(委員名は略す)
都市は、住民の居住、生活の場であるとともに、商業、工業等の諸機能の集積の場でもあり、各都市は自然的、社会的諸条件により、種々の機能を様々な形で有している。そこで、計画的な都市づくりを行うに当たっては、現在の都市の状況及びその取り巻く環境を踏まえ、都市全体の将来像を示し、人口の配置、住宅地、商業地、工業地や公共施設の配置や規模等についての長期的な見通しを明らかにする必要がある。
以上のような観点から、都市計画においては、以下の役割を持つマスタープランが必要である。
現在、都市計画においては、市街化区域及び市街化調整区域の区域区分に当たり、都市計画のマスタープランとして「整備、開発又は保全の方針」を定めている。 しかしながら、現行の「整備、開発又は保全の方針」の内容は文章によって各項目ごとに記述されており、また、土地利用構想図の策定も必ずしも行われてはいないことから、都市の将来像を明示する役割を十分に果たすことができていない。 このため、「整備、開発又は保全の方針」の都市計画のマスタープランとしての機能を一層充実させ、行政の指針としてのみならず地域住民にも都市全体の将来像を明確に示す観点から、都市計画の長期的目標等を記述するほか、土地利用の方針等については、図面により表示することが必要である。
用途地域制度は、土地利用の現況や動向と、「整備、開発又は保全の方針」で示される将来の土地利用の方向を踏まえてそれぞれの地域における土地利用に対して用途、形態、密度等に関する一定の規制を定め、良好な市街地の形成と住居、商業・業務、工業等の諸機能の適正な配置を誘導しようとするものであり、現行の都市計画制度における基本的かつ根幹的な制度である。
従来の我が国の用途地域は、基本的には住居の環境の保護に重点を置いて、工場等の立地による環境の悪化を防止する規制を行っており、住居系土地利用と商業・業務系土地利用については、専用地域を除き、幅広く混在を許容している。
このため、今回の地価高騰を背景として、住商混在地域における商業・業務系土地利用の立地圧力が高まり、住居系土地利用が圧迫される例が多く見られるようになっている。特に大都市等の都心部においては、夜間人口の減少によるいわゆる空洞化現象を生じ、地域のコミュニティの崩壊といった問題が生じている。このような地域において、より的確に住環境の保護を図り、住宅供給にも資するため、一定の商業・業務系用途を制限するなど地域の実情に応じたきめ細かな用途規制が必要である。
また、地方都市等においては、所得水準の向上、経営形態の変化等により生活様式や生活利便施設の立地動向が変化しており、これに対応した的確な用途規制が必要である。
さらに近年、モータリゼーションの進展、産業構造の変化による企業の技術開発や研究開発機能の拡大、交通や通信機能の発展等により、幹線道路沿いの自動車関連施設の立地や、研究所団地、商業・業務施設の集積等の市街地形態の多様化が見られるようになった。また、小規模工場等と住宅が併存する地域において、マンション等の立地の急速な進行により、住工の調和が損なわれつつある市街地も見られるようになった。これらの地域における課題に対応して、的確な用途規制を行うことが必要である。
こうした用途規制の詳細化は、市街地像に合わせたべースの用途規制を行う用途地域と、地区ごとの特性に応じたきめ細かな用途規制を行う特別用途地区及び地区計画との適切な役割分担を踏まえて行うことが必要である。すなわち、都市全体の見地から定める「整備、開発又は保全の方針」と用途地域制度を第一段目の計画として位置付ける一方、市町村による都市計画のマスタープランと地区計画制度を第二段目の計画として位置付けることが必要である。
以上のような状況を踏まえ、用途地域制度について、次のような市街地の実態に対応して必要となる用途地域の創設を検討する必要がある。
用途地域制度の見直しに当たっては、特に住居系土地利用についてその良好な環境を保護するという観点から、許容用途列挙型の用途規制を可能な限り活用するべきである。また、大都市圏のマンション等において、事務所床の供給不足を背景として住戸部分の事務所への違法な用途転用が多く行われている実態に鑑み、用途規制の実効性を確保するためには、用途転用の防止策の充実が不可欠である。
なお、地方都市等においては、高度な土地利用を前提としない商業地域が存在しており、このような地域においても適切な容積率規制を行い得るようにすることが必要である。
また、用途規制の詳細化を実効あらしめるための措置として、用途地域に関する都市計画の決定基準についても必要な見直しを行うべきである。
このような必要性に対応して、土地の有効・高度利用が強く要請されている一定の地域において、土地区画整理事業が実施されていないなど公共施設の整備状況が低く、有効・高度利用の条件が整っていない土地では、地区内の公共施設の整備状況を踏まえた適切な範囲で定める容積率(暫定容積率)を適用し、地区計画等が策定された場合や、公共施設が整備された場合には、その地域の目標とする市街地像に合わせて定める容積率(指定容積率)を適用する、以下の内容の新たな制度(誘導容積制度)を創設する必要がある。
また、あわせてこのような地域においては、市街地開発事業の実施等により公共施設の整備を推進し、目標とする土地利用を実現することが重要である。
地区計画制度は、当該地区にふさわしい土地利用を実現するため、地区内の建築物に係る用途、容積を始め、壁面の位置、意匠等についてきめ細かい規制を行うとともに、地区に必要な道路、公園等の施設の整備や樹林地等の保全に関する計画も総合的、一体的に定めるものである。
このため、地区計画制度は、用途地域による基礎的な土地利用規制に対して、地区の特性に応じたより具体的な土地利用規制を行う役割を有するとともに、都市施設を補完して、主として街区内の居住者等の利用に供される公共施設の整備を誘導するという役割も有している。
特に、再開発地区計画及び住宅地高度利用地区計画は、地区内の公共施設の整備等と併せて、用途地域で定められた建築物の用途、容積率等の制限を緩和することにより、良好なプロジェクトの誘導を図り、都市基盤施設の整備、土地の適正かつ合理的な利用や、住宅・宅地の供給などを誘導するという役割をも有するものである。
このように、地区計画制度は、市町村が定める、地域に密着した総合的なまちづくりの計画として重要な意義を有しており、今後その積極的な活用が期待されるものである。
区域区分の行われていない都市計画区域のうち、特に、用途地域が定められていない地域において、リゾートマンション、大型ショッピングセンター等が多数進出する地域が見られ、近隣に対する日照障害、電波障害、景観上の問題が多発している。また、このような地域では公共施設が整備されていないのがむしろ通常であり、発生交通量の大きい高容積率の建築物の立地により交通の局所的な混乱を招くなどの弊害も生じている。
このような問題に対処するため、容積率等の形態制限を強化する等適切な土地利用規制の方策を講ずることが必要である。