宅地審議会第六次答申(1967年3月24日)

都市地域における土地利用の合理化を図るための対策に関する答申


文章中に太字で示した部分が数ヶ所ありますが、これは、答申が三大都市圏を主眼に書かれていることを示すためであり、当初の答申文で強調されていたわけではありません。

まえがき

 先に宅地制度審議会は、宅地問題の根本的解決を図るためには土地利用計画を確立する必要があると認め、都市地域におげる土地の合理的利用のための市街地の開発整備の方向について答申した。(「都市地域における土地の合理的利用のための市街地の開発整備に関する答申」昭和39年3月31日宅地制度審議会第五次答申)また、当審議会においても、先に現在の地価問題を解決するためには大量の宅地供給の対策が必要であり、その前提として合理的な土地利用計画の確立が基本的課題であることを指摘した。(「地価対策についての中間答申」昭和40年12月15日宅地審議会第三次答申)
 さらに当審議会は、都市周辺部における無秩序な市街地の拡大を防止し、良好な都市水準を確保しつつ望ましい都市形態を実現するため、都市地域における土地利用の合理化のための方策を確立することが現下の急務であることを認める。よって、当審議会は、昭和40年12月以降土地利用部会を設置し、検討を重ねた結果、以下に述べるような土地利用計画の策定、開発許可制度の創設、都市施設整備のプログラムとその責任分担の原則の確立等都市地域における土地利用の合理化を図るための対策について結論を得たので、ここに建設大臣に答申することとしたものである。
 なお、当審議会は、ここに提案する土地利用計画を基礎として、地価安定と宅地供給の確保のための具体的方策を早急に講ずる必要があると認める。当審議会は、未曽有の都市化が進行しつつある現状にかんがみ、政府がこの答申に基づいて、万難を排し、すみやかに立法上、財政上等所要の措置を講ずることを要望する。

都市地域における土地利用の合理化を図るための対策について

第一 問題の所在と対策の方向

1.問題の所在(都市地域における土地利用の混乱の現状とその原因)

(1)近年における高度経済成長と産業構造の高度化に伴い、人口が大規模かつ急速に大都市地域を中心とする都市に集中し、広範にいわゆる都市化現象を呈している。この激しい都市化の傾向に伴って、都市とくに大都市地域においては、種々の目的から土地に対し厖大な需要を生じ、地価の騰貴、土地利用の混乱等を生ずるに至っており、市街地外周部において無秩序な市街化の弊害を生じ、既成市街地内部においては都市環境の悪化、都市公害の深刻化等の問題を生じている。
 とくに、都市の周辺部においては、開発に適しない地域において、いわゆる”バラ建ち”のごとき単発的開発が行なわれ、農地、山林が蚕食的に宅地化されて無秩序に市街地が拡散し、必要最低限度の都市施設である道路、下水をも備えないような不良な市街地が形成され、あるいは住宅と工場との混在を呈し、都市機能の渋滞、都市環境の悪化、公害の発生、公共投資の効率の低下等の弊害をもたらしている。

(2)このような単発的開発によるスプロール現象は、(イ)市街地の開発が地価の動向に引きまわされたため市街地の拡大に計画的な方向を与えられなかったこと。(ロ)道路、配水施設等市街地として必要な最低現度の基礎的施設さえ備わっていない土地であっても宅地として市場性をもち得るということ。(ハ)このような宅地としての最低限度の要件を備えていない土地に対しても、電気、ガス、水道等のサービスを供与し、さらに道路、下水道等の公共施設を追いかけて整備することが公共の責任に転嫁されていること等、現在のわが国の社会的経済的な背景に起因するところが大きいと認められるが、いわゆる”ブランク・エアリア”における開発行為に対する有効な規制等市街化を計画的に誘導する法的手法に欠けていることが直接の原因であると認められる。

2.対策の方向(土地利用計画の確立)

 このような都市地域における土地利用の混乱を収拾して、その弊害を除去し、都市住民に健康で文化的な生活を保障し、機能的な経済活動の運営を確保するためには、各種の目的からする需要が限られた土地の上に競合する都市地域においては、土地の利用は、土地所有者の恣意にまかせず、公共の利益のため一定の制限のもとにおかれるのが合理的であるとの基本理念のもとに、合理的な土地利用計画を確立し、その実現を図ることが必要である。
 このような要請に応える土地利用計画は、したがって、単なるマスタープランであってはならず、現実の都市地域における都市空間の整備を図るための法的規制力をもった計画でなければならない。土地利用に関し法的規制力と執行力をもった計画としては、都市計画があるが、現行の都市計画の用途地域制は都市周辺部における無秩序な市街化を抑制するためには極めて無力であるので、都市地域全体の合理的な都市機能の配分、適正な都市形態の形成を担保するための土地利用計画とその実現を担保するための手法を都市計画の制度として確立する必要がある。
 なお、土地利用に関する計画としては、全国総合開発計画、首都圏整備計画等地域開発に関する計画としての国土計画又は地方計画があるが、これらは地域開発に関する指針を与えることを本来の性格とし、都市計画の上位計画たるべきものである。したがって、都市計画としての土地利用計画は、これらの計画に従って策定されることが当然に必要であり、あわせて農村計画との合理的な調整を図ることも必要である。
 ところで、現在、都市地域における土地利用計画に課せられた最大の課題は、急速な都市化に伴う土地利用の変革に対処することであり、特に都市化が予定される地域を含む一定の都市地域について、無秩序な市街化を抑制し、良好な都市水準を確保しつつ、望ましい都市形態を実現することである。そのためには、一定の都市地域について、総合的な土地利用計画を策定し、開発許可制度によって土地利用を規制、誘導する一方、都市施設整備のプログラムを確立し、その責任分担を明確にすることにより、秩序ある市街地の開発を促進する等の措置を講ずる必要がある。

第二 都市地域における土地利用の合理化のための制度的措置

1.土地利用計画の策定

(1)基本的な考え方−急激な人口産業の集中を受け容れつつ、秩序立った都市形成を支えるためには、具体的に土地利用計画を策定するに当り、将来一定の期間内に市街化する可能性のある都市地域について、将来形成されるべき都市形態を想定し、公共投資の効率性、都市における人口及び産業の動向、通勤及び輸送、生産、居住、営業、レクリェーション等の用途及び密度の適切な配分等を洞察しつつ、優先的、かつ、積極的に市街化すべき地域と、当面できる限り市街化を抑制すべき地域に分けて、段階的な市街化を図ることができる方途を講ずる必要がある。
 一定期間内に積極的に市街化すべき地域においては、公的機関及び民間による市街地の開発を計画的に行なうとともに、公共投資を集中的に実施することにより、宅地開発の圧力をこれらの地域に誘導し、吸収することとし、その他の地域については、この期間内は原則として市街化を抑制することとする。ただし、計画的かつ大規模な市街地の開発で、自ら必要な公共施設を整備する等市街地の無秩序な拡散による弊害を惹起するおそれが少いものは、これを許容し得ることとすることが適切である。

(2)地域ごとの対策−このような考え方から、都市地域を次に掲げる基準により、既成市街地、市街化地域、市街化調整地域及び保存地域に区分し、それぞれの地域ごとに土地利用の規制、誘導、都市施設の整備を行なうとともに、地域間の公平を図り併せて宅地供給の促進を図るため所要の税制措置を講ずるものとする。
(イ)既成市街地

 a.
都市地域内において既に連たん市街地を形成し、相当の人口密度を有する地域及びこれに接続して現に市街化しつつある地域を既成市街地とする。
 b.
既成市街地においては、激しい人口集中と都市活動の高度化に伴い、公共投資の相対的な立ちおくれと土地利用の変動により環境の劣悪化、都市公害等の問題が生じている。したがって、この地域については、公共施設の整備の促進、建築物の用途及び密度に関する地域制による土地利用の合理化を図るほか、とくに環境の劣悪な地区又は拠点的に重要な地区等について、再開発計画を定め、市街地再開発事業による市街地の更新を図ることが必要である。さらに、現行の用途地域制については、環境の純化を図り、公害を防止する等のためその内容を細分化し、合理化するものとする。また、良好な市街地の水準を確保するため、宅地造成、建築等の開発行為については、道路、下水の整備等に関し一定の基準を設けて、これに適合するもののみを許容するものとする。
 c.
この地域においては、未利用地の開発又は供給を促進するため、農地転用の許可を不要とし、農地についても宅地として評価して、固定資産税及び都市計画税を課するものとする。なお、一定の条件の未利用地について未利用地税を創設することを検討するものとする。
(ロ)市街化地域
 a.
一定期間内に計画的に市街化すべき地域を市街化地域とし、総合的な計画に基づいて用途地域の指定を行なうとともに、集中的に幹線的な公共施設の整備を公共の負担において先行的に行なうものとし、公的機関又は民間による市街地開発を積極的に導入するものとする。
 b.
市街化地域内においては、民間による開発を計画的に行なわせることとすることが必要であるので、宅地造成等の開発行為は、原則として、土地区画整理事業、相当規模の団地の宅地造成等計画的な開発に指向させるよう、必要な開発基準を設けて規制するとともに、建築行為はこのような良好な宅地においてのみ許容するものとする。
 c.
市街地開発を促進するため、固定資産税、都市計画税の課税、農地転用等については開発時期を勘案しておおむね既成市街地と同様の方策を講ずるとともに、計画的な宅地造成のために土地を施行者に譲渡した者及び区画整理施行ずみの土地を最終需用者に譲渡した土地所有者に対して、譲渡所得税の軽減の措置を講ずるものとする。
(ハ)市街化調整地域
 a.
市街化調整地域は、都市地域のうち既成市街地、市街化地域、保存地域以外の地域であって、一般に市街化の構想が未定であり、したがって、段階的、計画的市街化を図るために一定期間市街化を抑制又は調整する必要がある地域をいうものとする。したがって、この地域においては、市街地の開発をできるかぎり抑制することを基本方針として対策を講ずるものとする。
 b.
市街地として開発するために必要な公共投資は、原則として、行なわれないものとし、開発行為は原則として認めず、自ら必要な公共施設を整備して大規模な市街地を計画的に開発するもの−都市の秩序ある発展を阻害せず、かつ公共投資の負担を生ぜしめるおそれのないもの−のみを例外的に許容し得ることとするものとする。
 c.
できる限り開発を抑制するため、開発を許容された例外的な場合のほかは、電気、水道、ガス等の供給義務を排除するとともに、農地の転用は、原則として、認めないものとし、都市計画税は、開発が許容された土地を除き、課税しないものとする。
(ニ)保存地域
 a.
土地の形状等からみて開発することが困難な地域、歴史文化、風致等からみて保存すべき地域又は広義の緑地として保存すべき地域を保存地域とし、この地域については原則として開発を抑止するものとする。
 b.
市街地としての開発を抑止されることにより、土地の利用に著しい支障を来すことになる場合において、特に必要があると認める場合は、地方公共団体は申出により、当該土地を買い取る等の措置を講ずるものとする。
 c.
固定資産税等の軽減の措置を講ずるものとする。

(3)地域区分の適用範囲等このような地域区分は、一般的には、すべての都市について必要であるが、現在、このような対策が緊急に要請されているのは人口及び産業の集中の著しい都市地域であって、当面、東京、大阪及び名古屋周辺等緊急に対策を必要とする地域から順次適用すべきである。
 なお、これらの地域区分は、の(1)で述べるように、実質的な都市を単位とした区域ごとに行なうこととすることが、計画策定の手続、規制の主体等の面からも適当である。

2.開発許可制度の創設

 都市地域における良好な都市水準の確保を図りつつ、適正な都市形態の実現を図るためには、都市地域における建築行為、宅地造成等一定の開発行為について開発許可制度を創設し、上記の地域区分ごとにで述べた対策に即応して設定する開発許可基準により、これらの行為を規制し、又は誘導する必要がある。
 この場合の許可は、土地利用計画の策定権限を有する者が行なうことを原則とするが、許可事務の円滑化を図るためには、必要に応じて、市町村に事務の委任をすることができることとすることが適当である。このような開発許可制度の創設にあたっては、開発行為が不許可とされたことにより損失が生じた場合において、これに対する補償をすべきか否かが問題となる。わが国の都市化の現状にかんがみるとき、長期的かつ、総合的見地から土地利用の合理化を図るため確立し、住みよい、働きよい良好な都市環境と都市機能を計画的に形成することは、市民全体の利益であるとともに、国家的要請でもある。このような要請に応えるための開発行為の規制は、公共の福祉を確保するためにするものであり、かつ、それにより現在の利用に対して新たな特別の犠牲を負わしめるものではない。したがって、こうした公共の利益のためには、財産権の行使は、相当の制約を免れることはできないと考えるべきであり、原則として、これに対する補償の必要性はないものと考えるべきである。
 しかしながら、その公正を確保するためには規制の手続において適正な配慮がなされていることが必要であるので、処分又はそれに対する不服申立についての判断機関の設置等の措置を検討することが必要である。

3.都市施設整備のプログラムとその責任分担の原則の確立

(1)従来、わが国では一般的に市街地形成の基盤である街路、排水施設等の都市施設の整備は、末端の支線にいたるまですべて公共団体の責任と負担において実施されるべきであると考えられ、このため、一方では効率性の低い追随的な公共投資を強いられ、全般的に都市施設整備の著しい立ち遅れをもたらすとともに、都市施設整備に伴う開発利益が大部分土地所有者に帰属し、社会的不公平をもたらしている。一定の都市施設を備えた市街地の形成と開発利益の帰属の公平を図るためには、公共団体と開発者とがその整備の責任と負担とを合理的に分担するという原則を確立する必要がある。

(2)幹線道路、下水道幹線等の整備に関する公共投資は、現在その整備が立ちおくれている既成市街地内において継続的に実施することはもちろんであるが、上述の如き責任分担の原則を確立するという趣旨を実現するためには、市街化地域に集中的、先行的に実施するものとし、これを道具として秩序ある市街地の形成を積極的に促進する一方、市街化調整地域においてはこれらの公共投資は、原則として、行なわないものとし、無秩序な市街地の膨脹を抑制するとともに、追随的公共投資を予防し、公共投資の効率性を確保する必要がある。

(3)

(イ)
まず市街化地域については、市街地形成の根幹となるような幹線道路、下水道幹線等は国及び地方公共団体がその負担において整備し、これらの幹線に接続する支線的な道路、排水施設等は関発利益の帰属の公平と公共投資の効率を維持するため、開発者の負担において整備するという原則を確立し、これを開発許可制度における許可基準に合わせて明確化する必要がある。
(ロ)
このためには、国及び地方公共団体は、幹線的施設の整備のプログラムを策定し、それに従って整備事業を確実に執行すべきものとする体制を確立する必要があり、そのために必要な財政措置を講ずるため、特段の配慮をすることが不可欠の要件である。
(ハ)
なお、幹線施設の整備計画が定められても、その実施が開発とのタイミングに合わないような場合の調整方法として、当該開発者が施設の予定地を確保し、又は自ら整備して一般の用に供する等の場合には、地方公共団体が、これらの施設予定地又は施設について将来の一定の時期にその土地及び管理を引き取ることとすることが適当であり、また、その間、これらの土地に係る固定資産税等の減免措置を講ずることが適当である。

(4)次に市街化調整地域においては、支線的施設のみならず、幹線的施設についても開発者の責任と負担において整備し、一定の時期に公共団体の管理に移すことが必要であると認められる。

4.土地利用計画策定の手続

(1)都市地域における土地利用計画は、現在及び将来における都市の機能を確保し、発展の動向を定めるものであるから、その策定に当っては、都市の行政上の単位である地方公共団体の立場が充分に尊重されなければならず、このことは土地利用の規制、事業の実施等を通じて土地利用計画の内容を効果的に実現するという現実の要請に応えるためにも必要である。しかし、近時の都市の発展に伴い、各都市が地域的にも機能的にも有機的に密着するに至り、広域的立場からの調整ないし計画の策定が必要となっている現状にかんがみ、都道府県又は国の立場からの広域的調整を図ることができる措置を講ずることが必要である。さらに、土地利用計画は、市民の財産権に対し相当の制約を加えるものであるから、その内容の妥当性を確保するために、国の立場から充分にチェックすることが必要である。

(2)以上のような諸要請を充分に配慮しつつい効果的な土地利用計画を策定する手続としては、広域的立場からの配慮をする能力を有する都道府県知事が計画の決定を行なうこととすることが妥当である。そして、この場合においては、地元の地方公共団体の立場を尊重する趣旨から、関係市町村の意見をきくものとするとともに、計画の内容の合理性を確保するため都市計画審議会の議を経なければならないものとすべきである。
 ただし、一定規模以上の市については、案の作成は当該市の市長に行なわせるものとし、その上で、知事が広域的立場から調整を図りつつ、計画の決定を行なうこととすることが妥当である。
 なお、国の立場からの調整を必要としない一定の場合を除き、計画の決定については主務大臣の認可を要するものとすべきである。

(3)土地利用計画は、良好な都市環境と円滑な都市機能の確保を目的とし、都市住民全体の利益の増進を図るものであり、市民生活に密着するものであるので計画の決定に当っては、公聴会、説明会の開催、意見書の提出とその公正な処理等、一般住民の意見を充分に反映させる手続を経ることにより、計画の合理性と実効性を担保する仕組を確立することが必要である。また、土地利用計画は、土地所有者等の利害に影響を及ぼす場合もあるので、関係権利者の不服の処理について適切な手続上の配慮をする必要がある。
 かくして決定された土地利用計画の内容は、図面、図書等の適切な表示形式により、常に一般市民にその内容を周知せしめる措置を講ずることとする必要がある。
 さらに、土地利用計画の内容については、一定の期間ごとに基礎調査を行ない、それに。基づいて必要な補正を行なうこととすることにより、その内容をできる限り新たな都市発展の動向に適応させるものとすることが必要である。


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