都市計画中央審議会への諮問(1991年1月23日)

経済社会の変化を踏まえた都市計画制度はいかにあるべきか


(諮問の趣旨)

 現行の都市計画法に基づく土地利用計画制度は、昭和43年6月に、健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動の確保並びに適正な制限による合理的な土地利用を図ることを基本理念とし、都市の健全な発展と秩序ある整備を図ることを目的として、旧都市計画法の全面改正により創設された。その後、経済社会の変化にあわせ、適宜、種々の制度拡充を行ってきたところであるが、既に施行後20年以上を経過し、高度情報化社会の進展による産業構造の変化、国際化、高齢化、核家族化による社会構造の変化等が急速に進むとともに、土地基本法の成立により土地に対する基本理念が明確となるなど、現行法施行当時とは取りまく環境が大きく異なってきている。
 特に東京圏等の大都市地域においては、諸機能の一極集中に対応した都心部での地価高騰が、土地への投資の集中、投機的土地取引、不動産融資の拡大などにより広範に波及して、所得の伸びを大幅に上回る住宅・宅地価格の上昇がみられ、勤労者の持家取得や良好な借家への入居が困難となるなど、住宅・宅地問題が深刻化し、大都市地域への勤労者の居住水準の向上に重大な影響を及ぼしている。
 元来、都市計画における土地利用計画制度の目的は、都市機能の増進と良好な市街地環境の形成により、都市の健全な発展を図ることに主眼があるが、その際、商業・業務系の土地利用については、住居系の土地利用の利便性を向上させるものであり、適切な区域の配置と計画的な整備により、良好な都市居住を実現するものと考えられていた。しかし、近年になって商業・業務系土地利用の立地圧力が高まることにより住居系土地利用がこれらから一層圧迫されるようになってきており、このような状況に対して現行の土地利用計画制度は、必ずしも十分に対応できていないところがある。また、現下の都市内の土地利用状況を鑑みるに、例えば、木造賃貸住宅密集地域の再開発、工場跡地等の低・未利用地の有効活用、都心及びその周辺部における業務系土地利用と調和した住居系土地利用の確保、敷地の細分化による住環境の悪化の防止、市街地区域内における計画的な開発の促進、空中及び地下空間の高度利用の要請の高まりなどの課題が生じてきており、これらの課題に的確に対処するための土地利用計画制度の確立が必要である。
 21世紀を目前に控え、今後、ライフスタイルの変化が一層進展することが予想される中、新たな産業基盤・生活基盤投資も行われていくと考えられ、このような経済・社会の進展に対応した魅力ある都市居住を実現するため、あるべき土地利用計画制度の方向を検討する必要がある。

(検討事項)

  1. 21世紀を見通した都市計画の役割はいかにあるべきか。
  2. 都市のビジョンの確立のための方策はいかにあるべきか。
  3. 適正な用途規制のための方策はいかにあるべきか。
  4. 土地の有効・高度利用を促進するための方策はいかにあるべきか。
  5. 良好な市街地形成をより一層促進するための開発規制、誘導のあり方はいかにあるべきか。
  6. その他

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都市計画中央審議会の答申(1991年12月20日)

経済社会の変化を踏まえた都市計画制度のあり方についての答申

答 申 目 次

まえがき

1.都市計画制度の見直しの背景

(1)経済社会の変化への対応
(2)土地についての基本理念を踏まえた制度の整備・充実
(3)ゆとりと豊かさを実感できる都市空間の形成

2.都市計画制度の課題

(1)望ましい都市像の明確化
(2)適正な地価水準の実現への寄与
(3)適切な土地利用規制
(4)土地の有効・高度利用の促進
(5)均衡のとれた都市の発展
(6)魅力ある都市環境の形成

3.当面講ずべき都市計画制度上の施策

(1)都市のマスタープランの充実
(2)用途地域制度の見直し
(3)誘導容積制度の創設
(4)地区計画等の策定の推進
(5)開発許可制度等の充実
(6)都市計画の決定手続

まえがき

 経済社会の変化を踏まえた都市計画制度のあり方について検討を重ねた結果、次のとおり結論を得たので、ここに建設大臣に答申するものである。
 なお、当審議会は政府がこの答申の趣旨に従って早急に具体的措置を講ずることを要望する。
 本件に関し、審議に参加した当審議会の委員、臨時委員及び専門委員は次の通りである。

(委員名は略す)


1.都市計画制度の見直しの背景

(1)経済社会の変化への対応

 現行の都市計画制度は、昭和43年6月に、戦後の高度経済成長に伴い生じた種々の都市問題に対処しつつ、健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動の確保並びに適正な制限による合理的な土地利用を図るという基本理念の下に、旧都市計画制度を全面改正して、市街化区域・市街化調整区域の区域区分及び開発許可制度の導入、都市計画決定権限の大幅な地方委譲等を内容とする新たな都市計画制度として創設されたものである。また、昭和45年6月には、建築基準法及び都市計画法の改正により、従来の4種類の用途地域を8種類に改めるとともに、新たに容積率、種々の高さ制限等の制度が導入されたところである。
 このように、昭和40年代中期に構築された都市計画・建築規制制度は、その後において基本的枠組みは維持しつつも、我が国の経済社会の変化を踏まえ、時々の要請に応えるため、適宜、種々の改正が行われてきたところである。例えば、昭和40年代後半から昭和50年代前半においては、高度経済成長に伴う環境間題の高まりの中で、開発許可の対象範囲の拡大、日影規制の導入、地区計画制度の創設などが行われており、また、昭和50年代後半から、産業構造等の変化に対応して土地所有者や民間事業主体による都市整備を一層推進するための種々の規制緩和措置が講じられてきた。
 しかしながら、制度の創設から今日に至るまでの20年の間、我が国においては、高度経済成長から安定成長へ移行するなど、産業構造や社会構造が急速に変化してきている。この変化を都市の面からみると、全国的には都市人口が急速に増加し、国民の大半が都市に居住するという都市化時代を迎えるとともに、東京への人口や諸機能の一極集中が進行し、東京等の大都市においては職住の遠隔化、住宅取得難等種々の問題が生じているところである。一方、地方都市においては、地域経済社会の担い手の減少、若年層の流出等に対応して活性化の必要性が高まっている。
 また、経済力の向上や建築技術、機械設備の高度化に伴い、都市の相当の部分において建築物の不燃化が急速に進展し、従来の比較的改造しやすい市街地形態から鉄筋コンクリート造等の堅い構造による改造し難い市街地へと変化が進んでおり、これまで以上に計画的な都市整備が必要となっている。さらに、モータリゼーションは当時の予測をはるかに超える速度で進行しており、特に東京等の大都市においては、道路交通の混雑は一向に改善を見ないで今日に至っている。
 以上のような経緯の中で、この20年間における都市計画制度上の成果としては、公的、民間の計画的手法による都市開発が一般化したこと、開発許可行政が地方公共団体の中に定着したことなどが挙げられる。
 制度の創設後20年以上経過した現在、これまでの成果を踏まえつつ、その後の都市計画をめぐる諸情勢の変化に対応し得るよう都市計画制度の再構築を図ることが今日的な課題となっている。

(2)土地についての基本理念を踏まえた制度の整備・充実

 我が国の経済社会に深刻な問題を生じさせた今回の地価高騰は、諸機能の東京への一極集中に対応した都心部での事務所需要の増大等によって始まり、増幅されつつ周辺部、大阪圏、名古屋圏、地方圏に次々と波及していった。これに対しては、総合土地対策要綱(昭和63年6月閣議決定)や総合土地政策推進要綱(平成3年1月閣議決定)等に基づき、不動産向け貸出しの総量規制、地価税の創設を始めとする一連の土地税制の改正等所要の具体的施策が実施されたところである。このことは、今回の地価高騰によって、これまでの我が国の社会を支えてきた「公平」や「機会の平等」に対する基本的な信頼が動揺しつつあり、その結果として公正な社会経済の維持が困難となりかねない状況に対して、真剣に対応を迫られたことを示すものである。  今後とも、総合土地政策推進要綱等に基づく総合的な土地政策を一層推進する必要があるが、その一環として、都市計画制度についても、「土地についての公共の福祉優先」や「土地の適正な利用及び計画に従った利用」等の土地基本法の基本理念を踏まえ、その整備、充実を図る必要がある。

(3)ゆとりと豊かさを実感できる都市空間の形成

 21世紀を間近に控えた現在、都市計画制度については、時々の課題に対応するにとどまらず、今後の経済社会の変化とそれが都市に与える影響を見通して、より積極的に都市空間の形成を行い得るよう、制度のあり方を考えるべき時期に来ていると言える。  今後の経済社会の変化を見ると、経済面においては、国際化の進展に伴い世界経済の相互依存関係が高まり、海外からの資本流入が大都市における業務施設の集積要因となると考えられる。また、生産拠点の海外移転を始めとした企業の海外進出が活発化し、それが大規模な工場等の土地利用転換を拡大すると見られる。  社会面においては、人口動態が大きく変化し、総人口が戦時を除いて初めて減少に転じ、高齢化が加速するとともに、余暇時間の増大等により、ライフスタイルの変化が生じると予想されている。このことは、居住環境の向上と公共施設の整備に対する新たなニーズを生み、高齢者等に対する福祉の観点に立った都市整備や、うるおい、景観への配慮の要請もより強まるものと考えられる。  また、科学技術の進歩が高度情報化を一層進展させると予想されているが、このことは、情報通信網に依存した業務機能の分散とそれに伴う職住近接の都市形成に寄与すると考えられる。  このような都市の多面的な発展に対応して住民が多様な選択をし得る魅力ある都市づくりを行うとともに、都市生活の中でゆとりと豊かさを真に実感できるような都市空間を形成するための都市計画制度の構築が必要である。

2.都市計画制度の課題

 都市計画は、健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動の確保を基本理念としている。このため、人々の都市生活の基盤として、安全で快適な居住環境を確保するとともに、経済、社会、教育、文化、福祉等の諸活動が展開されるための総合的で質の高い都市環境を形成していくことが極めて重要な課題である。特に、所得水準の向上やライフスタイルの変化に伴い、生活の質の向上をより重視する傾向が強まっていることに鑑み、今後の都市計画においては、都市を人間居住の場としてとらえ、その健全な発展と秩序ある整備を図る視点がより重視されなければならない。  このような観点の下で、現行の都市計画制度には以下のような課題への対応が求められている。

(1)望ましい都市像の明確化

 21世紀を間近に控え、産業構造、社会構造の変化が急速に進展し、都市づくりに対する住民のニーズは今後ますます多様化するものと考えられる。
 このように多様化する住民のニーズを都市づくりの目標に体系化し、土地利用、都市施設、市街地開発事業等の個別具体の都市計画に反映させていくためには、望ましい都市像を都市計画の中で明らかにする必要がある。これにより住民もまた自ら都市の将来像について考え、都市づくりに対する合意形成を図ることが可能となるものである。また、具体の都市計画が適用されることによる土地利用上の制約に対する住民の理解を深めるためにも、望ましい都市像が明確に示されなければならない。

(2)適正な地価水準の実現への寄与

 今回、地価がこれほどまでに高騰し、またそれが広範な地域に波及したことについては、金融緩和下における土地への投資の集中と投機的土地取引が重要な要因となっており、さらにその背景としては、資産としての土地の有利性を許した税制に加えて、土地の適正な利用を的確に促進する上で、制度が十分に機能し得なかったことも見逃すことはできない。
 金融、税制の面では、不動産業向け貸出しの総量規制、地価税の創設等の具体的施策が実施されたところであるが、土地利用計画においても、適正かつ合理的な土地利用の実現を図る都市計画制度の確立が要請されている。
 もとより、適正な地価水準の実現に関しては、都市計画による対応だけでは限界があり、国土利用政策、土地税制、土地関連融資規制、土地取引規制等土地に関する各般の施策を総合的に実施していく必要がある。都市計画制度としては、計画に従った土地の適正かつ合理的な利用を実現することを通じて、適正な地価水準の実現に寄与していくべきである。
 例えば、大都市地域において地価負担力の比較的高い商業・業務系土地利用が住居系土地利用を圧迫しており、居住人口の流出による都心部の空洞化が加速され、住宅の確保や居住水準の向上等に重大な影響を及ぼしている。このような地域では、適切な土地利用規制により、住居系土地利用を保護することが重要な課題である。また、都市内には、工場跡地、鉄道操車場跡地等の低・未利用地が広範に存在しており、こうした土地の有効・高度利用を図ることも重要な課題である。都市計画制度としては、常に地価との関係に留意しながら、このような課題にきめ細かく対応して都市内における諸機能の適正な配置や土地の有効・高度利用を図る必要がある。

(3)適切な土地利用規制

 さきに述べたように、近年、都心部において地価負担力が比較的高い商業・業務系土地利用の立地圧力が住居系土地利用に対して高まってきたことにより、都市計画制度としても、住居系土地利用の保護に一層配慮した適切な土地利用規制が必要となってきている。
 特に、地価高騰が住宅地にまで波及した原因として、現行の用途地域制度の許容範囲が幅広いものとなっていることが指摘されており、都市内の各地域において、それぞれに住環境の保護と良質な住宅の確保が図られるように適切な用途規制を行うことが求められている。
 また、産業構造の高度化やライフスタイルの変化に応じて、多様な市街地像が出現しており、これに対応した的確な用途規制を行うことが必要となっている。
 さらに、国民のニーズの高度化、多様化に対応するためには、土地利用規制の詳細化を図る必要があり、地区計画制度の充実とその一層の活用を図るとともに、計画策定を誘導する方策の確立を図ることが必要である。

(4)土地の有効・高度利用の促進

 土地は現在及び将来における限られた貴重な資源であり、国民の諸活動にとって不可欠の基盤である。とりわけ、都市内においては、諸活動が集約的に行われ、かつ高度な土地利用を前提に都市基盤施設の整備が重点的に行われており、諸活動の基盤としての土地の重要度は極めて高い。
 しかしながら、現下の土地利用の状況をみると、大都市等の既成市街地においては、土地の有効・高度利用が強く要請されているにもかかわらず低利用の地域が存在し、都市計画において指定されている容積率と当該地域において現実に建築されている建築物の容積率との間に大きな差がある。これらの地域は、幹線道路等の整備が遅れていたり、幹線道路は整備済であっても、これに面していない土地が低利用で残存しており、低層の木造住宅等が密集している場合も多く、防災上の危険注が高い劣悪な市街地環境となっている。これは、主として、道路等の公共施設が不足していること、狭あいな道路に接した狭小な建築物の立地により宅地の一体的利用が困難であることが原因であると考えられる。
 このような地域については、土地基本法の基本理念を踏まえ、適正かつ合理的な土地利用を図るため策定された計画に基づき、土地の有効・高度利用及び都市基盤施設整備の的確な誘導方策を一体的に講ずることが必要である。

(5)均衡のとれた都市の発展

 我が国は、21世紀には国民の7割以上が都市に住むと見込まれるなど、今後、都市化が一層進展していくと考えられる。このような都市化の中で、個々の都市は社会経済情勢や国民のニーズの動向等を反映しつつ発展していくと予想されるが、その発展過程において、住居、商業・業務、工業等の諸機能が均衡を保ちながら適正に配置され、しかも都市基盤施設の整備と調和が図られることが必要である。
 このような観点から見ると、大都市においては、住居系土地利用の地域への業務系土地利用の無秩序な進出、住宅立地の郊外化によって、通勤難等の問題が生じており、都市計画制度としても、的確な用途規制等により土地利用の誘導を図るとともに、適切に都市基盤施設の整備や市街地開発事業の実施を図る必要がある。
 なお、東京一極集中を是正し、国土の均衡ある発展を図るという観点からの事務所の国土全体の立地、展開については、本来、国土政策上の課題として検討される必要があるが、都市計画の役割としては、それを踏まえ、適切な土地利用規制・誘導、拠点地区等における都市基盤施設整備の推進を図っていく必要がある。
 また、地方都市においては、大都市に比べて商業・業務、健康・福祉、学術・文化、研究開発等の高次都市機能が十分集積しておらず、下水道等の生活環境施設の整備が遅れている現状にあるが、人口が減少している地方都市では、都市基盤施設の効率が低下し、人口規模に支えられる各種都市機能の維持・成立が困難になる可能性もある。
 こうした状況に対処し、地方都市において大都市にない豊かでゆとりある都市生活が可能となるよう、各種の高次都市機能等を導入するとともに、魅力ある都市環境の形成を図ることにより、大都市に集中している人口と諸機能を地方都市に分散、定着させる必要がある。
 このため、開発許可制度や公共用地の取得を円滑化するための制度の整備・充実を図りながら、高次都市機能の導入を誘導するための諸条件を整備するとともに、中心市街地等における新たな都市機能集積や都心型居住を誘導するなど、各都市の特性を踏まえた各般の施策を総合的・一体的に推進する必要がある。

(6)魅力ある都市環境の形成

 うるおいや美しさは都市の魅力の大きな要素をなすものであり、建築物や公園、広場等のオープンスペース、道路、橋梁等の土木構造物など都市を構成する要素を見直し、美しい街並みの形成、都市の象徴的空間の創出に努める必要がある。特に、建築物については、その形態の整序を図ることが、美しい都市景観を形成する上で重要である。
 また、福祉、文化、伝統に配慮し、地域の自立やコミュニティの確立が図られるような都市づくりが求められている。特に、都市景観や街並みは、都市の地域的特性や個性が最もよく発揮されるべきものであるので、住民の積極的な参画の下に、創意と工夫による地域の特色を生かしたまちづくりが展開される必要がある。
 このような建築物等の人工物に関する景観形成と並んで、緑、水、土等の自然的環境は都市生活にうるおいとやすらぎを与えるものであり、都市化の進展の中で手近に自然と親しむことができない今日、緑地空間を都市の基盤として積極的に確保していくことが重要である。特に、平地林、ため池等、都市に残された貴重な緑地空間の保全及び創出により、自然環境を最大限生かした都市空間の形成を図ることが求められている。

3.当面講ずべき都市計画制度上の施策

 21世紀に向けて、ゆとりと豊かさを真に実感できるような都市空問を創造していくためには、今後、上記の諸課題に対応しつつ、都市施設の整備、市街地開発事業、土地利用計画を適切な連携と役割分担の下に総合的に推進するとともに、制度の整備・充実を図っていかなければならないが、以下の都市計画制度上の施策についてはその緊急性と重要性が特に高く、今後の都市づくりを推進する上で必要不可欠であることに鑑み、早急に具体化の措置を講ずる必要がある。

(1)都市のマスタープランの充実

  1. 都市計画におけるマスタープランの役割

     都市は、住民の居住、生活の場であるとともに、商業、工業等の諸機能の集積の場でもあり、各都市は自然的、社会的諸条件により、種々の機能を様々な形で有している。そこで、計画的な都市づくりを行うに当たっては、現在の都市の状況及びその取り巻く環境を踏まえ、都市全体の将来像を示し、人口の配置、住宅地、商業地、工業地や公共施設の配置や規模等についての長期的な見通しを明らかにする必要がある。
     以上のような観点から、都市計画においては、以下の役割を持つマスタープランが必要である。

    ア.
    住民の都市計画に対する理解と策定への参加を容易にするため、都市の将来像を明示すること

    イ.
    長期的な都市づくりの基本方針として、土地利用、都市施設及び市街地開発事業の個別具体の都市計画を先導し、各個別計画相互問の整合性・総合性の確保を図ること

    ウ.
    個別具体の都市計画について、計画の実現の見通しとして、市街地整備の手法や時期等を明らかにすること

  2. 「整備、開発又は保全の方針」の充実

     現在、都市計画においては、市街化区域及び市街化調整区域の区域区分に当たり、都市計画のマスタープランとして「整備、開発又は保全の方針」を定めている。  しかしながら、現行の「整備、開発又は保全の方針」の内容は文章によって各項目ごとに記述されており、また、土地利用構想図の策定も必ずしも行われてはいないことから、都市の将来像を明示する役割を十分に果たすことができていない。  このため、「整備、開発又は保全の方針」の都市計画のマスタープランとしての機能を一層充実させ、行政の指針としてのみならず地域住民にも都市全体の将来像を明確に示す観点から、都市計画の長期的目標等を記述するほか、土地利用の方針等については、図面により表示することが必要である。

  3. 市町村による都市計画のマスタープランの創設

    ア.
    地域に密着したマスタープランの必要性
     都市計画は住民の合意の上に進められるべきものであるので、都市計画のマスタープランにおいては、地区ごとの将来のあるべき姿をより具体的に明示し、また、地域における都市づくりの課題とそれに対応した整備等に関する方針を明らかにすることが必要である。
     しかし、現行の市街化区域及び市街化調整区域の「整備、開発又は保全の方針」は都道府県知事が定めるものであることから、地区ごとの将来のあるべき姿、地域における都市づくりの課題及びそれに対応した整備等の方針を明らかにすることには一定の限界がある。
     また、各種事業手法の計画的実施に、これまで市街地整備基本計画が一定の役割を果たしてきたところであるが、近年の計画手法、事業手法の多様化、詳細化に対応し、各種手法の適切な連携と整合を図ることが必要となっている。
     このため、基礎的自治体である市町村が、住民参加の下に、地区ごとの将来のあるべき姿、道路、公園等の公共施設の計画、地域における都市づくりの課題及びそれに対応した整備等の方針をより具体的かつきめ細かく定めることのできるマスタープランとして、市町村による都市計画のマスタープランを創設することが必要である。

    イ.
    市町村による都市計画のマスタープランの位置付け
     市町村による都市計画のマスタープランは、市町村が、行政区域内の都市計画区域について、地区レベルで整備課題を明らかにし、その上でその課題にふさわしい整備等の方針を示すという性格を有するべきものである。
     従って、「整備、開発又は保全の方針」が都市計画区域全体にわたるマスタープランとして、区域内の主要な用途配分、市街地の密度構成、市街地の開発・再開発、根幹的公共施設の整備や自然環境保全の方針等を、おおむねの位置や整備方針等を明らかにして定めるものであるのに対し、市町村による都市計画のマスタープランは、「整備、開発又は保全の方針」の枠組みの下で、地区整備の基本方針を基に、地区特性に応じた土地利用の方針、各地区ごとの整備課題に応じた公共施設等の整備方針と、これらを踏まえて策定すべき地区計画等や実施すべき市街地開発事業等を定めるべきである。
     また、市町村による都市計画のマスタープランの策定に当たっては、住民や土地所有者の意向が計画内容に十分反映されるよう、住民参加の仕組みを導入するべきである。

(2)用途地域制度の見直し

  1. 用途規制の詳細化の必要性

     用途地域制度は、土地利用の現況や動向と、「整備、開発又は保全の方針」で示される将来の土地利用の方向を踏まえてそれぞれの地域における土地利用に対して用途、形態、密度等に関する一定の規制を定め、良好な市街地の形成と住居、商業・業務、工業等の諸機能の適正な配置を誘導しようとするものであり、現行の都市計画制度における基本的かつ根幹的な制度である。
     従来の我が国の用途地域は、基本的には住居の環境の保護に重点を置いて、工場等の立地による環境の悪化を防止する規制を行っており、住居系土地利用と商業・業務系土地利用については、専用地域を除き、幅広く混在を許容している。
     このため、今回の地価高騰を背景として、住商混在地域における商業・業務系土地利用の立地圧力が高まり、住居系土地利用が圧迫される例が多く見られるようになっている。特に大都市等の都心部においては、夜間人口の減少によるいわゆる空洞化現象を生じ、地域のコミュニティの崩壊といった問題が生じている。このような地域において、より的確に住環境の保護を図り、住宅供給にも資するため、一定の商業・業務系用途を制限するなど地域の実情に応じたきめ細かな用途規制が必要である。
     また、地方都市等においては、所得水準の向上、経営形態の変化等により生活様式や生活利便施設の立地動向が変化しており、これに対応した的確な用途規制が必要である。
     さらに近年、モータリゼーションの進展、産業構造の変化による企業の技術開発や研究開発機能の拡大、交通や通信機能の発展等により、幹線道路沿いの自動車関連施設の立地や、研究所団地、商業・業務施設の集積等の市街地形態の多様化が見られるようになった。また、小規模工場等と住宅が併存する地域において、マンション等の立地の急速な進行により、住工の調和が損なわれつつある市街地も見られるようになった。これらの地域における課題に対応して、的確な用途規制を行うことが必要である。
     こうした用途規制の詳細化は、市街地像に合わせたべースの用途規制を行う用途地域と、地区ごとの特性に応じたきめ細かな用途規制を行う特別用途地区及び地区計画との適切な役割分担を踏まえて行うことが必要である。すなわち、都市全体の見地から定める「整備、開発又は保全の方針」と用途地域制度を第一段目の計画として位置付ける一方、市町村による都市計画のマスタープランと地区計画制度を第二段目の計画として位置付けることが必要である。

  2. 用途地域制度の見直し

     以上のような状況を踏まえ、用途地域制度について、次のような市街地の実態に対応して必要となる用途地域の創設を検討する必要がある。

    ア.
    適切な住環境の保護等
    i)住宅と他用途が混在する地域において、近年の地価高騰を背景に事務所等が住宅地に進出し、住環境に悪影響を与える例が多く見られる状況に対応して、大規模な店舗、事務所等を規制し、より適切に住環境の保護を図る地域。
    ii)都心部等の住商混在地域において、居住人口の流出による空洞化現象が生じていることに対応して、一定階以上を住宅に限定する立体的な用途規制により、住宅と商業・業務施設の調和のとれた併存を図る地域。
    iii)マンション等の中高層住宅が集約的に立地する例が多く見られる状況に対応して、高密な居住に必要な利便施設の立地を許容しつつ、中高層住宅への用途純化を図る専用地域。
    iv)地方都市等において、低層戸建住宅を中心としながらも、独立の日用品店舗も併存して立地する例が多く見られる状況に対応して、小規模な独立店舗の立地を許容する低層住宅の専用地域。

    イ.
    市街地形態の多様化への対応
    i)モータリゼーションの進展等により幹線道路沿いに自動車関連施設が立地する例が多く見られる状況に対応して、一定の自動車関連施設の立地を許容しつつ、住宅地としての環境との調和を図る地域。
    ii)産業、経済のサービス化、ソフト化を背景に商業・業務施設が集積する市街地が多く見られる状況に対応して、これら商業・業務施設の集約的な立地を誘導する地域。
    iii)産業の高度化に伴い、研究施設、開発試作型工場が集積する市街地が多く見られる状況に対応して、公害を発生するおそれのある工場や集客施設等の立地を制限することにより、これら研究施設、開発試作型工場の利便の増進を図る地域。

     用途地域制度の見直しに当たっては、特に住居系土地利用についてその良好な環境を保護するという観点から、許容用途列挙型の用途規制を可能な限り活用するべきである。また、大都市圏のマンション等において、事務所床の供給不足を背景として住戸部分の事務所への違法な用途転用が多く行われている実態に鑑み、用途規制の実効性を確保するためには、用途転用の防止策の充実が不可欠である。
     なお、地方都市等においては、高度な土地利用を前提としない商業地域が存在しており、このような地域においても適切な容積率規制を行い得るようにすることが必要である。
     また、用途規制の詳細化を実効あらしめるための措置として、用途地域に関する都市計画の決定基準についても必要な見直しを行うべきである。

(3)誘導容積制度の創設

  1. 容積率規制の活用による適正な土地の有効・高度利用の促進の必要性

    ア.
    適正な土地の有効・高度利用の促進を図り、良好な市街地の形成を行うためのインセンティブの付与
     我が国では、従来、土地の利用については、利用するかしないかを含めて個々の土地所有者等の自由に任せるという考え方が強い。このため、土地の有効・高度利用を図るための現行制度も、土地の利用を基本的には土地所有者等の自由に任せた上で、有効・高度利用にインセンティブを与えるという手法であり、必要な公共施設を伴った良好な市街地を形成し、適正かつ合理的に土地利用を図るという目的が十分には達成できないという面がある。
     そこで、今後は、土地の有効・高度利用が強く要請されている地域においては、土地の所有には利用の責務が伴うという考え方に立って、有効・高度利用が行われていない土地には土地利用の制限が働き、逆に、有効・高度利用が行われる優良計画に対してはその制限を緩和する手法を導入すべきである。これにより、バラ建ちを防止するとともに、優良計画に基づく有効・高度利用にインセンティブを付与し、良好な市街地形成を促進することが可能となる。

    イ.
    公共施設の整備及び土地利用規制の一体性・総合性の確保
     さきに述べたように、既成市街地の土地について、指定容積率に比して低利用の状況が存するのは、主として道路等の公共施設が不足しており、指定容積率を利用しようとしても困難な場合が多いことが原因であると考えられる。
     また、このような地域においては、防災上の危険性が高く、劣悪な環境の市街地となっていたり、幹線道路沿いのみ高度利用が進み、その他の土地では、狭あいな道路に接した狭小な建築物が立地しているなど、宅地の一体的利用や協調した建替えが困難であるなどの問題もある。
     こうした一定の広がりを持った地域において、十分な都市基盤施設を備えつつ、地域全体の有効・高度利用と良好な市街地形成を図るためには、地域全体の計画上の一体性を確保しながら、目指している市街地像に合致した公共施設の整備及び詳細な土地利用規制を行う必要がある。この際、幹線道路等の都市基盤施設の整備を促進するような制度的な配慮も必要である。

  2. 誘導容積制度の創設

     このような必要性に対応して、土地の有効・高度利用が強く要請されている一定の地域において、土地区画整理事業が実施されていないなど公共施設の整備状況が低く、有効・高度利用の条件が整っていない土地では、地区内の公共施設の整備状況を踏まえた適切な範囲で定める容積率(暫定容積率)を適用し、地区計画等が策定された場合や、公共施設が整備された場合には、その地域の目標とする市街地像に合わせて定める容積率(指定容積率)を適用する、以下の内容の新たな制度(誘導容積制度)を創設する必要がある。
     また、あわせてこのような地域においては、市街地開発事業の実施等により公共施設の整備を推進し、目標とする土地利用を実現することが重要である。

    ア.
    用途地域における二重の容積率指定
     市街化区域内の土地の有効・高度利用が強く要請されていながら、公共施設の整備状況が低い一定の地域においては、「整備、開発又は保全の方針」に定める有効利用の方針に基づき、指定容積率のほかに暫定容積率を指定し、簡易な構造の小規模建築物を除き暫定容積率によって建築規制を行う。

    イ.
    地区計画等に適合する建築物等に対する指定容積率の適用
    i)地区計画等において良好な市街地形成に必要な地区施設の配置及び規模等を定めた場合には指定容積率を適用する。
    ii)また、地区全体の計画的な有効・高度利用に寄与すると認められる建築物については、指定容積率を適用する。

    ウ.
    優良計画の策定による容積率の割増し等
    i)高度利用地区、特定街区、住宅地高度利用地区計画、再開発地区計画、用途別容積型地区計画等を活用し、住宅供給の促進に資する優良プロジェクト、さらに、良好な都市環境の形成に資する優良プロジェクトについて容積率の割増しを行う。
    ii)良好な都市環境の形成に配慮しつつ、地区計画等において、区域を区分した上で、地区内の総容積の範囲内で容積率の緩和及び引下げを行うことができるものとする。

(4)地区計画等の策定の推進

  1. 地区計画制度の積極的活用

     地区計画制度は、当該地区にふさわしい土地利用を実現するため、地区内の建築物に係る用途、容積を始め、壁面の位置、意匠等についてきめ細かい規制を行うとともに、地区に必要な道路、公園等の施設の整備や樹林地等の保全に関する計画も総合的、一体的に定めるものである。
     このため、地区計画制度は、用途地域による基礎的な土地利用規制に対して、地区の特性に応じたより具体的な土地利用規制を行う役割を有するとともに、都市施設を補完して、主として街区内の居住者等の利用に供される公共施設の整備を誘導するという役割も有している。
     特に、再開発地区計画及び住宅地高度利用地区計画は、地区内の公共施設の整備等と併せて、用途地域で定められた建築物の用途、容積率等の制限を緩和することにより、良好なプロジェクトの誘導を図り、都市基盤施設の整備、土地の適正かつ合理的な利用や、住宅・宅地の供給などを誘導するという役割をも有するものである。
     このように、地区計画制度は、市町村が定める、地域に密着した総合的なまちづくりの計画として重要な意義を有しており、今後その積極的な活用が期待されるものである。

  2. 地区計画制度の充実

    ア.
    地区計画等の策定を推進すべき地区の明確化等
     地区計画制度は、昭和55年に導入され、今日までの約10年間に、着実に策定地区数が増加しているものの、策定地区の面積は全国の用途地域面積の1%強であり、市街化区域への編入、用途地域の変更や、土地区画整理事業の実施の際、土地所有者等関係者の意向がまとまった地区を中心に策定されている。
     このような現状に鑑み、今後は、住環境の改善を要する地区や住環境悪化のおそれのある地区等、地区計画制度を積極的に活用すべき地区においてその策定が推進されるようにすることが必要である。しかしながら、これらの地区は、現状では土地所有者等関係者の意向がまとまるようなきっかけがなく、また、合意形成を誘導するような手段も用意されていないという問題がある。
     このため、市町村による都市計画のマスタープランにおいて、地区計画等の策定を推進すべき地区を明示するとともに、土地所有者等による合意が形成された時点で、その要請を受けて地区計画等を定める方策を導入する必要がある。
     また、地区施設として計画された道路を予定道路に指定し、市街地形態の改善が図られるようにする必要がある。

    イ.
    市街化調整区域等における地区計画制度の活用
     市街化調整区域や区域区分の行われていない都市計画区域で用途地域が定められていない地域における既存集落や一定の開発地等の区域については、良好な居住環境その他良好な地区環境の維持・形成を図るため、土地利用に関する規制、公共施設の配置等を定めることが必要な場合がある。
     このため、これらの地域において、集落地域整備法の活用を図るとともに、市街化調整区域にあっては、その性格を変えない範囲内で、地域の実情に合わせ必要な土地利用規制と公共施設の配置を一体的に定めることのできる地区計画を策定することを検討する必要がある。
     この場合、農用地等として保全すべき区域や集落地域整備法の対象とすべき区域を除く区域を対象とすることが必要である。

    ウ.
    推進体制、助成制度等の整備
     地区計画等の策定を推進するためには、都市計画上の優遇措置に加え、推進体制、助成制度等の整備が必要である。このため、各種事業制度との円滑な連携を図りながら、土地所有者等の合意形成を促進するための組織の活用、コーディネーターによる計画策定の支援、地区計画等の策定の促進や地区施設の整備に係る助成、税制上の措置等により、計画的な市街地整備を推進することが必要である。あわせて、地区計画等の普及、啓蒙や、地方公共団体の体制の充実を図ることも重要である。

(5)開発許可制度等の充実

  1. 開発許可制度の充実

    ア.
    市街化区域における開発許可制度の充実
    i)市街化区域内における開発適地の計画的市街化
     市街化区域における開発許可制度は、制度創設以来、地区レベルの公共施設の整備等に一定の役割を果たしてきたところであるが、近年、市街地の密度が高まる中で、市街化区域内の開発規模は次第に小規模化してきている。
     こうした中で、今後市街化が一層進展していくことが予想される市街化区域内の宅地化する農地は、他の低・未利用地とともに、市街化区域内に残された貴重な開発適地であり、その計画的市街化を図ることは極めて重要な意義を有している。
     その際、ミニ開発、バラ建ち等による狭く袋路の多い街路網の形成や、既存道路沿いが建てづまり、内部の土地利用が困難となるという弊害を防止するために、地区全体の土地利用を総合的に誘導し得る面的施策として、地区計画の策定や土地区画整理事業の実施っが望まれるところである。
     しかしながら、これらの施策を、全ての地区において速やかに実施することは困難であることから、こうした施策のほかに、ミニ開発を含め開発行為全体を地区全体の計画的市街化に支障がないよう誘導していく必要がある。
     ところで、こうした計画的市街化を図る上では、地区レベルの公共施設の適切な整備等が必要であるが、中でも、地区全体の計画的市街化を図る上での基幹的性格を有する地区レベルの道路の計画的整備を重視する必要がある。
     こうしたことから、個々の開発行為に当たっては、特に、開発行為によって設けられる道路が地区全体の道路網の一部として、整合性を保って整備されていくように、誘導していく必要がある。
    ii)制度の見直しの方向
     以上のような、市街化区域における開発行為の計画的誘導のため、現行の開発許可制度について以下のような見直しを行う必要がある。
    ア)
    青空駐車場、資材置場等の空地において、公共施設の設置改廃を伴わずに敷地の統合分割を行った後、建築行為を行う場合について、地区全体の計画的市街化に必要な公共施設の整備の必要がある場合には、規制対象として取り込むこと。
    イ)
    三大都市圏の一定の区域においては、規制対象規模に満たない開発のほとんどが500u以上1,000u未満である実態等に鑑み、こうした区域においては、開発行為の規制対象規模を原則500u以上とすること。
    ウ)
    地区全体の道路網の整合性の確保のため、自已用建築物等に係る開発行為についても、道路に関する技術基準を適用するとともに、開発区域外の道路の基準に関して、必要な緩和を行うこと。
    エ)
    道路網整備の必要性のある区域及び道路網整備の基本方針をマスタープランに明示し、それを踏まえて積極的に地区計画の策定を推進すること。

    イ.
    市街化調整区域における開発許可制度の充実
    i)市街化調整区域における開発行為の適正化
     市街化調整区域においては、日用品店舗併用住宅、農家の二三男向け住宅、既存宅地確認制度等の運用方針に幅があることから、一部の地域においてではあるが、むしろ市街化調整区域におけるスプロールの危険性が危惧される状況となっている。 このような状況を踏まえ、市街化調整区域における開発行為の適正化を図る必要がある。
    ii)制度の運用の適正化の方向
     市街化調整区域における開発行為の適正化のため、現行の開発許可制度について、市街化調整区域等における開発許可にあたり、建築物の形態制限を定め得る旨を規定している都市計画法第41条の活用を推進するとともに、許可権者が開発を許容し得る位置的条件等を設定する仕組みを活用するなどして、都市計画法第34条第10号ロ等の開発許可基準の適正な運用を図ることが必要である。

  2. 区域区分の行われていない都市計画区域における適切な土地利用規制

     区域区分の行われていない都市計画区域のうち、特に、用途地域が定められていない地域において、リゾートマンション、大型ショッピングセンター等が多数進出する地域が見られ、近隣に対する日照障害、電波障害、景観上の問題が多発している。また、このような地域では公共施設が整備されていないのがむしろ通常であり、発生交通量の大きい高容積率の建築物の立地により交通の局所的な混乱を招くなどの弊害も生じている。
     このような問題に対処するため、容積率等の形態制限を強化する等適切な土地利用規制の方策を講ずることが必要である。

(6)都市計画の決定手続

 都市計画は、現在及び将来における都市の機能を確保し、その発展の方向を定めるものであることから、その決定を行うに当たっては、都市の広がりに対応する地方公共団体の役割が重要であり、土地利用の規制、事業の実施等を通じて都市計画の内容を効果的に実現するという点からも不可欠である。
 このような考え方の下に、都市計画における権限配分、国の関与等について今後も国と地方の機能分担等の基本的枠組みを踏まえつつ適切に見直し、可能な限り国から地方へ権限委譲を進めるとともに、都道府県・市町村間の機能分担等についても地方公共団体の規模、行財政能力に応じた権限の配分を進める必要がある。
 また、具体の都市計画の決定に当たっては、住民の意向を十分に尊重し、的確に反映させる必要がある。特に近年、住民のまちづくりに対するニーズの多様化等を背景として、都市計画に対する住民参加の要請が一層高まってきている。このため、基礎的自治体である市町村が、地域に密着した都市づくりを行う観点から、地区ごとの将来のあるべき姿を明示し、主体的に都市づくりを行うための、市町村による都市計画のマスタープランを創設することが必要である。この場合、住民参加の仕組みを導入するとともに、都道府県ごとに設置されている都市計画地方審議会に加えて、市町村に設置されている審議会の機能の充実によりその積極的活用を図ることを検討する必要がある。また、都市計画を地域社会に円滑に、かつ的確に定着させるため、民間に広く存在する都市計画に係る人材を活用する方策について検討する必要がある。

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