ドイツまちづくりＱ＆Ａ　 大型店と商店街

　日本では、日米協議の影響で「大規模小売店舗法」が弱体化させられて郊外に大型店の出店が続き、さらに法律の枠組みが「大店立地法」に変わってしまいました。一方、ドイツは「大型店を都市計画的に規制している」ことで有名で、同時に商店街活性化への努力も行っています。そこで、大型店規制の違いや商店街の説明を試みることとしました。

なぜドイツでは郊外型大型店を規制しているのですか。 どのような都市計画の手法で規制しているのですか。 各地で大型店が建設されているのは、大型店を認めるＢプランが策定された結果ですか。 自治体が大型店を認めることにすれば、隣町が反対しても建設できるのですか。 オーバーハウゼンに大規模ショッピングセンターが開店できたのはどうしてですか。 オーバーハウゼンの既存商店街で、活性化の問題は起きていませんか。 商店街では車の締め出しが進んでいるそうですが、具体例を教えて下さい。 ◆シュツットガルト都心 アメリカに対してドイツも輸出超過のようですが、アメリカから規制緩和の要求はなかったのですか。 日本の旧大規模小売店舗法は憲法違反と言う説もありましたが、ドイツの規制はどうですか。 他のヨーロッパ諸国にも似たような規制があるのでしょうか。 ドイツの大型店規制の特徴を日本と比較してまとめると、どうなりますか。 上の表にある「扱い品目による売場面積の制限」とは何ですか。 もっと詳しく知りたいのですが、何かいい資料がありませんか。 大型商業施設の広域調整は州で差があるそうですが、新しい動きはありませんか。

• 日本の「用途地域」と同じように、ドイツでもバウゲビート(Baugebiet，用途地区)で建物の用途を規制しています（実は、用途規制の手法はドイツで生まれたものなのです）。日本にも用途地域によって建てられる店舗の延べ面積に制限がありますが、ドイツの制限はさらに強く、建築利用令第11条第３項により、延べ面積が 1,200 ｍ²を超える店舗を建築できるのは、中心地区（ほぼ日本の商業地域に相当する）と、大型店のための特別地区に限られています。 1,200 ｍ²という規制値は1986年の改訂後のもので、1977年の建築利用令で初めてこの種の明確な制限が誕生した際の基準は 1,500 ｍ²でした。バウゲビートは自治体の議会が定めるＢプラン（地区計画）で決められるので、自治体が「大型店は中心商店街にしか認めない」と考えれば、郊外に大型店が進出することは不可能になるわけです。（96.12.23／00.02.26更新）

• そうとは限りません。実は、上で説明したのはあくまでも「原則」に過ぎず、原則には例外が付き物です。たしかに、大型店を積極的に許容してきた自治体もありますが、制限的に扱おうとしている自治体においても、大型店を建設できる可能性が残されています。大きな問題とされているのは、次の２つのケースです。
• ドイツにおける建築許可は、Ｂプランに基づくことを理想としていますが、現実にはそうはなっていません。「建築許可とＢプラン」で、建築許可には４つのケースがあることを説明しましたが、最も問題なのが「連たん市街地」です。ここでは、周囲に現存している建物を基準に許可が判断されます。したがって、Ｂプランのない既成市街地に大きな店舗がある時には、その周囲に大型店が建築を申請してきた場合は、許可されていました。これでは困るので、2004年の建設法典改正で、「当該自治体またはその他の自治体内の中心的な供給地に悪影響が見込まれてはならない」という規定が追加されました。今後、この規定がどのような効果を発揮するのか、観察していきたいと思います。
• もうひとつが、「古い建築利用令に基づくＢプラン」の問題です。日本では、用途地域の制度が変更された場合、施行と同時に全国一律に適用されます。ところが、地区毎に検討して決定されたＢプランの場合は、そうはいきません。大型店を制限している建築利用令を適用するには、その建築利用令に基づいてＢプランを策定し直すことが必要です。現在のような大型店規制を含んだ建築利用令が定められたのは、1977年のことです。したがって、1962年や1968年の建築利用令に基づいて定められたＢプランがある工業系の地域では、自治体が大型店を許容したくないと考えていたとしても、許可せざるを得ないのです。工場が撤退した跡地に大型店が進出する例が各地で見られるのは、これが原因です。なお、この問題は旧東ドイツ地域にはありません。
• このように、「連たん市街地や古い工業系Ｂプラン地区への大型店の立地では、規制が緩くなる例が多い」ことがドイツの悩みです。「新たなＢプランを策定すれば簡単ではないか」と感じた方もいらっしゃるだろうと思います。しかし、事態はそれほど単純ではありません。Ｂプランの策定には十分な準備と費用が必要なので、それほど簡単には進みません。また、連たん市街地の範囲は建築によって拡大するので、見逃してしまう場合もあります。しかも、すでに大型店が進出している地区やその周辺に新たに大型店が建設できなくなるプランを定める場合は、土地所有者から補償要求が出される恐れもあります。このような事情が、新しい建築利用令に基づくプランを策定することに対する障害となっているわけです。（00.02.26／05.10.15最終更新）

• 市町村に計画の権限があるドイツでは、都市計画を定める際には隣接市町村に案を示し、意見を聴かなければなりません。ただ、隣接市町村の意見も「考量すべき多くの利害のうちのひとつ」に過ぎないので、反対されたら決められないわけではありません。大型店を誘致する利益の方が重要だと判断されたらそれまでです。それでは、自治体は、自らに与えられた計画権限の威力により、どんなに巨大な店舗でも誘致できるのでしょうか。
• 建設法典は、このような広域的な問題に対処できる可能性を二つ提供しています。一つは第１条４項の「地域計画の目標」への適合で、もう一つは第２条２項の「近接自治体間の調整」です。自治体間の紛争において、当初は地域計画への適合条項の利用が試みられましたが、現在では自治体間調整による対応が基本となっています。
• まず「地域計画の目標」への適合から説明しましょう。ドイツでは、市町村に計画権限を認めた代償として、広域に関して計画を立てる地域計画が発達しています。地域計画制度の細部は州法で定められるので、州によって実態に差がありますが、都市州を除いたすべての州は、「中心地形成」の考えに沿い、広域的な意味のある市町村を「上位中心」や「中位中心」として定めています。これは、中心地を段階的に網のように構成して人々への供給を保障しようというもので、上位中心や中位中心の市町村は、各種の商品を提供する大型店が立地する適地となります。
• よく問題となるのが、「中心性が低い自治体が大型店を許容するＢプランを定められるか」です。隣接する小規模自治体が大型店を誘致するためにＢプランを定めた場合、購買力の流出を恐れる上位や中位中心都市が中心地形成を理由に訴訟で争うことが見られました。しかし、「上位中心や中位中心都市に指定されたことによる利益は、自治体にとって単に反射的なものに過ぎず、法的に保護された権利ではない」として、この種の訴えは連邦行政裁判所で否定されてしまいました。実は、下級審では、訴えを認めた判決もかなりありましたが、連邦行政裁判所の判決でこの考えは通用しなくなったわけです。
• 中心地形成に代わって注目されてきたのが、近接自治体間の相互調整義務です。最近になり、大型店進出による影響調査を根拠に、この問題に対して「商店街全体としての売上減少10％」という目安が提唱されています。ただ、この10％ラインは「これを超えたら侵害となる」ラインではなく、「これ以下なら権利の侵害は認められない」という値です。売上減少がどの程度なら受忍限度を超えるかは、個別事情で異なるでしょう。また、この10％ラインは商店街全体に関するもので、特定部門の売上ではありません。個別部門の売上が減少しても、商店街全体が苦しむわけではないので、都市計画的な影響とは言えないわけです。
• ここで、1997年の建設法典改正に触れておきたいと思います。従来は、Ｂプランを策定や変更する際は上級官庁に届出ることが必要で、不十分な点を指摘された場合は発効させることができませんでした。ところが、1997年改正は、Ｂプラン策定の迅速化を主な目的に、Ｆプランから展開したＢプランについて上級官庁の関与を廃止しました。建設法典改正を検討した審議会は、欠陥のあるＢプランが多いことを理由に届出手続の廃止に反対し（BT-Drucksache, 13/6392）、改正に反対したSPD（ドイツ社会民主党）も、連邦参議院の優位を背景に、届出期間を短縮する妥協案を提案しました。しかし、政府とCDU/CSU（キリスト教民主同盟／キリスト教社会同盟）は、Ｆプランと上級官庁による二重コントロールは不要で、Ｆプラン強化も目ざしていると主張し、押し切りました。
  同じＦプランから展開できるＢプランは、ひとつには限られません。住宅地開発のように影響が狭域に止まる場合は問題が少ないでしょうが、広域的な影響を有する大型店進出は別です。大型店の影響は規模や商品によって異なりますが、Ｆプランはこの影響力を区別する精度を有していないのが普通です。税収増を求めて大型店の誘致を目ざす自治体もあるので、Ｂプラン届出制の廃止は大型店問題に大きな影を投げかけています。
• このように、大型店問題についての広域調整にはいろいろ問題が残されています。そこで、2004年の建設法典改正で、地域計画の目標によって割り当てられた機能、ならびにその中心的な供給地への影響を根拠に、隣接自治体が策定するプランに意見を出せるようになりました。この改正がどのような効果を発揮するのかは未知数ですが、これまでより自治体間の調整が重要になることは確実です。最近は、「地域計画レベルで商業構想を作成しよう」という動きが見られたり、「大型店問題に対処するには、自治体の計画権限を一定程度制限することもやむを得ない」という議論が聞かれるようになっており、「大型店問題はドイツの地域計画を大きく発展させる契機になるだろう」と期待しています。（97.08.18／05.10.15最終更新）

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オーバーハウゼンに大規模ショッピングセンターが開店できたのはどうしてですか。

• 私も驚きましたが、1996年９月に、ルール地方のオーバーハウゼン市に「ツェントロ」という大規模なショッピングセンターが開店しました。進出した場所は、83haの規模を有する製鉄工場跡地で、売場面積は７万ｍ²です。10,500台の無料駐車場が設置されており、近くにあるアウトバーンの出口は４車線に拡幅されました。しかし、同時に公共交通も整備されています。まず路面電車が復活され、多数のバス路線も新設されており、平日の昼間は各方向とも90秒に１回は路面電車かバスが来るように計画されています（土・日曜は少し頻度が減ります）。たしかに、ひっきりなしにバスが来て、多くの人が乗降しており、「３人に１人は公共交通で来ている」という説もうなずけます。
• ルール地方はかつての重工業地域で、近年は工場の閉鎖が相次いでいます。オーバーハウゼンもそのひとつで、大規模な工場跡地を有しており、コンピュータ産業の誘致や公園化が図られた跡地もあります。その中でも、地理的に市の中心部にある巨大な製鉄工場跡地が大規模ショッピングセンター「ツェントロ」を中心とする新都心（ノイエ・ミッテ）に変身したわけです。実は、オーバーハウゼンは合併を経験しており、ツェントロは旧オーバーハウゼン市の北端で、合併したシュテルクラーデおよびオスターフェルトとの境にあり、市全体のちょうど中央部に位置しています。このツェントロ（centro）は、もともと中心や中心街を意味するイタリア語なのですが、オーバーハウゼンのツェントロは centro. と書きます。o. が強調されてピリオドがついているのは、オーバーハウゼンの頭文字だからです。だから、centro. は「センター・オーバーハウゼン」、つまりオーバーハウゼンの新都心を暗示しています。
• 「ツェントロ」開店には前史があり、はじめはカナダの投資家が、売場面積15万ｍ²の開発を提案し、州に対しても用地の無償提供や減税を求めました。しかし、地域計画の目標に反するとして周辺の市が反対し、州も計画に同意しませんでした。その後、イギリスの投資家が提案してきたプロジェクトが、「ツェントロ」として実現しました。オーバーハウゼン市は面積77ｋｍ²、人口22万人で、地域計画的な位置づけは「中位中心」です。「上位中心」都市に隣接しており、市内の購買力が流出し、商店街の発達は十分ではありません。そこで、市は、購買力の流出を調査した上で、「計画している７万ｍ²の売場面積は、市外への購買力流出を防ぐために必要なものであるに過ぎない」と主張しました。さらに、周辺都市の商店街で予想される売り上げ減少を予測し、「せいぜい３％台のマイナスしかなく、大した影響ではない」と発表しました。周辺の市は、オーバーハウゼンが示したコンサルタントの報告書を検討し、反論しましたが、オーバーハウゼン側の主張を否定することはできませんでした。
• さらに、周辺から交通混雑を心配する声も出されましたが、既存の都心と結ぶＬＲＴ（都市鉄道）を建設し、アウトバーンの出入口も拡幅することを約束しました。こうして、州から計画の認可を受けることに成功しています。なお、州は、ルール地方の再生のためとして、工場跡地の更地化と、工場設備のうちまだ使用可能なものの補償のため、多額の資金を提供しました。また、ＬＲＴの建設には、「路面電車について」に説明している連邦補助金が使用されています。
• 「ツェントロ」には、600ｍ近い長さの２層吹抜モールに面して約200の店舗が並んでいますが、ここは単なる大型ショッピングセンターではありません。「コカコーラ・オアシス」という名の円形ホールには20を越えるファーストフード店が並び、マルチシネマもあり、「プロムナード」と呼ばれる長さ400ｍの水辺空間には計28のレストランやゲームセンターが並び、日本からナムコも出店しています。さらに、11,500の座席をもつアリーナ（ドーム、と言った方がいいかもしれません）、８haの公園も建設され、ビジネス地域も全体で11ha予定され、すでにホテルや「ツウィンタワー」と呼ばれる貸オフィスが建設されています。旧来型の工業を失った市が、市の発展のために必死の努力で建設したということが良くわかり、今後、市の発展の原動力となるに違いありません。たとえば、スマートという名称が付けられた２人乗りの超小型シティー・カーのドイツ初の販売センターが1998年に建設され、その後もミュージカルを上演する劇場ができたり、ヘルスランドが進出したりと、市発展の原動力となっています。たしかに、ここは「オーバーハウゼンの新都心」です。（98.10.07／01.08.11更新）

• たしかに、ドイツの都心や副都心などの商店街では、道路を歩行者専用空間化して車を締め出したり、公共交通だけが走行できるトランジットモールにしているところを多く見ることができます。これは、買物環境を良くして、人々に街をぶらついてもらおう、という趣旨のものです。大都市では、路面電車を地下に入れて歩行者空間にする例も多く、私が学んだシュツットガルトもそのひとつです。駅前から伸びるケーニッヒ通りの写真がありますので、ここに示しておきます。
• 歩行者空間がドイツ全土に拡大するきっかけとなった都市は、ミュンヘンでしょう。ミュンヘンが都心を歩行者空間に改造したのは、1972年のオリンピックの時です。オリンピックを目ざして地下鉄の工事が進められ、それまで路面電車が走っていたカールス門から市役所までが歩行者空間に改造されました。このホームページにも紹介しているブーザーさんの話によると、商店街は歩行者空間化に反対だったそうです。しかし、実施してみると歩行者の通行が増え、売上の増加にも貢献したので、その後ドイツ各地の商店街に歩行者空間が拡大する一因となった、という話しです。この歩行者空間化には、1960年からミュンヘン市長を務めていたフォーゲルも関係しています。フォーゲルは「変転する都市」という本を著す等、都市問題に理解が深い市長で、後に連邦大臣も務めたはずです。
• もちろん、都心の買物通りから車をなくす動きは古くからあり、ミュンヘンが初めてではありません。ケルンのホーエ通りは、60年代末に私が訪問したときは既に歩行者空間になっていました。この通りはかなり狭いので、商店街側からのイニシアティブで歩行者空間になった可能性もあります。ルール地方で「買物都市」を自称しているエッセンは、1959年から都心商店街の歩行者空間化に取り組んでいます。
• 中心市街地等の歩行者空間化が推進されている背景として、自動車燃料に課せられる石油税を原資とした自治体の交通投資への補助金制度があることも重要です。都心の歩行者空間化は、公共交通の地下化、あるいはトランジットモール化と同時に行われることが多いからです。路面電車を地下に移すことで実現したシュツットガルトの歩行者空間も、この補助金なしには無理だったはずです。
• ただ、買物空間では車から脱する動きが多く見られる一方で、都市全体としては車への依存が強くなっているのが現実です。歩行者空間化されたのは商店が並んでいる部分だけで、都市交通の主体は車です。もちろん、路面電車等を活用した「パーク・アンド・ライド」も進められていますが、自宅を出る際には車に乗っているわけで、「都市を拡散させ、マイカー社会を進めている」という批判が出されています。ミュンヘンの歩行者空間も、戦災復興の際に計画された都心環状線が完成していたから可能だった、という面があります。「環境都市」として有名なフライブルクの場合も、都心を囲む道路沿いに数千台分の駐車場が建設されています。また、先進的に歩行者空間化を進めてきたエッセンでは、都心商店街の売上減少が止まらないので、1999年には駐車場の料金を安くしたり、商店が閉まる午後８時以降に一部で車の乗り入れを認める等、方針を一部修正しています。
• このように、車の扱いは市町村の政治にとって重要な問題で、市議会などで広く議論されており、いろいろな動きがあります。ミュンヘンの場合は、まちづくりの知識を有した人たちがボランティア的に活動していることで有名な「ミュンヘン・フォーラム」があり、住民運動が盛んなことが車社会が進行することに対する歯止めとなっています。市長が先頭になって公共交通を推進しているハイデルベルクでも、車で来る客に期待している商店街とよく摩擦が生じています。ただ、車の問題が重要な課題としていろんな場で議論されていることだけは、日本と違うようです。（00.11.23／02.12.09最終更新）

• 1980年に登場したレーガン政権の「強いアメリカ、小さい政府」という規制緩和政策の恩恵を受け、日本とドイツの貿易黒字が拡大しました。そこで、アメリカは両国に規制緩和を要求するようになりました。ドイツのコール政権は、日本の中曽根政権と同様にレーガン政権と親しくしていましたが、1985年のボンサミットでは準備段階から貿易不均衡が大きな問題となりました。ドイツの都市計画法である連邦建設法が1986年に急いで「建設法典」に模様替えされたのもこの影響で、都市計画のいくつかの面で規制が緩和されました。しかし、こと大型店に限ると事情は異なり、建設法典は都市計画にあたって考慮すべき点を列挙した第１条第５項の第８号に、「人々の居住地近くにおける供給のための中小企業構造」を付け加え、むしろ規制を強化しています。アメリカがドイツの大型店規制を問題としなかったのは、都心商業地では大型店を建築できるので、全域にわたって大型店を規制している日本とは事情が異なるからでしょう。実は、アメリカ自身、都市計画の用途規制を細かく行っていることで有名で、大型店の進出をめぐって紛争も生じています。だから、大型店を用途として規制していることを「貿易障碍」だと問題にすることはもともとできない相談だったわけです。
• 日本の「大規模小売店舗法」は、これとはかなり趣旨の異なる法律で、百貨店法を受け継いだものです。百貨店法は戦前の1937年に制定されていますが、独占禁止法の制定に伴い、ＧＨＱ、つまりアメリカの指示で一旦廃止されました。しかし、百貨店への反対の高まりで1956年に再び制定され、中小店舗をまもることとなりました。その後、スーパー等の脱法的な行為が増えてきたので、対策として1973年に大規模小売店舗法に衣替えされたわけです。アメリカから見ると、ドイツの規制は自国にある規制と同じ種類のものであるのに対し、日本の規制は占領時に廃止したはずのものだ、と見えるのかもしれませんね。（96.12.23）

• もちろん、各種の自由を保障している憲法に違反しないかが問題となり、裁判が起こされましたが、行政法に関する最終審である連邦行政裁判所は、1984年に「合憲」という判断を示しました。判決の理由は、この規制は一定の延べ面積を超える小売店舗を「用途」区分と認識し、用途地区毎に許容用途を示すという都市計画の手法を用いて、中心地区と大型店のために設定された特別地区以外で禁止したものなので、憲法の示す所有権の内容と限界を定める規制として適切である、ということです。原告は、自治体が大型店のための特別地区を指定しなければ大型店を締め出せることも問題にしましたが、工業地区を指定しないと公害の程度の大きな工場が立地できないのと同じだ、とかわされました。問題は、その規制が建設法典第１条に示された「都市の秩序ある発展および公共の利益に対応した、社会的に適正な土地の利用を保障する」ために適切かつ必要なものであるかどうかです。
• ただ、判決は、実状に即しない恣意的な決定は問題になると認めており、例えば既存商店の競争条件を保護することを直接の目的に大型店を規制する場合がそれにあたるとしています。日本の大型店規制は中小小売店の保護を考えた産業政策であり、この判決が容認できないと述べたものにあたります。日本とドイツの大型店規制方法は、互いに水と油の関係にあるものだと言えるでしょう。
• さらに、ドイツでは、先に述べた一般規制（延べ面積が 1,200 ｍ²を超える店舗は中心地区と大型店のための特別地区に限る）よりも詳細な規制をＢプランで地区に応じて定めることも可能です。これに関し、連邦行政裁判所は、1987年の判決で、「大型店という用途の下限面積は状況によって変動し得るが、売場面積で考え、本質的に 700�u以下にあるとは考えられない」、という趣旨のことを述べています。したがって、特別の事情がない限り、規制の境界として500 ｍ²や250 ｍ²を定めることはできません。なお、「延べ面積 1,200 ｍ²」という1986年の規制値は、売場面積 800 ｍ²に対応する値だと考えられています。（96.12.23）

• フランス、イタリア、イギリスなども、それぞれ大型店の規制を行っているそうです。たとえばフランスは、「ロワイエ法」という法律があることで知られています。日本経済新聞社編「大店法が消える日」(1990年)によると、規制の対象となる店舗は床面積 3,000 ｍ²以上、売場面積 1,500 ｍ²以上（人口４万人以上の市町村は若干厳しくなる）で、出店には県レベルの商業都市計画委員会の許可が必要です。審議では商工会議所が重要な役割を果たしていますが、商業立地を地域特性に応じて調整しようとする点で、立地を問わず問題にした日本の旧大店法とは性格が異なるようです。
• 日本が大店法を廃止するきっかけとなったのは、コダックによる日米フィルム紛争の過程で、大店法がＷＴＯ（世界貿易機関）のＧＡＴＳ（サービス貿易協定）に違反している可能性が高いと認めざるを得なかった結果です。そこで、このＧＡＴＳを批准しているかどうかが大型店規制のポイントになってくるわけですが、フランスとイタリアは批准していないそうです。だから、両国で規制が行われていることは確かですが、これを参考にできるかどうかは疑問です。
• イギリスはＧＡＴＳを批准しており、国が示したＰＰＧ（Planning Policy Guidance）を用いて、大型店を都心に誘導するようにしているそうです。ただ、Planning permission を核とするイギリスのまちづくりのシステムは日本とは大きく異なり、建築の可否が事前確定型でなく、申請を不許可にしても補償しなくていいそうです。だから、これも日本には参考になりにくいかもしれません。
• これに対し、ドイツはＧＡＴＳを批准しているそうです。また、まちづくりのシステムは確かに日本と違いますが、事前確定型のプランを有する点で共通しており、イギリスよりは近い位置にあります。最近、大型店規制に関連してドイツに関心が持たれているのは、この点によるものです。
• なお、ヨーロッパ連合を目ざしているＥＵでは、国による制度上の違いを少なくしようと努力しています。重要となってきている環境アセスメントについても指針があり、97年の春に、大規模小売店舗も公的アセスメントの対象にするという案がまとまりました。これを受け、ドイツでも、地域計画法の改正で延べ面積 5,000 ｍ²以上の大型店が環境アセスメントの対象となったので、農地や森林への大型店の進出は、この点からも進出にブレーキがかかっています。（97.08.18／05.10.15最終更新）

• 2001年の年末に、学芸出版社から『大型店とドイツのまちづくり−中心市街地活性化と広域調整−』という本を出版することができました。全体で256ページと、かなり分量のある本ですが、基本的にはこの「ドイツまちづくりＱ＆Ａ」の「大型店と商店街」を１冊の本に拡張したものだ、と考えていただきたいと思います。
• たとえば、あとがきに「ドイツのまちづくりから学ぶもの」として、日本との比較を述べていますが、そこには、このすぐ上にある「ドイツの大型店規制の特徴を日本と比較してまとめると、どうなりますか」を基礎にした表もあります。この表は、1999年12月にいただいた質問をきっかけに作成したもので、質問いただいた方に感謝しております。この他にも、本を書く過程で新たにわかったことをこのページに追加したり、本に収録するために「建設法典」のページに手を入れたりと、本の内容とホームページの間には深い関連があります。
• 『大型店とドイツのまちづくり』の「はしがき」や「書評」は、出版社のホームページに紹介されております。価格は2,700円＋消費税で、ISBN(図書番号)は"4-7615-2275-5"です。このホームページに説明しているドイツの大型店対策に興味を感じた方だけでなく、ドイツで具体的にどのようにまちづくりが進められているのか知りたい方、是非本を買って下さい！　よろしくお願いします・・ m(_._)m
• なお、この本は、私にとって「一晩で読める易しい本」なのですが、さすがにまだ「一晩で読んだ」という話しは聞いていません。むずかしい部分があるとしたら１章のはずなので、そう感じた人は２章以下を先に読み、必要に応じて１章に戻ることをお勧めします。（02.05.03／03.05.12更新）

• 上に紹介している『大型店とドイツのまちづくり−中心市街地活性化と広域調整−』は2001年に出版しており、「20世紀のドイツ大型店対策を説明している」と考えていいでしょう。紹介している都市では、その後も様々な動きが進行しています。しかし、都市計画、つまり市町村レベルの対処手法は、基本的に大きな変化はありません。
• 一方、地域計画レベルでの広域調整では、かなり大きな転換が生じています。ドイツでは、まず州が地域計画に取り組み、その後に連邦も参加しました。この結果、連邦はは「州の動きを追いかけている」面があり、具体的な地域計画の仕組みには州によっていろいろ違いがあります。
• 広域調整で転換を進めたのは、ドイツ南西部のバーデン・ヴュルテンベルク州です。まず2000年に新しい「州発展計画」の原案を公表しました。そして、その計画案に沿う形で、2001年には「地域計画法」を改正し、「大規模小売店指針」を示しました。新しい州発展計画は、僅かの修正を経て2002年に決定されています。
• この「計画」「法」「指針」の3点セットで、大型商業施設立地に関する目標が拡張されます。従来からあった「集中令」に、「統合令」、「一致令」と「侵害禁止令」が追加され、この4目標で広域調整が行われるようになり、すでに大きな効果が出ています。詳しくは、日本都市センターの機関誌「都市とガバナンス」第31号に掲載された「ドイツにおける大型商業施設の広域調整 − BW州における地域計画の転換」に、具体的に説明しています。ここにリンクを引いておきますので、ご覧ください。（19.05.02）