処理能力、あるいは包容能力の拡充強化との間の均衡の破綻によるものであるということができると思います。むろん、都市施設の機能拡充の計画には、財源や技術の方面からいろいろの制約を受けるでありましょうけれども、何と申しましても、合理的な計画立案の基件−データとなるところの、今後の都市居住の生活行為の量的調整ができるかどうかということが、問題の焦点ではないかと考えます。東京の例を見ましても、このまま放任しておいて、一千万都市がいつ千五百万都市になるのか、あるいは二千万都市になるのかというようなことでは、手のつけようがないのではないかと思います。
そこで、今からでも、おくればせながら、何とかして都市生活の量的膨張の速度を抑制するとともに、生活の量と均衡のとれた都市施設を整備し得るような手段を講じなければならないと思います。もとより豊富な財源と強力な行政権の行使を前提としますれば、ほかに有効な手段を案出することも不可能とは申しません。また望ましいことでもありまするけれども、現実の問題として、各方面からその可能性を考察いたしますれば、今日の段階においては、建築基準法の中の第3章に容積地域制の制度を採用することができる道を開いておくということは適当であり、また望ましいことでありましょう。また、最近に至って、欧米都市においても、すでにこれを実施しておる大都市も相当多数に上っておるという事実から見ましても、わが国都市において時期尚早であるということは言えないと思います。
以上が、この改正法案の内容の重点である容積域制の採用に、私は賛成するのであります。
近年は高さを組み合わせて都市空間を有効利用する方向へ
(参議院建設委員会議録第17号、63.05.23、p.4-5)
【意見】松井達夫参考人(早稲田大学教授)・・太字は作成者による
(前略)近年の都市計画の、特にドイツの戦後の都市計画のプリンシプルというものは、以下述べるようなことであるということでございます。
第一は、そういったふうな古い都市というものは、近代の経済的、あるいは社会的、あるいはその他の生活上の近代の要請にだんだんそぐわなくなってきているので、その古い町というものはだんだん作りかえていかなくちゃいかぬ、更新していかなくちゃいかぬということでございます。そうして、その更新をしていきますのに、町のそういった姿と申しますか、そういったものも自然と直していかなくちゃいけないというのでございます。
そこで、どんなふうに一体形というものが直っていったほうがいいのかと申しますというと、町の中心部といえども必すしも立て込んでいる形というものはよくないのだということでございます。そうかといって、これを郊外の田園地帯みたいなものを町のまん中に持ってくることはもちろんできないわけでございますが、そういった、今までのような、ある一定の高さに建物ををそろえて立て込んでいくという形ではなくて、ある部分はずっと高くなって、ある部分は低くなるといったような建物のいろいろな高さの組み合わせで、そこに、日光あるいは風、その他そういった健康上にいいものを持ち来たし、あるいは都市の景観というものも新しく作りかえていく、それがこれからの都心の姿だ、また同時に、町の外の方にいっても、必ずしも家を低くする必要もないのである、こういうことでございまして、近来、ヨーロッパの都市におきましても、郊外の住宅地などにおきましても、盛んに高いアパートを作っておるといろ工合でございまして、高さというものが、昔は階段的にそろえられておったものが、少なくとも高さの面につきましては、内も外もそうはなはだしい違いがない、また、その空間的な取り合わせにいたしましても、低いものと高いものを組み合わせるといったような面におきましても、だんだん昔のような一つの型というものがどんどん取り除かれて、新しい形になってきているというふうに見られるのでございます。
それから、もう一つのプリンシプルの大事な問題は、交通の問題でございます。近来の自動車交通というものは、ヨーロッパの古い都市をゆり動かしているわけでございまして、まあアメリカでもそうでございますが、交通路を新しく作る、あるいはまた駐車場を作る、要するに、自動車交通−動いている自動車に対しても、とまっている自動車に対しても、何らか新しい手を打たなくちゃいかぬということでございます。その面におきまして、都市の、先ほどもお話に出ました土地の利用にいたしましても、土地の利用と申しますと、結局、建物の利用、建物の用途ということになるわけでありますが、その建物の用途と、常にそこから出てくる自動車の分量というものを勘案して、都市内の土地の用途というものを考えていかなげればいけない、そういうふうになって参っております。それと同時に、交通路の整備をしなくちゃいけないということでございます。今回の容積地域といったようなものは、そういう面からも都市計画的に十分検討する必要があり、また、そういう意味において理由があると思うのであります。
それからもう一つの現代の都市計画の問題といたしまして、そのドイツの都市計画のプリンシプルに取り上げられますことは、これも昔からの問題でありますが、グリーンでありますとか、公園でありますとか、こういったものの整備が必要であるということであります。ヨーロッパにおきましては、あるいはアメリカの都市におきましては、日本と比較にならぬそういったものが多いということになっておりますけれども、さらに、これからの社会的な、あるいは経済的な、あるいは技術的な進歩によりまして、ヨーロッパにおきましても、人々のだんだん、いわゆるこのごろ日本でもやかましいレジャーがふえる。そういう人たちのレジャーを過ごす場所というものを、都市内において、居住地から遠くないところにおいて与えなくちゃいかぬということで、それを重要な方針の一つとうたっているような次第でございます。日本の都市におきましても、さらに向こうと比較しまして、そういう点において欠点があるおけでありますが、これらを一括いたしまして、都市の中の土地の利用というものを新しく考え直さなくちやいけない、それから建物の容量というものを考え直さなければいけないということにまってきておるのでございます。
(中略)さらにアメリカは、御存じのような、たいてい基盤割の町でございまして、いわゆる単調な町が多いのでありますが、そこに高い建物が節比いたしまして、息が詰まりそうだといったような町になりつつなってきておったわけであります。こういったものに、やはり先ほど申しましたような意味で、風通しをしなくちゃならぬ、息が詰まりそうだというようなことで、町の改造というようなことが今世紀の初めからもいろいろ叫ばれておったのでございます。最近に至りまして、ようやく都市改造というようなものが軌道に乗っておるわけであります。そのやり方はどうかと申しますと、現在のニューヨークやシカゴの建築規制がそうでありますように、やはり容積的にやっていくということであります。
そういう意味で、高いものと低いものをうまくまぜ合わして、都市の空間を少しでも有効に働けるようにもっていく、こういった意味の、いわゆる容積制というようなものがどこの国でも行われつつあります。2・3年前アメリカの都市を見まして、昨年もヨーロッパの都市を見て回ったのでありますが、こういう趨勢は、日本の都市におきましても、とめるわけにはいかないだろう−とめるわけにいかないというよりも、こういう新しい趨勢をとるほうが、日本の都市としてもよいであろうという感じを強めたのであります。そのためには、高いのと低いのをまぜ合わすのでありますから、今までの高さの規制をこえて高いものを許さなくちゃいけない。またそのためには、そういった高いものがまたぎっしり建つのではいけないのでありまして、そのためには、全部ぎっしり建たないような制度をとる必要がある、そう痛感したわけでありますが、そこに、今回のこの法案にありますような容積地域というものがぜひとも必要だということを強く感ずるのでございます。そういったような意味におきまして、この容積地域というものが法制化され、それが適切に運用されることがぜひ望ましいと思うのであります。
特に、この適切に運用されるという点におきまして、なおつけ加えますと、先ほど申しましたような、都市の全体的な容積というものを各都市について適切に考える。また、直接には、交通問題に対しまして、その都市の建物の容積というものを適切に考えなきゃいけないということであります。それで、今度の法案にもいろいろな容積の基準がございますが、これを全国の各都市にどのように適応さしていくかということが、これから最も大切なことだと思うのでありまして、単に、その基準がいいとか悪いとかいうよりよりも、今後の適用というものが最も大切であると、こう考える次第でございます。