コロナ対策と自由の制限:ドイツの憲法と判決
日本では、2020年4月7日に7都府県に対し、新型コロナウイルス対策としてインフルエンザ等対策特別措置法による「緊急事態宣言」が出されました。宣言に先立って国会で議論が行われ、また宣言を受けた記者会見も実施されています。その報道や会見をテレビで見ていて、ドイツの制度との違いをいろいろ感じさせられました。4月16日に全都道府県に拡大された「緊急事態宣言」は5月に一旦解除されますが、第二波以降も活用され、法律改正で「まん延防止等重点措置」も登場しました。
日本のコロナ対策は基本的に「協力の要請」で、強制力がありません(その後の改正で一部可能となりましたが、ドイツとは大きな差があります)。一方、 ドイツの対策は「命令」で、個人の行動を制限できる強制力を有し、違反には罰則もあります。この結果、憲法(第二次大戦後のドイツ東西分裂の影響で"基本法"と呼ばれています)に基本権として定められている各種の自由との関係が問題になり、すでに多数の裁判で争われています。結果的に「穏当な判決」が多いことは事実ですが、理由づけに「なるほど」と納得できる点が含まれ、勉強になります。もちろん、それまでのコロナ対策に問題点を指摘して方向を転換させた判決もあります。そして「営業の自由」との関係では、生命に関する憲法解釈が日本と大きく異なることがわかります。日本国憲法第十三条をドイツ基本法のように解釈できれば、緊急事態条項がなくても、コロナ対策に必要な範囲で自由を制限することが可能です。以下に、この問題に関するドイツ司法の考え方を伝えています。
なお、日本のマスコミで流されるドイツ情報にはかなり不十分な点があるので、ドイツの実態も伝えたいと思います。
私は、主にルール地方のローカル紙を手がかりに、ドイツのコロナ情報を得ています。以下の判決でノルトライン・ヴェストファーレン州(NRW州)が多くなっているのは、ルール地方がNRW州だからです。NRW州は、面積でドイツの1割、人口では2割と、ドイツで最も人口が多い州です。高等行政裁判所は各州にありますが、相互に決定を参照しているので、州による判断の違いはほとんどありません。このため、NRW州の判決にも連邦のコロナ対策を転換させる効力があり、その実例も紹介しています。
なお、私が書いているブログ「ルール地方よもやま通信」に、コロナ危機に関連する情報をいくつか紹介しています。重なる点もありますが、参考になる点があるかもしれません。
(20.04.07/21.12.17更新)
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ドイツと日本の新型コロナウイルス対策の違い
外出を制限しないドイツのロックダウンは都市封鎖ではない
- 春の第一波の時期に、 ドイツは、よくフランスやイタリアとまとめて「外出が禁止された」と報道されていました。マスコミが言う「ロックダウン=都市封鎖」です。しかし、これは事実でありません。ドイツには16の州があり、規定を定めるのは連邦でなく州です。そして、実際に外出を一部で制限したのは、バイエルン、ザクセン、ザールラントの3州だけでした。たとえば最大の人口をかかえるノルトライン・ヴェストファーレン州(以下「NRW州」と略します)のラシェット首相は、「外出すること自体は問題ない」という考えです。2020年3月22日に行われた連邦と州首相のネット会議では、バイエルン州のゼーダー首相と、外出を制限するかどうかで意見が厳しく対立しました。
- 武漢の「都市封鎖」で広く知られるようになった「ロックダウン」という言葉ですが、 ドイツでは、この英語が意味する通りの「鍵をかけて閉める」という意味で用いられていると考えられます。「誰でも入れるはずの場所に鍵(ロック)をかけ、閉鎖し続ける」というドイツのロックダウンという表現を、 日本のマスコミが、中国の武漢と同じような「都市封鎖」だと受け止めてしまった、というのが真相だと思います(小池都知事の発言も影響したでしょうが・・)。もちろん、通常でも店舗には営業終了後に毎日鍵がかけられますが、翌日には開けられます。ロックダウンの場合は、翌日になっても、そしてその翌日も、閉じられたままである点が違います。これがドイツの「ロックダウン」です。日本語にするなら、「都市封鎖」より「施設封鎖」の方が適切ではないかと思います。
- ドイツが、生活必需品を扱っていない店舗についても4月20日から売り場が800u以下であれば開店を認め、4月末には売り場面積に関係なく開店して良くするなど、対策を次第に緩和していったことは事実です。しかし、日本と違い、人と人の間での距離の維持や(ドイツの感染症司令塔であるロベルト・コッホ研究所は"1.5m"を求めています)、屋外での集合の制限など、対策の核と考えられる部分は継続され、その違反には罰則もあります。この結果、半年近くコロナの第二波は抑えられていました。しかし、夏の旅行シーズンに入り、人の移動がヨーロッパレベルで活発になった後の9月半ば頃から、第二波に襲われてしまいました。各地で行われていたコロナ対策に反対するグループによるデモも、少しは影響したのかも知れません。年末にかけて再びロックダウンが実施されましたが、もちろん「都市への出入り制限」は行われていません。
制度の柔軟度と罰則の有無
- これまで ヨーロッパにおいて、マスクは「東洋的なもの」であり、医療などの特殊な分野で使用されるものでした。しかし、新型コロナウイルス対策を進める過程で効果が認められ、各地で手作りマスクが登場し、社会に受け入れられてきました。さらに、4月末からは買い物や公共交通利用の際には義務化され、罰則がある地域もあります。このように迅速に対応できたのは、 ドイツの感染対策の規定が柔軟で、対策を自由に選べるからです。
- 日本で宣言解除後に求められている「新しい生活様式」も、人との距離やマスク着用を呼びかけていますが、単なる協力の要請に過ぎない点がドイツとは異なります。 ドイツの方式では、感染の動きに(そしてもちろん、裁判の動向にも)常に敏感になり、規定を調整する必要がある点で、行政は大変です(日本は、この役目を国民が行っている部分もあるかもしれません)。その大変さに見合う効果があることを期待していますが、さて、どうなのでしょうか。
新型コロナウイルス対策を巡る判決
- 以下に説明しているドイツ司法の決定は、いずれも緊急時に行われる「仮命令を求める手続き」で提訴された事件です。コロナ対策は短期間で変化し、営業禁止が長く続くと会社倒産など、償うことのできない損害が生じる恐れがあります。迅速に決定するため、どうしても検討に不十分な点が残る可能性がありますが、検討するポイントを絞って迅速に決定することが不可欠である、という趣旨の手続きです。日本の行政事件訴訟法第三十七条の五にある「仮の義務付け及び仮の差止め」も同じ性格で、民事訴訟で見られる「仮処分」と同趣旨の手続きです。
- 一方、コロナ対策の根拠は、連邦法である「感染防止法」(Gesetz zur Verhütung und Bekämpfung von Infektionskrankheiten beim Menschen)です。日本の「新型インフルエンザ等対策特別措置法」と異なり、必要な対策を「感染可能な病気の蔓延を防ぐために必要な範囲と期間に限って実施する」ことを認めています。
- ドイツでは、感染対策への規則(命令)を決定するのは基本的に「州」ですが、市町村も決定できます。州はほぼ足並みを揃えていますが、一部で自治体によって規則や開始日が異なります。大半の州が規制を開始したのは、連邦と州のテレビ会議が行われた翌日の3月23日(月)で、2週間の予定でした。しかし、規制はその後延長され、多数の訴訟が提起されることとなりました。たとえばドイツで人口が最も多いノルトライン・ヴェストファーレン州の高等行政裁判所には、4月30日正午の時点で50件以上の仮命令手続きが提出されており、そのうち約20件はすでに処理されていました。
- 裁判は「紛争を解決へと導く」一つの重要な手法です。 日本のインフルエンザ等対策特別措置法は、「要請と自粛」を基本とするため、裁判という手法を用いるには大きな障害があり、裁判所は「自粛警察」や「補償」などの議論にも参加することができません。一方、 ドイツの対策は「命令」であるため、仮命令を求めて多数の裁判が行われていることは、コロナに対する考え方の整理に大きく貢献しています。だから、ドイツの裁判制度も、コロナ対策の一部になっている面があるように感じられます。
コロナ対策による営業禁止と「営業の自由」
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オーバーハウゼン市では、劇場の駐車場を借り、カトリック教会の復活祭礼拝が行われました。(Der Westen紙より) |
教会やモスクでの「礼拝禁止」と「信教の自由」
連邦憲法裁判所、2020年4月10日および4月29日決定
状況
- 韓国でコロナ感染が広がった原因に、テグ市における新興宗教団体「新天地イエス教会」の礼拝があると言われています。多数の信者が密集し、声を出して礼拝が行われていたそうです。
- ドイツは、宗教的にはキリスト教を主体とした国です。春の復活祭はキリスト教で最も重要な祭りで、教会では特別な礼拝が行われます。ところが2020年の復活祭の4月12日には、コロナのために教会に集まって行う礼拝が禁止されていました。礼拝の映像をインターネットで流したり、オートシネマを借りて車で集まって礼拝を行う例もありましたが、やはり教会で行う例年の礼拝とは違います。
- そこで、ヘッセン州のカトリックの敬虔なキリスト教徒が、教会での礼拝禁止は「信教の自由」を侵害するとして、違憲の訴えを行いました。結論が出るまでには期間がかかり、復活祭が終わってしまうので、同時に州のコロナ保護令を当面停止する仮命令を求めて提訴しました。
礼拝禁止は信仰の自由への重大な侵害なので相当性につき継続的に厳しい検討を要す(4月10日決定)
- 申請者は、教会の資料を使用して、聖体の祭りが重要であり、インターネットによる礼拝や、個人的な祈りでは補えないことを明確にしました。法廷も、教会で礼拝できないことは、「信教の自由」に対する重大な干渉であり、とくに復活祭の礼拝はそうであると認めました。申請者は、違憲の訴えが成果を上げた場合に関し、取り返しがつかない深刻な不利益を受けると強調しました。
- 一方、仮命令で教会での礼拝を認めた場合、復活祭の期間に多数の信者が教会に集まり、ウイルス感染リスクを高め、病気を広めて医療施設に過度の負担を及ぼし、最悪の場合、人々の死を増加させます。この影響は、礼拝に参加した人々に限られず、より広範に及びます。
- 法廷は、身体と生命への危険の保護が、非常に重大な信仰の自由の侵害より優先されるとしました。現在は、接触を防いで感染拡大を遅らせることが重要です。現行のコロナ令は4月19日までで、その後は規則の改定が予定されています。信仰の自由への重大な侵害であることを考え、改定時には、礼拝の禁止を緩和できないかが厳しく検討されねばならない、と示しました。
規則の改定とイスラム教の金曜礼拝
- 規則はその後改定され、4月20日からは新しくなりました。それまで、食料品や薬品など、コロナ下での生活に欠かせない店舗しか営業できませんでしたが、20日からは売場面積が800uまでの店舗は営業できるようになりました。しかし、教会やモスクでの礼拝は、依然として禁止が継続されました。
- イスラム教では、金曜日にモスクに集まって礼拝することが重視されています。しかも、この2020年はラマダン(断食月)が4月24日からと、コロナ規制にぶつかり、金曜参拝が許されません。しかし、スーパーなどの店舗では、十分な間隔を保つことで感染リスクを下げ、買い物が許されています。そこで、あるイスラム教の団体が、小売店での買い物と同じ保護予防が守られていれば、礼拝も認められて良いはずだと考え、「信教の自由」を根拠にモスクでの金曜礼拝を求めました。
- 宗教団体は、まずニーダーザクセン州の高等行政裁判所に提訴しました。裁判所は、たしかにモスクで礼拝できないこと、とくにラマダン月にモスクで金曜礼拝をできないことが「信教の自由」への深刻な侵害であることは認めました。しかし、小売店での買い物と比較し、継続時間が長い共同活動であり、とくにウイルス排出の恐れが高い祈り声と歌が共に行われると思われます。このため、感染を避けるために依然として礼拝禁止が必要だとして、4月23日に訴えを退けました。
憲法裁判所が、禁止に対する例外が認められていない点を一時的に停止(4月29日決定)
- この判断を受け、宗教団体側は、感染防止対策をより明確にし、連邦憲法裁判所に提訴しました。とくに指摘したのが、イスラム教にも多くの宗派があり、それによって共同礼拝の方法が違うことです。この団体の場合は、歌は歌わず、共同の祈りでも声を出すのは「イマーム」だけだと主張しました。さらに、マスクを着用し、買い物の状況と比較して祈る時間が長く継続することに対応し、信者間の距離を買い物時の4倍にして座る位置を決めます。また、祈る人数を減らすために礼拝を複数回に分けて実施し、別々に招くことでモスク前で待つ列も避ける、と計画しました。
- 確かに、モスクの礼拝による感染リスクは、状況に応じていろいろです。申請者は、礼拝の禁止が違憲であることも訴えていましたが、結論が出るまでには時間がかかり、ラマダンは終わってしまいます。そこで裁判所は、暫定的な礼拝の例外許可の問題に限定して、具体的な事情を広く評価した場合に、感染リスクの高まりを確実に否定できるような礼拝を個別に例外許可する可能性を開いていないことは是認できない、と示しました。
- この決定を行った3名の裁判官は、4月10日に礼拝禁止を認める決定を行った3名です。裁判官の判断が、訴えの内容に応じて変化することを明確に示しており、イスラム教団体の「作戦勝ち」と感じられます。
判決の影響
- 連邦憲法裁判所は憲法に関連して最終的な判断を下す裁判所なので、判決は直ちに連邦全体に影響します。たとえばノルトライン・ヴェストファーレン州は規則を改正し、必要な距離と衛生規定をまもれば、5月1日(金)から教会等における宗教上の集まりが行えるようになりました。しかし、行うべき対策に不明確な点もあり、準備も必要なので、5月中は礼拝を控えている教会がかなりあるようです。
- そのなかで、デュイスブルク市北部の聖ヨハネス教会は、早くも5月3日(日)に礼拝を行いました。椅子は1列置きにリボンで閉鎖され、利用できる列には、テープで安全な距離が記されていました(スーパーと同じ1.5mだったそうです)。参加人数は少なく、オンラインサービスが苦手な高齢者が中心でした。ほとんどの信者はマスクを着用し、聖歌の数は減らされ、しかも歌うのは一節だけにとどめられました。司祭が信者にパンを配る際は、手を消毒し、しっかり距離をとって並び、会話も控えます。礼拝が終わった後の退出でも、ルートが決められ、間隔を保って順序よく出て行きました。
- こうして教会毎にガイドラインが作成され、再開が増加していきました。教会によって条件が異なるためか、統一したガイドラインはないようです。ほとんどの教会で事前の登録が必要で、上に紹介した聖ヨハネス教会の初の礼拝と違い、聖歌を歌うことを断念する例も多いようです。
フランクフルト市で発生した集団感染
- その後、フランクフルト・アム・マインの教会でコロナの集団感染が生じたという発表がありました。初めて報道された5月23日には40人以上とされていましたが、翌日には100人を超えたと報道され、月末には200人を超えました。この数字は、礼拝に参加した方の家族への感染も含んでいます。
- 礼拝が行われたのは5月10日(日)で、参加者は約180人だったそうです。教会側は、1.5mの保持、消毒剤の準備、入口と出口を分けるという礼拝条件を守っていたと説明しました。しかし、聖歌を歌ったことと、マスクをしていなかったことを認めました。また、参加者の住所の記録がなく、保健局は調査に苦労したそうです:これは義務づけられてはいませんでした。ハーナウ市など、フランクフルト市周囲からの参加者も多く、実際の感染者数はもう少し多かった可能性もあります。
- いすれにせよ、声を出すことの危険を改めて示した事件です。なお、後になり、建物内の広さから考え、180人なら1.5mは守られていなかったのではないかという疑問も出されています(ドイツの距離規定には例外が認められているので、微妙な部分もありますが・・・)。
マスク義務はほぼ確実に合法
ノルトライン・ヴェストファーレン州高等行政裁判所、2020年4月30日決定
状況
- マスク大国の日本では、マスクにコロナ感染防止の効果があることを疑う人はほとんどいないでしょう。しかし、マスクが生活にあまり浸透していないドイツには、疑問を有す人が結構いるようです。しかも、ウイルスは微小なので、マスクの繊維を通り抜けるという話しもあり、どう考えるべきかと悩みます。
- ロベルト・コッホ研究所は、現時点で利用できるマスクに関する資料を集めて評価した結果をまとめ、4月14日に発表しました。研究所は、公共空間の特定の状況でマスクを使用することで、リスクグループを保護し、感染スピードを低下させることができると、マスク着用を推奨しました。ノルトライン・ヴェストファーレン州も直ちに対応し、4月24日のコロナ保護令改訂で「マスク着用(規則は、「繊維製の口鼻保護具(日常のマスク、スカーフ、布など)の着用」となっています)」が登場し、4月27日から実施することとしました。
- ドイツのコロナ対策の基本は、公共空間で、他人に対して基本的に1.5mの最小距離を保持することです。しかし、医療的、法的、倫理的または構造的な理由でこの最小距離の保持が不可能な場合があり、その際にはマスクの着用が勧められる、と定めました。
- 一方、小売店、公共交通機関と医療施設においては、着用が義務づけられます。対象となるのは、施設の従業員と顧客です。但し、入学前の子どもと、医学的理由で着用できない人は対象外です。また、従業員については、フェイスガードなどで代替することが認められます。
- 裁判で争われたのは、最後に示した「特定施設における着用義務」です。
マスク義務はほぼ確実に合法
- 裁判所は、「規則制定者がロベルト・コッホ研究所の最新の推奨に従ったことで、異議はない」と述べています。具体的には、現在の知識によると、場合によっては私的に作成された繊維製の口鼻の覆いであっても、飛沫やエアロゾルに対してフィルター効果があり、呼吸器から呼気を通じたウイルスの排出の減少につながることができると考えられます。
- 確かに、多数の科学的意見の中に、単純な口と鼻の覆いの有効性を完全に否定する声があるかもしれません。しかし、コロナ保護令制定者が、多くの支持しうる見解のうちひとつを優先しても、未確定でこれと調和しない事実を無視していなければ、裁量の余地に反していない、と裁判所は判断しました。小売り分野等での規制緩和が必然的に個人的接触の増加につながるため、接触を制限する対策に、補助的に口と鼻の覆いを着用することを追加することは、問題ありません。
- マスク着用義務は空間的、時間的に限定されており、入学前の子どもや、医療上の理由がある人には義務が免除されています。また、必要となる口と鼻の覆いは、通常、各世帯に存在するか、あるいは規定発表後に自作するか、地元の店舗で購入することができます。こうして、「マスク義務はほぼ確実に合法である」という結論になりました。
その後のマスク義務の拡大
- 当初から、「マスク義務の範囲をもっと広げるべきだ」という意見がありました。そこで、5月11日から公共施設等に拡大されました。この他に、コロナ保護令に関係し、業種別の衛生基準があり、そこでも一部にマスク義務が定められています。たとえばレストランの場合、6、9と15番目にマスクが出てきます。
- さらにノルトライン・ヴェストファーレン州は、8月から、マスクによって学校で対面授業を再開させる作戦にも取り組みました。批判も出されたためか、授業での義務づけは終了しましたが、その後も大半の生徒は、自主的にマスク着用を継続しています(クラスの生徒に感染が確認された場合、隔離状況が異なる可能性もあるそうです)。
- ドイツの話しではありませんが、私は、6月に福島市で起きたある感染例で、マスクのコロナ感染防止効果はかなりあると確信しました。その方は、帰国者・感染者外来を受診する前の2日間、市内の居酒屋でアルバイトをしており、ホール係として、客の案内や料理を運ぶ仕事をしていたそうです。アルバイト2日目にはすでに倦怠感と頭痛がありましたが、感染したのは、感染源と思われる東京から来て宿泊した友人と、本人の2人だけで済みました。もう1人の友人も、居酒屋で一緒に勤務していた従業員や客も感染しなかったのは、マスクのおかげと考えられます。経済活動とコロナの第2波対策を両立する鍵は「マスク」、なのかもしれません。
コロナ対策の緩和や延長を求める違憲の訴えを認めず
連邦憲法裁判所、2020年5月12日および5月13日決定
状況
- ドイツの感染保護法は、州や市町村に対して、感染を防ぐために必要な対策の実施を認めています。このため、いくつかの対策を最も早く命令したのは一部の市町村です。対策の中心を担う州による対策は、3月22日に行われた連邦と州首相のテレビ会議を受け、大半が3月23日に開始しましたが、一部の州は3月21日に開始しています。そして、感染の落ち着きを受け、出口に関する連邦と州首相の会議が4月15日に行われ、4月20日から一部の緩和が開始されました。
- 今回のコロナウイルスに関しては、感染しても症状が軽いケースが多くを占めていますが、重症化の可能性が高い「リスクグループ」の存在が指摘されており、このどちらかに属すかで「自由を制約する」コロナ対策への考えも微妙に異なるようです。この利害の違いを非常に良く示す「違憲の訴え」2件を、連邦憲法裁判所は、提訴者の主張は不十分であるとして、認めませんでした。
リスクグループに属す高齢者からの、緩和を時期尚早とする訴え(5月12日決定)
- 年齢的にリクスグループに属す高齢者が、学術的な検討によると緩和は時期尚早であり、緩和は生命と身体を害されないという彼の権利を脅かすと主張し、緩和措置の停止を求めました。
- 確かに、生命と身体を害されないという基本的権利は、生命に対して保護的かつ促進的に扱い、健康を害することから保護する国家的な義務を含んでいます。しかし、実際に事態をどう評価し、価値づけ、展開するかでは、国に広い自由度が与えられています。連邦憲法裁判所が保護義務を侵害していると確定できるのは、全く何も行われていない場合、対策が明らかに不適切であるか、完全に不十分な場合、または保護目標に対して大幅に下回っている場合に限られますが、申請者はこの点を明らかにしていません。
- 申請者は、全国民への完全な社会的隔離が最善の保護を提供すると主張しました。しかし、特定の条件下で社会的な接触を許容しても、それが直ちに権利義務の侵害とは言えません。国は、これによって他の基本的な権利を考慮しているからです。申請者が示した学術的な見解も、明確に特定の対策を示すものではなく、予測される様々なシナリオを提示しているに過ぎない、と判断されました。
非リスクグループに属す者からの、規制緩和を求める訴え(5月13日決定)
- 60歳未満の非リスクグループに属す者が、感染防止のための自由の制限は、非リスクグループの基本的な権利を侵害し、相当とは言えないと主張して提訴しました。60歳より若いグループにとり、大半が軽症で終わるコロナウイルスによる危険は、毎年生じるインフルエンザウイルスによる流行より大きくないと主張した点は、確かに合理的です。申請者は、リスクが高いグループだけを対象に制限すべきだと主張しました。
- ドイツの基本法に関するこれまでの判例によると、国家の規制は、健康と生命の危険にさらされている人々を、本人の自由を制限することで保護することに限られてはいるわけではありません。むしろ、国家には、より強く危険にさらされている人のために、おそらく健康でリスクが少ない人々にもある程度の自由の制限を要求することが許されています。その際には、相反する基本的権利を均衡させるため、一定の自由度(余裕)が与えられます。この自由度は、リスクとその他の防止可能性に関する専門的知識が増加することで縮小していく可能性があり、これに応じて規制当局は、自由への制約に当初から期限をつけ、規定を繰り返して変更して着実に緩和していくわけです。
- 申立人は、このような事情を考慮し、基本権への侵害を違憲だとする理由を具体的に示さねばなりませんが、ここではそれが示されていません。
その後の動きなど
- 以上のように、裁判所の結論は穏当なところに落ち着きましたが、理由づけが新鮮で、私は非常に納得しました。その後、ドイツの規制は少しずつ緩和が進んでいますが、規制に反対するグループが各地でデモを行う動きも起きています。デモ参加者では、マスクをしている人は少なく、意図的(?)に1.5mの距離を守らないように見える者もいるそうです。
BW州の小売店への「1人あたり売場面積20平方メートル」という目安は無効
バーデン・ヴュルテンベルク州高等行政裁判所、2020年6月5日決定
状況
- 小売店に対し、全ての州は店内で「1.5mの最小距離」を守るべきことを規定しました。しかし、小売店の内部に多数の客が詰めかけると、これを守ることは望めません。そこで、同時に小売店の売り場面積と客の関係も規定しました。たとえばノルトライン・ヴェストファーレン州は、「店舗内に同時にいる顧客数は、顧客がアクセス可能な店舗面積10平方メートルあたり1人を超えてはならない」と規定しています。多くの州は、ほぼ同じ規定を有しています。
- バーデン・ヴュルテンベルク州の規定は、これと異なります。5月3日の規定は、まず「一般的な最小距離1.5mを尊重する」と定めた上で、「店舗内の顧客数は、売場面積に応じ、距離規定を守れるように定められる。顧客数の適切な数のガイドラインは、これに関し、1人あたり売場面積20平方メートルである(従業員を含む)」と示していました。
- 問題とされたのは、1人あたりの面積が20平方メートルと、多くの州の2倍必要になることで、このため店に入れる人数は半分になります。全国的にコーヒーを販売している"Tchibo"は、この規定のために売上げが大きく減少して家賃も払えないこと、表現が曖昧で内容を理解できないこと、そしてたとえば39平方メートルの店では入店していいかどうかもわからない(従業員と客で2人となり、40平方メートルが必要)ことを問題にして、高等行政裁判所へ提訴しました。
裁判所も、規定を当面無効と判断する
- バーデン・ヴュルテンベルク州政府は、この20平方メートルという基準は独自の内容を定めたものでなく、単なるガイドライン(目安)に過ぎないと反論しました。このガイドラインをもとに、各ケースに応じ、何人であれば「1.5mの最小距離」を守れるかを検討するものであり、規定は顧客数を制限する拘束的な内容を含むものではない、と説明しました。
- 裁判所は、このバーデン・ヴュルテンベルク州の小売店でのコロナ感染防止のための規定(小売りコロナ令)は「命令」であり、関係者が状況を具体的に認識し、それに沿って行動できるものでなければならない、と判断しました。そして、「ガイドライン(原文は"Richtgröße")」という表現では、これがどのような性格で、拘束力があるのかないのかわからないと指摘し、この部分は当面の間「無効」にすると示しました。
判決の影響
- 提訴を受け、すでに判決前から、州政権与党の一部や業界団体から、感染がおさまってきているので、たとえば10平方メートルに緩和すべきだという意見が出されていました。
- 判決を受け、規定が3つの点で修正されました。第一は、20平方メートルが10平方メートルに緩和されたことです。第二に、「ガイドライン」という表現がなくなり、「1人あたり10平方メートルに制限する」とされたことです。第三に、売場面積が20平方メートル未満の店舗につき、従業員を含んで2名までの滞在を許容しました。
- こうして、多くの人が納得できるコロナ規定に進化しました。新規定は、6月9日から適用されています。以前から思っているのですが、多数の裁判が行われているドイツの法令は、「裁判を経ることで、より良く、納得できるもの」に成長していくようです。だから、ドイツの裁判所は、「立法援助機関」でもあるように感じられます。
ギュータースロー郡全域へのコロナ地域令の相当性
ノルトライン・ヴェストファーレン州高等行政裁判所、2020年6月29日および7月6日決定
状況
- ギュータースロー郡のレーダ・ヴィーデンブリュック市にある食肉工場でコロナの集団感染が発生し、対象地域を限定した「コロナ地域令」により、厳しい制限が復活されました(デュッセルドルフの日本国総領事館のページ)。1回目の地域令は6月24日(水)〜6月30日(火)の1週間で、対象は工場があるギュータースロー郡と、西に隣接するヴァーレンドルフ郡でした。2回目はギュータースロー郡だけが対象で、期間は7月1日(水)〜7月7日(火)の予定でした。
- 1回目の地域令も、2回目の地域令も、裁判所に提訴されました。1回目の地域令について、裁判所は6月29日(月)に、是認すると決定しました。しかし、2回目のギュータースロー郡に対するコロナ地域令に対しては、裁判所は7月6日(月)に、無効とする仮命令を行いました。
- 状況を理解するには、なぜ厳しいコロナ地域令が出されたのか、ギュータースロー郡はどういう場所なのか、などを理解しておくことが必要です。そこで、説明のページを別に作成しましたので、それを頭に入れた上で判決を読むようにしてください。
説明:ギュータースロー郡食肉工場でのコロナ集団感染対策の背景
当初7日間のコロナ地域令は是認される(6月29日決定)
- ギュータースロー郡の東端にあるシュロス・ホルテシュトゥーケンブロック市の申請者が、シュロス・ホルテシュトゥーケンブロック市と、ギュータースロー郡の北部にある5市町村に関し、コロナ地域令の適用を停止するよう求めて提訴しました。これら自治体ではコロナ感染数が少なく、問題となる食肉工場で働く従業員は非常に少ないか、いません。したがって、コロナ地域令の対象は不相当に広く、平等な扱いに反すると訴えました。
- 裁判所は、申請を認めませんでした。まず、食肉工場の従業員や家族が、郡内を自由に動いていたであろう事情を考えると、ウイルスが広く気づかれないまま郡内に広がりかねないという十分に具体的な危険があるので、コロナ地域令はおそらく裁量の余地を越えていないと示しました。
- コロナ地域令の有効期限は当面1週間と短く、郡内へのコロナ検査の拡大が並行して実施されます。こうして比較的短い期間に感染に関して信頼のある推定が行われ、それを基礎にしてその後の対策を決定できると思われます。
- 郡の住民は、他の州への旅行等にも制約を受けます。しかし、これはコロナ地域令の影響ではなく、ギュータースロー郡で大規模な感染が生じたことによるものであり、コロナ地域令を客観的に正当化できると示しました。
- なお、日本人は「郡」と言われてもピンとこないでしょうが、ドイツの「郡」は、多数の町村があった戦前の日本に似ている面があります。「郡庁(郡役所)」があり、郡長もいて、郡議会の選挙もあります。また、道路も「市町村道」と「州道」、「連邦道路」に加え、「郡道」があります。だから、「郡」という単位は生活にも意味があります。
2週目の郡全域を対象にしたコロナ地域令は相当でない(7月6日決定)
- その翌週に関し、まだ規準を越えていたギュータースロー郡については、全域を対象にコロナ地域令を延長しましたが、ヴァーレンドルフ郡は除外しました。この地域令に対し、ギュータースロー郡東端のシュロス・ホルテシュトゥーケンブロック市と、郡北西端のフェルスモルト市などでゲームセンターを経営する会社が反対し、仮命令を求めて提訴しました。
- 1回目の地域コロナ地域令で厳しい規制を行った上で感染状況を調べたことは、裁判所も是認しました。現段階では、その信頼できる結果を基礎に、より差別化した規制を決定することが可能であり、必要です。大規模なテストによると、郡内の都市や町によって感染状況がかなり異なります。とくに郡の北と東の都市では少数の感染しか確認されず、郡外の類似市町村と意味のある差があるかはもはや明らかないと、裁判所は判断しました。
- こうして現在では、ギュータースロー郡の全域を対象とすることは、相当性の原則と平等に扱う原則に適合しません。裁判所は、今回のコロナ地域令はおそらく違法であるとして、暫定的に無効にする仮命令を行いました。
その後のノルトライン・ヴェストファーレン州と連邦の対応
- 確かに、ギュータースロー郡の地図を見ると、郡全体をまとめて扱うことには問題が感じられます。感染が発生した食肉工場があるレーダ・ヴィーデンブリュック市は、郡の西端にあります。その西に隣接するエルデ市はヴァーレンドルフ郡のため対象外で(2週目の訴訟を提起した会社の本社は、このエルデ市にありました)、郡内で東に20キロ離れたシュロス・ホルテシュトゥーケンブロック市、あるいは北に25キロ離れたフェルスモルト市は対象となることは、確かにバランスを失っているように見えます。
- このように郡を単位にコロナ地域令の対象区域を決定したのは、ノルトライン・ヴェストファーレン州の判断というわけでもありません。5月の段階で、連邦と州の会議で決められていたことで、この方法しかありませんでした。被告はノルトライン・ヴェストファーレン州となっていますが、実質的には16州で構成される連邦が被告です。そして、連邦と16州は7月16日に会議を行い、裁判所に出された宿題を済ませました。
クラブとディスコへの長期の営業禁止も恐らく合法
ノルトライン・ヴェストファーレン州高等行政裁判所、2020年7月8日決定
状況
- ノルトライン・ヴェストファーレン州のコロナ保護令は、この表のように、4月下旬から段階的に緩和が進められています。しかし、営業が禁止され続けている業態もあります。それが、クラブやディスコと、性的なサービスで、これまでのところ緩和の見通しはありません。
- ノルトライン・ヴェストファーレン州最大の都市であるケルンでディスコを営業している会社が、長期にわたって金銭補償なしに営業閉鎖を命じているのは違法であるとして、州コロナ保護令にある営業禁止を修正する仮命令を求め、6月12日に提訴しました。
クラブとディスコの閉鎖は、現状ではおそらく合法である
- 裁判所は、州コロナ令による営業禁止は恐らく合法であるとして、仮命令を行う要求を拒否しました。現行のコロナ保護令による営業禁止の種類と範囲に、裁量の誤りとされる点はないと示しました。
- クラブとディスコの運営には、一般的に高い感染のリスクが伴います。これら施設では、通常多くの客が交代し、通例は室の換気が悪く、多くはかなり滞在時間が長く、相互に密接に立ったり座ったり、あるいはダンスをするという状況です。現在、各種施設におけるウイルス対策の柱は、他人との1.5mの最小距離の維持と、マスク着用になっています。しかし、客が気楽に祝い、近接と接触がビジネスモデルに含まれているクラブとディスコの雰囲気では、距離の維持もマスクの着用も、現実的ではありません。
- たしかに、規制によって原告の職業の自由は制約されますが、この権利はもともと無制限のものではなく、ここでは生命と健康の保護に対して後退します。また、原告が受ける不利益の一部は、前例のない規模で連邦と州が提供している即時援助プログラムで一定程度代償され、また業態の変更でも軽減することも可能です。
- 現行のコロナ保護令は7月15日までです。確かに原告が言うように、クラブとディスコへの規制は、その後も継続するかもしれません。しかし、ウイルスと戦うという緊急の公共の利益が、関係者の経済的な利益のために正当化できなくなったり、経済的利益の背後に後退しなければならないことにはなりません。
以上のような判決ですが、私が興味を持ったもう一つの点は、この判決が他裁判所の判決を多く引用していることに加え、ロベルト・コッホ研究所の報告を根拠に使用していることです。日本の政治家が言う「専門家の意見を・・・」に相当する部分でしょうが、もちろん違いもあります。この研究所はドイツ連邦保健省の下にある感染症の研究機関で、感染保護法第4条により、感染症対策の実施を国家レベルで支援することが求められています。多数の国と国境を接し、何回も感染症に苦しめられてきたドイツならではの位置づけかも知れません。
ビアガーデンへ転換したが営業停止を命じられたケース
- 報道によると、ディスコやダンスホールでは、ビアガーデンなどへの業態変更が増加しています。しかし、デュイスブルクでは、そのビアガーデンがコロナ保護令に違反しているとして、7月12日に営業停止を命じられたケースがありますので、経過を見ていきましょう。
- かつての製鉄所幹部向けの、敷地約7000平米と広い庭がある豪華な社宅が売りに出され、購入者が"ラインパール"(ライン川の真珠)と名付けて、週末に"大気と愛"と称する若者向けのイベントを行っていました。YouTubeに、コロナ前の2019年の状況を撮影した映像がありますので、ご覧ください。ディスコとダンスホールの混じったような感じで、「屋外ディスコ」とでも表現できるように思います。
- 3月のコロナ保護令で、このような営業は禁止されました。飲食店は5月11日から再開が認められましたが、ディスコはいつになるかわかりません。そこで、経営者はビアガーデンに転換すると発表し、5月17日(日)に1回目を実施しました。再開にあたり、経営者は州に確認し、監督庁にも届けたそうです。
- こうして金・土・日に開かれたビアガーデンですが、7月に入り、「ダンスをしたりしているが、許されるのだろうか」という情報が新聞社にもたらされました。そこで、新聞社は2回訪問しました:1回目はこっそりと、そして2回目は事前に登録して堂々と入り、経営者にインタビューもしました。その新聞記事が掲載された翌日の7月12日(日)に市がチェックに入り、重大な違反を発見し、営業停止を命じました。新聞によると、スタッフがマスクをしていず、消毒剤もなかったとされていますが、違反はそれだけではないようです。実は、当時の状況を撮影した映像が6月9日にアップされていますので、ご覧ください。マスクをしている姿も一部ありますが、ダンスが盛り上がり、昨年の状況とあまり変わらないように感じられます。
- 面白いのは、ホームページで登録した後、訪問前日にメールが送られてきた、という話しです。そこには、「ビアガーデンはダンスイベントではありません」として、「割り当てられたテーブルから1.50メートルの最小距離を維持する必要がある。マスクはテーブルにいる間しか取り外してはならない。トイレは1人で使用する必要がある。ビアガーデンで割り当てられたテーブルは変更できない」などと書かれていたそうです。この通り実施していたら、営業停止にならなかったはずなので、「言い逃れるためのメール」のようです。現在、罰金の手続きが進行中です。最高額は25,000ユーロですが、デュイスブルク市は経営的な違反に1,000〜4,000ユーロを予定しており、標準ケースは2,000ユーロだそうです。
- その後、運営者は規制当局と話し合って違反点を確認し、構想を作成し直して提出し、2週間後には再開できる運びとなりました。新しい構想によると、警備はプロの警備会社に依頼し、ダンスは行わず、テーブルの周囲に柵を設置して接触を制限するそうです。それで多数の客を集めて採算をとることができるのか、が問題となりそうです。
リスク地域の住民に対する宿泊禁止の規定は相当ではない
バーデン・ヴュルテンベルク州高等行政裁判所、2020年10月15日決定
状況
- 3月中旬に導入した事業所営業に対する規制を一段と緩和するに当たり、5月6日の会議で、連邦と州は、郡(郡に所属しない都市の場合は市)を単位として、「人口10万人あたり、1週間に50人以上の新規感染が発生」したリスク地域は、規制を復活することを決定していました。
- ホテルなどの宿泊施設も、当初は全面宿泊禁止でした。その後、まず休暇目的以外の宿泊が認められ、7月頃には、国内旅行客についても宿泊が認められるようになります。しかし、国内のリスク地域の住民は感染を広げるリスクがあると考え、多くの州は「リスク地域の住民、あるいはそこに滞在していた者は、宿泊を拒否する」という規定を定めました。規定には例外もあります。一つは過去7日間にリスク地域以外、あるいはリスク地域内ではあるが感染数が少ない市町村等に滞在していたことを証明できる場合です。もう一つは、48時間を経過していないコロナ検査での陰性結果を提示した場合です。
- ノルトライン・ヴェストファーレン州のレックリングハウゼン郡に住む5人家族が、休暇をバーデン・ヴュルテンベルク州の南部で過ごそうと考え、10月16日から23日までホテルを予約していました。ところが、レックリングハウゼン郡は10月10日の段階でコロナ感染のリスク地域となり、ホテル宿泊が拒否される事態となります。コロナ検査の陰性による例外についても、費用がかかる上、地域では検査体制がまだ充実していず、これまでも72時間以内に結果を得ることはできなかったので、この例外は検査体制が充実していない地域への差別だと主張しました。
- バーデン・ヴュルテンベルク州政府は、この宿泊禁止は合法的なものであると主張しました。国内の多くの地域が同様の規定を定めており、バーデン・ヴュルテンベルク州でもこの3ヶ月間、円滑に機能してきています。現在は(ドイツでも)新規感染数が増加し、1日に5千件をこえており、州内に感染が持ち込まれることを防止することを目的とした制限を緩和する時期ではない、と述べています。
- なお、提訴者が住むレックリングハウゼン郡は、ルール地方のボーフム市やエッセン市の少し北にあります。大都市圏のルール地方におけるコロナ感染状況の一端をここに紹介していますので、参考までにご覧下さい。
宿泊禁止の規定は相当ではないため施行を停止
- この規定は、感染を止めることで、多数の人の生命への危険と身体的健康という、高位の法的利益保護を追求しています。また、感染速度の低下で、健康システムの能力を維持することを目ざしています。
- しかし、宿泊にとくに高い感染リスクがあり、このように強力な対策が必要だと言うことは、示されていません。現在のところ、ドイツでの感染数増加にもかかわらず、宿泊業における勃発は知られていません。むしろ、現在の感染を推進しているのは、多人数でのパーティーや、空間的な狭さのために距離と衛生規定を守れない場所への滞在です。現在は、クラブとディスコを除き、すべての店舗、レジャーとスポーツ施設、レストラン、バー、娯楽施設は、保護措置はあるものの、再開されています。宿泊施設は、必ずしも見知らぬ人が多く出会うとは限らず、鍵のかかる空間に状況に応じた人数で宿泊し、その接触データは保持されているので、施設として異なる扱いになっていることは理解できません。
- 提訴者に対し、陰性のコロナ検査を示す可能性を指摘することは、無理な要求です。現状では、旅行者の検査をこのような短期間に求めることが十分に保証されているとは言えません。純粋に組織的に考えても、この厳しい時間内に、医療専門家が検体を採取し、それを検査機関に輸送し、結果を伝えて、最後に客が宿泊施設に来られるのか、疑問です。
- 宿泊の禁止は、基本法第11条1項の移動の自由に関する基本的権利を不相当に侵害し、したがっておそらく違憲です。侵害の目的と侵害の強度が、互いに適切な関係にありません。よって提訴を認め、宿泊禁止コロナ令の関係部分を直ちに暫定的に停止します。
判決の影響
- 判決は、ホテルを予約していた前日に示されたので、家族は予定通り休日を楽しめたはずです。判決で重要な点は、「感染の実態に即した規定を実施すること」だと思います。感染が深刻な場面で厳しい規制が行われるのは認められるでしょうが、そうでない対象に対して厳しい規定を定めることは「相当性がない」ということでしょう。
- この判決の影響で、類似した規則を定めていた州は、ほとんどが規定を見直しました。しかし、ドイツ北部のシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州だけでは宿泊禁止が続けられ、ようやく1週間後に停止されます。次に説明するような事情のためです。
観光目的に限った宿泊禁止は平等とは言えず停止する
飲食店の夜間営業禁止で微妙に異なる判断 − そして2度目のロックダウンへ
ベルリン行政裁判所、2020年10月16日決定
ノルトライン・ヴェストファーレン州高等行政裁判所、2020年10月26日決定
感染リスク地域で問題とされる飲食店の夜間営業禁止問題
夜間営業禁止の停止を命じたベルリンの決定
- ベルリンは、10月6日のコロナ感染防止令で、飲食店は今後23時から翌日の6時まで閉店することを命じ、同時にこの時間帯におけるアルコール飲料の提供や販売も禁止しました。このうち、飲食店の夜間営業禁止を停止する仮命令を求めて、2つの提訴が行われました。
- 裁判所は、この対策が、感染症である新型コロナが人々の間に拡散する速度を低下させ、健康システムへの過負担を避けるという合法的な目標を追求していることを認め、夜間営業禁止が目標到達に適切であるかもしれないことは認めました。しかし、コロナとの戦いにこの対策が必要であることは明白でない、と判断しました。
- 裁判所がこう判断したのは、感染症対策を担うロベルト・コッホ研究所が、現在の感染増加は、とくに家族と友人仲間での祝いや、高齢者施設、病院、難民収容施設、コミュニティ施設、食肉加工会社と、宗教的な行事、旅行に関連しているとしている点にあります。だから、飲食店を23時以降に閉店することがなぜ正当化されるのか、理解できないと示しています。たしかに夜間には、抑制を取り除く効果があるアルコール飲料を飲む機会も多くなりますが、飲食店はアルコール提供禁止の停止は求めていません。この点で、10月6日以前と比較して接触低減の効果がすでに強化されていると考えられます。
- こうして、飲食店は、感染現象において追加的対策として夜間営業禁止が必要であるほどの重要なシェアを有していないため、職業の自由に対する相当性のない侵害であると判断され、規制の停止が命令されました。
夜間営業禁止の継続を認めたノルトライン・ヴェストファーレンの決定
- ドイツで最も多くの人口を有すノルトライン・ヴェストファーレン州でも、大都市を中心に感染が拡大し、10月17日から、飲食店の営業とアルコール飲料の販売が23〜6時の間、禁止されました。そこで、夜間の営業とアルコール販売を求め、計19名の飲食店経営者が提訴しました。
- 裁判所はまず、この対策がコロナの拡散を遅らせるという合法的な目的を目ざしていることを認めます。そして、夜間の営業とアルコール提供を止めることが感染防止に有効なことを、次のような場面を示して認めます。まず、飲食店へ出入りする経路での接触が低減されます。次に、最小距離と衛生法的な保護規定をまもる意識を取り去る効果を有すアルコールが、禁止されます。また、営業禁止がないと、狭い空間に多数の人が長時間滞在する状況は変えられません。
- たしかにこの措置は、飲食施設経営者の職業の自由に、大きく介入します。しかし、最近の感染拡大は、適切な対抗手段を講じなければ、まだ能力を保っている健康システムを、負担の限界とそれを超えるところまで導く懸念を生じさせます。行政には、人々の生命と健康を守るために介入することが認められており、最終的に、規制は6〜23時の間に営業できる飲食店の利益にもなる、と示しました。
- ベルリンでの提訴と比較し、「アルコール禁止」の停止まで要求された点が違いますが、これが判決にどう影響したかについては、何とも言えません。ロベルト・コッホ研究所の統計では飲食店を感染の重点となっていませんが、新規感染数増加の中で、感染経路が不明な件数が増加しているため、実際には飲食店で感染が増加している恐れがあります。たとえばノルトライン・ヴェストファーレン州の中都市ミュルハイムでは、5月中旬に累積感染者数が188名に達した段階では、感染経路がわからないのは8名だけでした。しかし、現在では経路が分かるのは1/4に減ってしまい、大多数が経路不明で、感染経路をどこまで重視して対策を考えるべきかも、微妙になっています。
- ドイツのコロナ新規感染者数は10月22日に1万人を超え、このままでは医療システムが限界を越える恐れがあるとして、10月28日に連邦と州首相が会議を行い、11月2日から月末まで、春に続いて2回目の飲食店ロックダウン(都市封鎖ではない)を実施すると決定しました。2日前に「規制は6〜23時の間に営業できる飲食店の利益にもなる」と示していたノルトライン・ヴェストファーレン州高等行政裁判所も、この展開は予想していなかったものと思います。とにかく早期に、感染が制御可能な範囲に戻ることを願っています。
- ロックダウンの対象となるのは一部の営業で、小売店や学校は衛生対策の下で開き続けることが許されます。飲食店が閉店となるだけでなく、国内のレジャーが禁止され、観光旅行へ宿泊を提供することも禁止です。もちろん、ホテルや飲食店の経営者は不満で、また訴訟の波が始まると予想されます。今回は、失われる売り上げについて一定(75〜70%)の埋め合わせが予定されている点も含め、裁判所の判断が示されるものと思います。
クリスマス期の州全体での日曜営業は、コロナのリクスを拡大しかねない
ノルトライン・ヴェストファーレン州高等行政裁判所、2020年11月24日決定
ドイツの日曜営業制限とコロナによる打撃
- キリスト教国であるドイツでは、安息日である日曜日の店舗営業が制限されており、駅舎内など特殊な場所にある店舗を除くと、日曜日に開いている小売店はまずありません。但し、お祭りなどで商店街に人が集まる場合は、市町村議会が認めたら、年に数回の日曜営業が認められます。
- ドイツでは、春のコロナ感染の第一波で、食料品店や薬局を除き、約1ヶ月の閉店を求められました。コロナ感染の第二波では、飲食店は閉店を求められましたが、小売り店は営業継続を認められています。それでも、春の閉店による影響で苦しんでおり、第二波でも商店街に来る人は減少気味で、売上げに影響しています。
- 年末のクリスマス期は小売り店の売上げが最も多い時期で、多くの都市ではクリスマス市が開かれます。しかし、この2020年はコロナ感染を懸念し、多くの都市がクリスマス市の中止を決定しました。それでもクリスマスはあるので、プレゼントなどの買い物のため、とくに土曜日には多数の客が都心に詰めかけることが予想されますが、例年ほどの売上げは期待できないでしょう。本来、アドベント(クリスマス前の約1ヶ月の期間)には2回の日曜営業が認められていましたが、クリスマス市が中止になった影響で、このままでは日曜営業を行う大義名分が不十分です。
州による日曜営業の方針と、それに対する反応
- このようなクリスマス期の事情と、小売り店の苦境を背景として、州が考えたのが、アドベント(クリスマス前の約1ヶ月の期間)に4回ある日曜日と、新年初の日曜日、計5回の日曜における「日曜営業」を認めることです。その論理ですが:「このままだと土曜日に商店街に多数の客が詰めかけ、コロナの感染リスクが高まるので、その客を土曜と日曜に分散させ、感染リスクを低減させる」、というものです。
- このような州の方針を、売上減少に苦しんでいる小売業界は歓迎しました。一方、小売り店の従業員を傘下に有する労働組合は批判しました。これまでも労働組合は、従業員の休日を奪うことになる日曜営業には批判的で、根拠が不十分だと考える場合は提訴し、勝訴したり敗訴したり、という状況でした。今回は、休日の奪い方が半端でないので、従業員にとって大きなストレスが心配されます。しかも、顧客との対面販売には感染リスクがつきまとうので、組合側は「完全に受け入れられない」と、11月5日に提訴しました。
コロナ保護令の日曜営業を認める部分を暫定的に廃止
- 法廷は、買い物活動がアドベントの4つの土曜日と新年初の土曜日に集中する歪みを修正したいという州が設定した目標自体は、正当であると認めました。しかし、日曜日の営業はもともと店舗開店法が扱っています。だから、州全体にわたる日曜営業を正当化し、感染保護法第28条1項によって必要とされる感染防止対策ではないと考えられます。
- このような問題を無視し、日曜に顧客が増加すると考えても、その防止策として日曜営業が適しているかには大きな疑問があります。日曜営業で、土曜日の顧客の一部が、翌日の日曜日に配分されるだけだと、単純に想定することはできないからです。むしろ、コロナ下でレジャーが不足している現在、日曜日の店舗営業によって追加的な顧客が都心へ出かけるよう奨励されることも推測されます。感染法的に望ましくない多くの顧客が、大都市とショッピングセンターで土曜日も日曜日も見られ、そこへ向かう公共交通においても社会的接触の増加は見られると想定され、コロナ保護令が目ざす、感染保護のために社会的な接触を広く制限することと矛盾します。
- こうして、NRW州コロナ保護令のうち、商業関連の日曜営業について規定していた部分は、「恐らく違法である」として、裁判所の仮命令によって効力が停止されました。
落胆する小売り業界と、市民等へ呼びかける組合側
- コロナによる打撃を受けている小売り業界は、日曜営業の経済的な面を意見として提出していました。しかし法廷に、経済的な利益は理解ができるとしたものの、感染法的には問題とならないと指摘され、失望し、落胆する声が各地で聞かれました。
- 提訴した労働組合は、もちろん判決を歓迎しました。店舗開店法によって日曜営業を計画している自治体に、この判決を考えて見直すよう呼びかける予定です。同時に、消費者である市民に対して、「コロナの流行を考慮し、月曜から金曜までを可能性に応じて活用し、土曜日に都心へ押し寄せないようにする必要がある」と訴えています。そうなるといいのですが。
- ちょうど同じ頃、 日本ではトラベルなどの「Go to キャンペーン」が議論となっていますが、経済的利益との関連が問題とされる点で、 このドイツの議論にも少し類似点が感じられます。ドイツNRW州の「Go to ショッピング」とも呼べる試みは実施直前に止められたわけですが、コロナという見えない部分も多い複雑な問題をどのような観点から扱うべきなのかと、考えさせられます。
納得できる理由なく店舗の扱いを区別するのは平等の原則に反する
ノルトライン・ヴェストファーレン州高等行政裁判所、2021年3月19日決定
感染が落ち着いたので2021年3月に入り規制の一部を緩和へ
- ドイツの感染は2020年の10月頃から第二波に入り、春より少し軽めのロックダウン(施設封鎖)に入ります。しかし、それでは猛威を止められず、メルケル首相が12月9日に連邦議会で行った演説を契機に、ロックダウンが強化されます。2021年に入ると感染数が減少し、落ち着いてきたので、3月に一部が緩和されました。
- ロックダウン期間中も、食料品店、薬局、ベビー用品店、銀行、郵便局、ペット用品店などの生活に欠かせない店は、衛生条件を守ることを条件に、一般客を対象とした営業を認められていました。期間の経過で商品の価値がなくなってしまう新聞や花を販売する店も、同じ扱いでした。
- 3月9日からの緩和では、新たに文房具店と書店が食料品店などと同じ条件で開店を認められ、花屋と園芸センターでは販売商品の制限が撤廃されました。これら以外の店舗では、事前に予約し、氏名や連絡方法、入店と出店時刻を記録することで、店舗を訪問することが可能になります。予約は主にスマホやパソコンによるインターネット経由なので、一般に英語でクリック・アンド・ミート(Click & Meet)と呼ばれます。入店できる人数は、食料品店などの客1人あたり売場面積10〜20平米に対し、クリック・アンド・ミートでは1人あたり40平米が求められます。
- 州内に90近くの店を展開しているある電機機器専門店は、文房具店や書店が食料品店と同じ条件で開店できるのに、電機店では事前の予約などが必要で、受け入れ可能な人数も少ない点に納得できず、クリック・アンド・ミートの廃止を求めて提訴しました。
現行の小売り店への規制は不平等なので暫定的に無効にする
- 法廷は、感染症との戦いで、行政に一定の裁量の余地があることを認め、制限と緩和の影響を予測しつつ、決定していくことを是認しました。また、段階的な緩和の過程では、異なる分野を不平等に扱うこととなることも認め、通常の開店とクリック・アンド・ミートの混在を許容します。ただ、区別には納得できる理由が必要であり、それがない場合は裁量の余地を越え、憲法が定める平等な扱いの原則に反することになります。
- 3月9日からの緩和で、書店、文房具店と庭園センターは、その商品全体を、クリック・アンド・ミートと比較して店舗面積に対してより多く、また予約なしに受け入れられることになりました。しかし、これに関し、他の店舗との扱いの違いが正当化されるような根拠はないように見え、州も示していません。
- なお、原告は、小売り店へ制限を行うこと自体が不当だとも主張しましたが、これは認めませんでした。再び新規感染が大幅に増大し、制御不能になると、多数の人の生命と健康に深刻な結果を及ぼすと考えられるからです。
- 法廷が問題としたのは書店、文房具店と庭園センターだけですが、小売り店全体の中で扱いを考え直す必要があるため、小売り店に対する制限の全体を暫定的に無効にしました。
決定を受け、州は直ちに条件をクリック・アンド・ミートに統一
- 判決は3月22日(月)に公表され、一時的に小売り店に対する制限のない状況が生じました。決定したのは3月19日(金)ですが、直ちに公表すると、20日(土)に多数の市民が買い物に出かけて感染が拡大することを懸念し、遅らせたと思われます。判決内容を知り、小売業界から「規制が消えた」と驚きと喜びの声も聞かれたそうです。
- しかし、その歓声も数時間で消えてしまいました。州が、22日(月)の夕方に、3月23日(火)から適用される新しいコロナ保護令を示したからです。新しい保護令は、書店と文房具店にもクリック・アンド・ミートを、庭園センターには以前と同じく商品を区分して扱うよう求めました。こうして、結果的に緩和の一部が後退することになり、「州には納得できる理由を考える知恵がなかったのか」という落胆の声も聞かれました。
コロナに免疫を有しない人に検査による陰性を求めることは正当である
ノルトライン・ヴェストファーレン州高等行政裁判所、2021年10月29日決定
ワクチン接種が進んだため、対策の基本が個人の免疫重視に転換
- ワクチン接種が進み、コロナに免疫を有す人が増加してきたことに対応し、 ドイツの対策は、2021年8月に入ると個人の状況を考慮した3Gルールが主体となりました。3Gは、3つの状況を示すドイツ語の頭文字で、第一はワクチン接種(Geimpft)、第二は一旦感染した後の回復(Genesen)で、第三はコロナの検査(Getestet)による陰性です。3Gルールでは、一定のコロナ流行が認められる地域で、人が集まる場所に入る場合に3Gのいずれかへの適合が求められます。 日本の「ワクチン・検査パッケージ」はワクチン接種か検査陰性だけで、感染して回復した人を除外している点が違います。
- 検査は通例は結果が迅速に分かる抗原検査で十分ですが(ただし検査から24時間以内)、クラブやディスコなど、特に感染リスクが高い場所に入るには精度が高いPCR検査が求められます(こちらは48時間有効です)。そして、それまで無料で行っていた検査に実費を求め、ワクチン接種を進める一助としました。
ドルトムントの学生が、検査には効果がなく負担で、不平等だと提訴
- スポーツ施設、レストラン、イベントなどをよく利用するあるドルトムントの学生は、ワクチン接種を受けていないため、そのたびに検査結果の提示を求められます。しかし原告学生は、検査は医療能力を保証することもできず、適切でもないと考えていました。検査は身体に負担となり、有料になったため、ワクチン接種への圧力ともなります。免疫があれば検査は不要になる点は、平等な扱いの原則に反していると考えました。
- こうして学生は、州のコロナ令の該当部分を取り消す仮命令を求めました。しかし、裁判所は原告の主張を否定し、州の命令を正当だと認めました。
法廷はコロナ検査による陰性結果の提示義務を是認
- 法廷は、まず検査に効果を認めました。免疫のない人への検査義務は、コロナウイルスによる認識できない感染を発見するのに基本的に適しており、感染者が各種施設にアクセスすることを止め、それによって他の訪問者を感染から保護することを可能にします。こうして死亡に至る可能性がある病気への感染が避けられ、医療の能力が節約されます。
- 検査は、時間の短かさと、負担の低さにより、定期的に繰り返してもわずかな身体的障害しか発生しません。それによって多数の人の生命と健康の保護が目ざされていることを考えると、検査で陰性を証明する義務は不適切とは認められません。
- しかも、基本的に制限されているのは、感染を助長する状況にある特定の施設や公的な場でのイベントへの参加だけです。小売店へ行く、医者を訪問する、あるいは長距離を含む公共交通を利用するなど、多くの基本的なサービスは、陰性の検査証明がなくても利用できます。
- 現在はほとんどの市民が検査費用を支払わなければならない(夏までは無料でした)ことも、検査の必要性を不当な要求にはしません。市民には、検査に代え、コロナ対策のワクチン接種を受ける可能性があります。これを背景として、ワクチン接種を受けないという自由な決定の結果として、一般大衆に課されていない検査費用を自ら負担しなければならないことも、おそらく不適切ではないでしょう。
- 免疫のある人と比較して不平等な扱いであるという主張に対しても、正当化できる理由があります。現在の知識によると、免疫がある人ではウイルス感染のリスクが大幅に減少していて、感染現象にあまり関係していません。ロベルト・コッホ研究所によると、完全なワクチン接種を受けた人は、入院と集中治療室での治療に対し、非常に高いレベルの保護を示しています。
- 免疫のない人への検査義務は、特定状況(公共交通の利用や、1.5mの距離を保てない場合など)におけるマスク義務と並んで感染対策の中心的要素となっています。法廷は、これを無効にすれば感染対策が大きく弱められ、結果的に追加的なウイルス感染と病気、さらには人の死の危険を有すと示しました。なお、検査費用について、提訴者の世帯収入で検査料を負担できないことは明確ではない、とも判断しています。
8月に3Gルールが、そして11月には2Gルールが登場
- 連邦が方針として3Gルールを打ち出したのは、2021年8月10日の会議です。すでにこの時から、「2Gルールか3Gルールか」という議論がありました。2Gルールでは、ワクチン接種と感染後の回復者だけが受け入れられ、検査で陰性となった人には遠慮してもらいます。2Gルールを求める声もありましたが、ワクチン接種を選択しない人を締め出すのは問題だ、より軽い対策で対処するよう努めるべきだという議論で、3Gルールが当面の基本とされました。
- ワクチン接種で収まっていたドイツのコロナ感染も、2021年10月から再び増加が進みます。この第4波は、これまでの1〜3波以上に強力で、11月第2週の11日には、初めて1日に5万人以上の新規感染者が数えられました。同じ11日の夜にロベルト・コッホ研究所が発表したコロナ週報は、この状況に対し、「大規模なイベントを可能な限り中止するか避けると同時に、その他の全ての必要ない接触を減らす」よう、緊急に警告しました。
- ドイツのクリスマス市は、11月中旬から始まります。昨年はほとんどの都市で中止されたクリスマス市も、ワクチンのある今年は準備が進められ、早いところでは11月第2週の週末から、そして残る都市の大半も第3週の週末には開始します。ロベルト・コッホ研究所の発表後、ノルトライン・ヴェストファーレン州政府は「感染を防ぐため、イベント等では2Gルールを採用するという方針を示しました。このため、第2週の週末に3Gルールでクリスマス市を開始した都市も、第3週から2Gルールに転換しています。同時に、ワクチンの3回目ブースター接種が進められています。
- 検査陰性者の場合、他の人に感染させる可能性が低いのは確かです。しかし、一旦感染してしまうと、入院や集中治療室に入る高いリスクがあります。このため、11月18日に行われた連邦と州の会議は、地域の入院数が一定レベルに達した場合、2Gルールを採用することを打ち出しました。さらに最近は、2Gプラスというルールも提案されています。これは、2Gルールを基本として、同時に検査の陰性を求めるもので、入院数のレベルがさらに高くなった場合、バーやクラブに入る際に求めることが考えられています。全市民に影響を及ぼすロックダウンだけは避けたい、という気持ちが感じられます。
- 日本の「ワクチン・検査パッケージ」は、ワクチンと検査を同格に見ているようですが、医療への負担は決して同じでないことは事実です。第6波がやって来たら、その点も考えて工夫するべきかも知れません。
内容が柔軟なドイツの感染保護法 − 1979年改正の考え方
- 日本の「新型インフルエンザ等対策特別措置法」は、強制力がないだけでなく、実施できる対策も限定的でした。内閣官房のホームページは、特別措置法の概要を、「体制整備」と、「新型インフルエンザ等緊急事態宣言後の措置」についてこのように説明していました。これだけの対策ということは、1回目の緊急事態宣言終了後の「新しい生活様式」はもちろん、宣言中に呼びかけられたことも、「全ては、行政からの単なるお願いに過ぎない」のでしょうか、これで新型コロナを抑え込めるのでしょうか・・・(その後、改正で少しは変化したようですが)。
- しかし、ドイツは違います。とくに重要なのが、1979年の法改正で、必要に応じて柔軟に命令を行える制度に変えました。そこで、その点を中心に紹介します。
ドイツ基本法の基本権と感染保護法
まず憲法(基本法)を見ておきましょう。 「日本の『新型インフルエンザ等対策特別措置法』の枠組みでは、自粛や要請しかできない、諸外国はどのようにして厳しい規定を可能にしているのだろうか・・・」、「憲法に緊急事態宣言が定められているのだろうか」、などという話しを聞くことがあります。このホームページの「新型コロナウイルス対策を巡る判決」を読んでいただいた方は気づいたかも知れませんが、 ドイツに関しては、憲法の違いはそれほど大きくはありません。
連邦伝染病法の1979年改正と感染保護法
違いが大きいのは、 日本の「新型インフルエンザ等対策特別措置法」と、 ドイツの「感染保護法」との間です。よく言われるのが、日本の規定は「自粛」や「要請」で強制力がないが、ドイツなどは強制力がある「命令」であり、罰則もある、という点です。しかし、ここで紹介したい違いは、それではありません。日本では、法律に定められている対策しか実施できませんが、ドイツでは必要な範囲で対策を自由に選定できる点です。その感染症に応じた最も効果的な対策を実施できるので、結果的に負担が少ない対策を選定でき、感染対策と経済を両立しやすいシステムになっている、と考えられます。この可能性を開いたのが、1979年の法改正です。
- 第二次大戦後、ドイツは1900年のドイツ帝国時代に制定された法律を基礎に、伝染病と戦ってきました。その後の医療や学問の発展に応じるため、1961年に抜本的に改正され、法律の名称も「連邦伝染病法」とされました。この法律は、伝染病の予防段階と、感染発生後の段階に分けて対策を定めています。しかし、その後の運用で、予防段階と発生後に分けられている点が、運用を困難にしている部分があることがわかってきました。こうして1979年に、両者がスムーズに連携するよう、改正が行われました。
- 改正は、発生後の対策の一部を予防期にも取り入れること主体でした。しかし、予防期の条文が発生後の対策に取り入れられた重要な改正があり、それが「対策の柔軟化」です。
- 予防策を定めた第10条は、第1項に「伝染病の発生につながる可能性のある事実が発見された場合、所管官庁は、個人または一般市民を脅かす危険を回避するために必要な措置を講じなければならない。」と、とくに対策を限定していませんでした。一方、発生後の対策を定めた第34条は、「伝染病の蔓延防止に必要な範囲と期間に限り、本法または本法を基礎に制定された政令に基づく届出義務がある限りにおいて、第36条から42条(保護措置)の規定による措置を講ずることができる。」と、法律に予定されている対策しか許容していませんでした。この結果、次のような事態が生じていました。
感染症の疑いのある人を隔離することはできましたが、特定の場所(飲食店や食料品店など)を訪問することだけを禁止することはできません。後者の措置で十分と考えられる場合、隔離という不必要に厳しい措置を行うのか、あるいはそこまでは必要ないので放任し、感染の危険を高めてしまうのか、という問題に直面することになります。
- 当然のことですが、伝染病の感染には種類によって異なる特徴があります。このため、発生する全ての伝染病に関し、対策となる可能性のある多数の保護措置を事前に見通すことは不可能(連邦議会資料8/2468、1979.01.15)です。こうして、すべてのケースに備えるために、第10条に倣い、「第34条でも、一般的な権限付与を行う必要がある」と考えられました。これで、上の「隔離か、放任か」という悩みも解消できます。改正後の第34条は、1項の1文に、次のように定めています。
病人、病気の疑いのある人、感染の疑いのある人、排菌者、あるいは排菌の疑いがあると確認された場合、または死者が病人、病気の疑いのある人、あるいは排菌者だったと判明した場合、所管官庁は必要な保護措置、とくに第36条から第38条に示された措置を、感染可能な病気の蔓延を防ぐために必要な範囲と期間に限って実施することができる。
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つまり、法律に明示された措置は、例示に過ぎなくなったわけです。
- 連邦伝染病法は2000年に抜本改正され、「感染保護法」となります。連邦伝染病法第34条の内容は、感染症に対する保護措置を定めた第28条に受け継がれ、さらに柔軟化されました。現行(2020年3月27日改正)の感染保護法第28条1項の1文は、以下のように示しています。
病人、病気の疑いのある人、感染の疑いのある人、あるいは排菌者と確認された場合、または死者が病人、病気の疑いのある人、あるいは排菌者だったと判明した場合、所管官庁は必要な保護措置、とくに第29条から第31条に示された措置を、感染可能な病気の蔓延を防ぐために必要な範囲と期間に限って実施する;とくに、人に対し、現在いる場所を離れないか、特定条件の下に限って去り、あるいは公的な場所に入らないか特定条件の下に限って入るよう、義務づけることができる。
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- 柔軟な規定の効果は、今回のコロナがドイツにマスクを定着させたことからも確認できます。東洋と異なり、ドイツ人にとり、マスクは特殊な職種で使用されるものに過ぎませんでした。しかし、コロナとの戦いの中で各地で手作りマスクが登場し、ノルトライン・ヴェストファーレン州でも、4月27日から買い物と公共交通利用の際はマスク(口鼻保護具)着用が義務になりました。
- このようなドイツの行政が有す強い権限には、行きすぎも懸念されます。このチェックを担っているのが、裁判所です。すでに多数の訴訟が提起され、規定の一部が修正されていることは、上に示した通りです。
日本の「新しい生活様式」が学ぶべき点
- 私は、 現在の日本で宣伝されている「新しい生活様式」では、コロナ感染の波を止めるのは難しく、また飲食店などへの負担が不必要に大きい部分がある、と感じています。 ドイツでも感染はまだ続いており(最近は職場でのクラスター発生が主体のようです)、感染数は日本以上ですが、何とか凌げる可能性があるのではないかと、期待して見ています。ドイツはコロナの感染状況を「再生産数」という指標で示しており、値が1を超えると感染拡大を示すとされています。この値は、4月中旬に1以下となり、その後一旦1を超えましたが、すぐ1以下に戻りました。6月には、一時的に2を超えたこともあったようですが、7月に入った時点で見ると、1以下か1近くに留まっています。ノルトライン・ヴェストファーレン州は、6月中旬から大胆な小学校再開を行い、不安の声も出されていました。確かに感染で休校にする学校も出ましたが、一部に留まり、大きな混乱なく6月29日に夏休みに入ることができました。
- さて、 日本の「新しい生活様式」ですが、(「新しい」という言葉に違和感を感じることは別にして)最も問題だと感じるのは「説明が不足している」点です。たとえばよく聞かれる「人と人の間隔を2メートル開ける」ですが、 平均身長が高いドイツで1.5メートルでいいのに、 なぜ日本が2メートルなのか理解できません。時々「最低1メートル」という話も聞かれ、スマホで使用され始めた「接触確認アプリ」も、接触を「概ね 1メートル以内の距離で継続して15分以上の近接状態が続いた状態」としています。ひょっとすると、「2メートルにしておけば、1メートルは確保できるだろう」ということなのでしょうか。また、 ドイツでは「マスクをしていれば1.5メートル開けなくてもいい」と理解されていますが、 日本で公的にそう説明されたという話しを、私はまだ聞いていません。
- 先日、ある市の会議に出てきました。「コロナ下」なので、座席の間は2メートル開けられ、全員がマスクをつけ、対面する人との間隔は10メートル以上離れています。発言はマイクなので、あまり大声は出さず、咳をしている人もいません。「果たしてここまで必要なのだろうか」と思いました。市の会議はこれでもいいでしょうが、民間の店舗の場合は店に入れる客が少なくなり、とても採算がとれません・・・
- 現在も、 東京都などでは毎日多くの感染者が出ています。巷では、緊急事態宣言の発令を求める声も高まっているようですが、経済に与える影響の大きさから、「すぐに」とはいかないようです。「もしまた休業要請が行われたら、店が潰れる」と話す店主のテレビニュースを見た私も、休業要請は避けてほしいと思っています。この状況は、 「厳しい隔離か、あるいは放任か」と悩んでいた「1979年の連邦伝染病法改正前のドイツ」に似ているように感じられます。ドイツにも学び、頭を柔軟にして考えてみることはできないのでしょうか。
- もちろん東京都もこの点は十分わかっているようで、休業要請を避けるため 「東京都感染拡大防止チェックシート」を提供し、利用を呼びかけています。しかし、ドイツの衛生規則とは、かなり迫力が違うように感じられます。両者を比較するとわかるので、同じレストラン(外食業)に関し、 東京都のチェックシートと、 ドイツのノルトライン・ヴェストファーレン州の17項目にわたる規定とを比較してみてください。私は、ドイツの規定から、「新しい生活様式」が基礎となっていると思われる東京都チェックシートとかなり違う印象を受けたのですが、みなさんは如何でしょうか。他に、日本フードサービス協会によるガイドラインや、宮城県の業界によるガイドラインもありますので、比較してみてください。
- 当然ですが、ドイツの方式も完璧ではなく、いろいろ問題があります。拘束力がある規則ですが、スタッフが十分ではない行政による取締りは、十分には行き届いていません。再び閉店を命令されないよう、テーブル利用者のリスト収集に苦労しているあるレストラン店主は、対策につき「客を興ざめさせる、客のもてなしとは全く関係ない」と不満を述べ、「客はコロナのルールが最も緩いところへ向かうことを突き止めた」と嘆いています。
- ドイツの手法はこれからも変わっていくと思うので、観察を続たいと考えています。なお、新宿の舞台でのコロナ集団感染を知り、ノルトライン・ヴェストファーレン州の劇場や音楽堂への規定を訳してみました。最近では、迅速に結果がわかる抗原検査にも、「科学的に効果が確認された革新的な方法」として出番が回ってきました。
連邦憲法裁判所が感染保護法改正による連邦緊急ブレーキを合憲と認める
- コロナの流行が継続するにつれ、ますます多数の訴訟が提起されてきましたが、その原因の1つは、感染保護法第28条1項の柔軟さを用い、法律に明示されていない対策を多数命じていた点にあります。感染保護法を改正してコロナ対策を明示すれば、訴訟の可能性を減らせるはずです。そこで2020年11月に感染保護法が改正され、第28条の次に第28a条「コロナウイルス2019の流行を防止するための特別な保護措置」が追加されました。内容的には、これまで実施してきた対策を事後的に連邦の法律として定め、疑問の余地をなくすという性格で、たとえば公的な空間で人と人の間に一定の距離を保つことや、マスク義務、企業に対して衛生構想を求める等の対策を示しています。同時に、命令を行う場合は、状況を良く判断することを求めています。
- こうして2020年末から2021年初めにかけてのコロナ感染第2波は何とか乗り切りましたが、2121年の3月から、ドイツの感染者数は再び増加に転じます。連邦と州のトップ会談で実施を合意していたにもかかわらず、実施しない州も出てきました。そこで、メルケル首相は、基本法第74条第1項19号が、伝染病対策の権限を連邦に認めている(外部サイト)ことに着目します。ワクチン接種の効果が出ると予想されるまでの期間につき、感染状況が高い地域に限って、連邦がコロナ対策を定めることを打ち出します。こうして、第28a条の次に第28b条「コロナウイルス2019の流行を防止するための連邦統一の保護措置」が追加されます。これが連邦のコロナ緊急ブレーキで、2021年4月23日に発効し、ワクチン接種の進展を見越して2021年6月30日で失効すると定められます。
- 迅速に感染を減らすことを目ざす連邦緊急ブレーキは、それまで以上に厳しい内容を含んでいました。そのため、複数の訴訟が提起されることになります。その中に、仮命令を求めるのではなく、俗に「本訴訟」と呼ばれる、連邦憲法裁判所への本格的な違憲の訴えも含まれていました。もちろん、緊急ブレーキが有効な2021年6月30日までの判決は期待せず、今後のために詳しい検討を求める、という性格の提訴です。
- 連邦憲法裁判所は、この問題を全力で扱い、そのうち「接触できる人数の制限」と「夜間外出の制限」に関し、2021年11月19日決定で形式的にも内容的にも「合憲である」という判断を示しました(公表されたのは、月末の11月30日です)。判決内容は広範に及び、このホームページで紹介できそうな範囲を越えています。そこで、連邦憲法裁判所の記者発表から、重要ポイントと感じられた点をいくつか紹介したいと思います。
連邦憲法裁判所、2021年11月19日決定
- たしかに、連邦緊急ブレーキは、さまざまな基本的権利を侵害していました。しかし、連邦緊急ブレーキにおける最上位の目標は、「ウイルスのさらなる拡散を遅らせ、その指数関数的な成長を打破して、医療システムへの過負荷を全体的に回避し、連邦全土で医療を確保すること」という、憲法的に合法なものです。その判断にあたり、立法者はロベルト・コッホ研究所を初めとする専門家の意見を十分に利用し、議論しています。
(判決は、生命と健康の保護を、他の基本的人権に対して上位にある「最上位の目標」と理解し、論じています。コロナ対策による営業禁止と「営業の自由」でノルトライン・ヴェストファーレン州高等行政裁判所が示した論理も、これと共通しています。)
- 法律の目的を達成するための規制では、立法者に一定の裁量の余地が与えられています。その余地は、常に一定ではなく、この件のように確実な判断を行うことに限界がある場合は、法的適合性の予測に関する違憲審査はそれだけ制約されます。本件の場合は、規制が専門的第三者の見解に基づいており、認め得る基礎が存在しています。
- 制限は、基本法に関する重大な負担を制約するよう、感染数や有効期間の点で対象が限られ、また例外も予定されています。この点から、基本権侵害との間で憲法に適したバランスを見出しており、相当性があると考えられます。
- 店舗の閉店(いわゆるロックダウン)などについても提訴が行われているそうなので、いずれ連邦憲法裁判所の判断が示されると予想されますが、この判決から考え、「合憲」という判断になると予測されます。いずれも専門家の判断を基礎に、慎重に対処されているからで、ドイツのコロナ対策が合憲か違憲かという議論は、今回の連邦憲法裁判所の判決でヤマを越えた感じです。なお、2021年秋からの流行では、これまで以上の感染者が数えられていますが、ワクチンの効果で、死亡数は1年前より少なめです。また、規制も、以前のような全市民を対象としたものから、ワクチン接種状況を考慮したものに変化し、クリスマスマーケットも対策を行った上で実施されています。
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